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19 冒険者たち

「なにソレ、酷い!」

 ベアトリスちゃん激怒!

「そんな面白いパーティー、どうして私だけ連れて行ってくれなかったの!」

 いや、あなたデビュタント前…。

「美味しい料理! お菓子!」

 すみません…。

「大体、私のデビュタントはどうなるの! ミツハが責任取ってちゃんと誰にも負けない凄いのにしてくれるの!」


 その後ベアトリスちゃんとの折衝の結果、ベアトリスちゃんのデビュタントにはエレクトリック・パレードと花火大会出店付き、が決定した。2年の間に忘れてくれることに全てを賭ける。

 そして夕食後に始まる尋問タイム。

 あの料理は何かね? あの絵は? 店で売ってるおかしな商品はどこから?


 ですよね~。


 で、言い訳タイム。

 あれは国の友人達が私が異国で不自由な生活をしているんじゃないかと心配して、偉い人達には内緒で個人的に船で送り付けてきた日用品。大量すぎて使い切れないので余ったものを売ることにしました。なんか友人達が次々と小型の高速船を仕立てているみたいで…。夜に密かに接岸して運び込んでいるようです、はい。


 …苦しいなぁ。今までの話と矛盾が出てくるかな。まぁ、『身バレ防止に若干のフェイクを入れています。矛盾があってもスルーでお願いします』ということで。

 あ、あまり突っ込まずスルー? 流石伯爵様、心遣いの人だよねぇ。

『どうせミツハだから』って何ですか。あ、何でもありません、すみません。


 その後、今までのことを色々と話し終えた後、みんなで馬鹿話。人造ゴーレム兵? なんですかソレ? え、私が言った? 知りませんよそんなモノ。製塩? これに関してはしつこいですね、伯爵様。え、領地、海に面してましたか、そうですか。今度ネットで調べてみます。

 え、アレクシス様、アデレートちゃんよりミツハの方が、って、頭沸いてませんか、年下のく、げふんげふん。こら、何さり気に後押ししてますか、伯爵様とイリス様は。あ、ここでテオドール様とベアトリスちゃんから物言いが入りました!

 もう遅いから泊まっていけ、ですか、はい、予想してました。じゃ、ワイン1杯飲んで、バタンキュー。


 翌日は、朝食を戴いたあと、早々に帰宅。いや、お店開けなきゃならないから。理由も無くサボらないよ、真面目な私は。



 天気が崩れてきた。しだいに雲が広がり、遂にポツポツと雨粒が。しだいに本降りになってきた。

 あれ、この世界で初めての雨? そんなに降水量少なくていいの? まあ、私が日本にいる時に降ったのかも知れないけど。

 こりゃお客さん来ないよね、傘なんて無さそう…って、そうか、私が売ればいいのでは! うん、考えておこう。


 ちりりん、ちりりん


 おおう!

 まさかの雨の中の来客!


「ごめんなさい、ちょっと雨宿りさせてね」

 あ、そうですか。でもいいよ、礼儀正しい人は嫌いじゃないから。美人の女の人だしね。

 全部で4人、って、これは!

「ぼ、冒険者!」

「「「「はぁ?」」」」


 雨宿りでお店に入って来たのは、4人の男女。

 大きめの剣を持った、がっしりした体付きの二十代後半に見える黒髪の男性。槍を持った二十歳過ぎくらいの痩せ形金髪男性。少し短めの剣を持った、二十歳前後の赤毛の女性。さっき声を掛けてきた人ね。そして15~16歳くらいの銀髪の女の子。背中に弓、腰には短剣。うん、ベアトリスちゃんよりは大きいし、アデレートちゃんと同じくらいかな。ちらりと胸を見て、なぜか仲良くなれそうな気がした。

 うん、このメンバー、この装備で、冒険者以外の何だと言うのか!!


「普通に、傭兵ですけど」

 ですよね~。


 4人は、あまり買う気はないものの礼儀としてか一応は商品を見て廻った。置いてあるものが予想外だったのか、結構楽しんでワイワイ騒いでいるようだ。そのうち、最年長の男性はナイフ、もうひとりの男性は調理器具、赤毛の女性はファンシーもの、銀髪の少女は便利道具と、それぞれのお気に入りのコーナーの前に陣取っていた。


「可愛いなぁ…」

 赤毛の女性が物欲しそうな目で可愛いものグッズを次々と手に取っていく。あまり高くないんだけど、まぁ、平時の傭兵さんが気軽に買うには厳しいか。

 雨脚はあまり弱まりそうにない。

 ミツハはお湯を沸かして紅茶とお菓子の準備を整えると4人に声をかけた。


「こちらでお茶でもいかがですか」

「え、いや、お金ないんで…」

 赤毛の女性、即答!

