186 反 撃 2
「状況は?」
「はい、独自に調査を行っているらしき商家、日頃から評判が悪く『如何にもやらかしそうな商家』、そういう仕事を受けそうなごろつき達、そして当日の夜に店にいなかった丁稚や手代、帰宅しなかった番頭とかが複数いる商家……。
人を雇い、金をバラ撒いてそれらを調べましたところ、怪しいところが3店ばかし……。
更にそれらを詳細に調べましたところ、倉庫の警備が急に厳重になったり、うちが扱っている商品を闇ルートで4倍の価格で買い取りたい、という偽情報に食い付いてくるところをリストアップしたりと、絞り込みましたところ、ほぼ確実、と思われるところが……」
レフィリアからの報告を聞き、にやりと嗤う、私。
うん、お金は、有効活用するためにあるんだ。使うべき時に使わなくて、どうする!
普段は、8時半の惣菜物半額セールになるまで待っていてもいいんだ。でも、使うべき時には、ぱーっと使う。それが、いい女ってもんだよ、うん!
「しかし、残念ながら状況証拠ばかりで、確実な証拠がありません……」
悔しそうにレフィリアがそう言うが……。
「あ、それ、要らないから」
「え?」
きょとんとした顔の、レフィリア。
そう、私には、『私がそう確信するだけの事実』があれば、それでいい。
別に、他の誰かを納得させる必要なんかない。
原告、私。
検事、私。
裁判長、私。
刑の執行者、私。
誰が決めたか?
勿論、私だよ。
……裁くのは俺だ。
ミッキー・スピレイン?
いやいや、ここは、大藪春彦だ。復讐物だからね。
夜襲と復讐は、勉強の基本だよ、うん!
『勉強させて貰いまっせ!』ってやつだ。
今回、『人生の勉強』をするのは、相手の方だけどね……。
* *
深夜。
草木も眠る丑三つ時、ってやつだ。
お目当ての商店の敷地に隣接する建物の上に、連続転移。
そして、隣の敷地をじっくりと観察すると……。
商店の建物の裏にある、堅牢そうな倉庫。その倉庫の周りに、警備員らしき人影が、5~6人。
居眠りしている者はいないらしく、皆、ちゃんと見張りをしているらしい。
ま、敷地外の建物の屋根の上にぺったりと伏せていて、それも星明かり以外の明かりがないという状況では、私の方を見ることも、そしてもし見たとしても、私を発見できることはないだろう。
倉庫の外部にあれだけの人数の警備員を配置しているということは、内部には誰もいない、と考えていいだろう。
内部に人を配置しているならば、あんなに外部に人を置く必要はない。それこそ、20人規模の盗賊が押し入りでもしない限りは。
あれは多分、倉庫の中の荷を盗まれることを防ぐためではなく、中にあるものを見られたり調べられたりするのを防ぐための警備員なのであろう。
普通、商家の不寝番をする警備員はこんなに多くはなく、賊を発見すれば大声で騒ぎ、寝ている者に知らせるのが主な役割らしいのだ。決して、自分達