「いえ、サービスですよ。この雨でお客さんも来ないし、ずっとひとりで店番してて退屈なんですよ。話し相手になって戴ければと…」

「それなら喜んで!」

「あ、おい…」

 女性のあまりの調子良さに、年長の男性が苦笑した。

 結局、全員ミツハのお誘いに乗ってくれ、調理場のテーブル席に座ってくれた。


 4人は同じ村出身の傭兵で、27歳の黒髪の男がスヴェン、22歳の金髪の男がゼップ、21歳の赤毛の女性がグリット、そして16歳の銀髪の少女がイルゼという名らしい。ちなみに少女は魔術師というわけではなかった。残念。

 16歳のイルゼが傭兵というのは違和感を感じるが、それは偏見というものだ。村で食べて行けなくなれば、誰でも傭兵や盗賊になる。それに、今21歳のグリットにも16歳の頃はあったし、その時グリットも既に傭兵であったらしい。

 ここのところ戦争や地方での揉め事等も少なく、傭兵は商売あがったり、盗賊にジョブチェンジする者も決して少なくはないらしい。その中でこの4人は雑用や採取、狩猟等で細々と真面目にやっているらしい。しかし稼ぎは多くなく、贅沢どころか傷んできた武器の買い換えもままならない状況らしい。


「そういうわけで、欲しいものも買えなくてねぇ、悪いけど」

 グリットは申し訳なさそうな顔をしながら茶菓子をパクつく。日本製の饅頭は甘くて美味しく、お腹にたまる。イルゼももぐもぐと口いっぱいに頬張っている。男性陣も誘惑に勝てず遠慮しつつも次々と饅頭に手を伸ばしていた。


「遠慮しないで下さいよ。さっき言ったとおり、本当に退屈してたんで…。色々とお話を伺ってもいいですか?」

「話でよけりゃ、いくらでも!」

 ミツハは4人から様々な話を聞いていった。採取や狩猟、仕事を紹介してくれるギルド、旅の苦労や思わぬ楽しさ、将来の目的…。


(これだ!)

 ミツハはカネの臭いを嗅ぎつけた。

「あの、さっきのお話にあった傭兵ギルドって、誰の依頼でも受けてくれるんですよね」

「ああ、それが違法でなく、ギルドの規則に反さない限りはな。勿論紹介の手数料は取られるが」

 スヴェンが口に饅頭を含んだまま答えてくれた。

「指名依頼、ってのもさっき聞いたとおりですよね」

「ああ」

「じゃ、皆さん、私からの指名依頼を受けて貰えませんか?」

「「「「えええ~?」」」」


 ミツハの依頼とは、次に4人が採取・狩猟に出る時に同行させて貰い、その間のミツハの護衛とサポートを行うというものであった。そういう仕事をする者の役に立ちそうなもの、助けになりそうなものを探して仕入れたい、その勉強のために実際に自分の目で確かめたいと言うのである。


 ミツハの説明を聞き、4人は考えた。

 子供とはいえ、ミツハは立派な商店主である。そういう人が自分達のような者のことを考えてくれるのはありがたい。嬉しいと思う。自分達が行くのは王都からそう遠くない森で、危険も少ない。ミツハの護衛には何も問題はないだろう。自分達のいつもの稼ぎにも殆ど影響はない。せいぜいミツハの荷物を持ってやるとか、場合によっては疲れたミツハを背負うことになるかも知れないが、小さな女の子だ、大した重さでもない。

 そして何より、依頼料が確実にはいる。採取や狩猟は時の運、たまにはうまく行かないこともあるが、依頼料はギルドに事前預託、確実に受け取れる。契約失敗になる要素は殆ど無い。もしあれば、それは賊に襲われたりしてパーティが全滅する時くらいだ。そして貧乏で戦闘力がある傭兵を襲うような賊がいたら顔を拝んでみたいものである。


 殆ど無いデメリット、確実な収入、そして指名依頼はパーティの信頼度の証、ギルドでの信用度が上がる。更に、この店とコネができればまた指名依頼が貰えたり、美味い茶菓子にありつけるかも…。

 選択の余地は無かった。4人は顔を見合わせて頷いた。


「「「「お受けします!」」」」

 次の出発予定は2日後とのことだったので、雨もあがったことだし、ミツハは店を閉めてそのまま4人と共に傭兵ギルドへと向かった。

 そう言えば依頼料を聞いていなかったな、まぁ安くてもいいか、と思っていたリーダーのスヴェンは、2泊3日のその依頼にミツハが出した金貨1枚を見て驚いた。

 運が向いてきたかも……。



 翌日、店を閉めたあとにミツハは2泊3日の旅の準備を行う。必需品の他に、彼らに『こんなのあるとどう?』と見て貰うための物をバックパックに詰め込んだ。なんとか自分で運べるようにしようと苦戦する。

 軽いけれど大きくて持ち運びにくいもの、小さいけれど重いもの。何と言っても、水と食料が重い。ベースキャンプは小川の近くらしいけれど、行きの道中は1リットルじゃ足りなさそうだよね、お水。

 旅の途中に転移で戻るのは多分無理だろう。護衛という任務があるからには、多分夜もそれとなく見守っていてくれそうな感じ。無用な危険は冒さない。


 そして迎えた出発当日。ミツハはいつもと違って早起きし、多めの朝食を摂ったあと、転移で自宅に戻りお手洗い。うん、旅の途中ではね…。

 旅の間は1日2食らしく、初日は出発前にしっかり食べておくように言われていた。次は夕食まで食事はなし。まぁ、ミツハは適当に何か食べるつもりだが。

 とにかく、食事は荷物になるし時間がかかるしで、旅には大きな負担となる行為であった。今回のような採取・狩猟目的の旅であれば食用の植物や小動物が獲れたらそれらの現地調達品を食べることも出来るが、売れるものはなるべく現金化するため持ち帰りたい。空腹を我慢してでも現金収入、である。持っていく食料は、最低限のギリギリらしい。あとは現地で高くは売れないものが獲れればラッキー、獲れなければ僅かな携帯食料に水でも飲んで、というわけである。

 ミツハの食料も用意すると言われたが、辞退した。いや、そこ、試したいとこだから。心配そうな目で見られたが、大丈夫、レトルトは偉大だよ。


 あと、ナイフと短剣、っと。

 あ、ショートソードはやめた。重くてダメだったよ、やっぱり。それで、短剣。短剣は直訳するとショートなソードだけど、ショートソードとは全然違うものだ。

 そもそも、歩兵が持つのがショートソード、騎兵が持つのがロングソードと呼ばれ、実際の長さは関係ない。めちゃくちゃ長いショートソードや短いロングソードとか普通にある。つまり、ショートソードは成人男性である兵士が振るう普通の剣で、決してそう短いものではなかった。

 私に必要なのは、普通の剣の半分くらいのやつ、つまり短剣だったわけだ。イルゼちゃんが持ってるようなやつね。全長50センチ、刃渡り35センチくらいのやつ。


 そう言った時の隊長さんの「やっぱりなぁ。なんか勘違いしてると思ったんだよ」と言わんばかりの顔がムカついた。分かってたなら先に言ってよ!

 ナイフは作業用。獲物の解体とか、定番だし。いや、やらないけどね。まぁ、ポーズだけでも、と。勿論、いざという時には武器にも使うよ。

 短剣とナイフの違いって、難しいよね。あの『オリハルコンの短剣』とかって、長さ的にはナイフだよね、形状は明らかに剣っぽいけど。でもあれ、『オリハルコンのナイフ』じゃかっこ悪いし。うん、まぁ、フィーリングだねフィーリング!


 そしてその他の装備、銃器等も身につけて、いよいよ出発!

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― 新着の感想 ―
[一言] >その後ベアトリスちゃんとの折衝の結果、ベアトリスちゃんのデビュタントにはエレクトリック・パレードと花火大会出店付き、が決定した。2年の間に忘れてくれることに全てを賭ける。 見事に負けました…
[一言]  総重量的に銃と弾丸類が一番重そうw
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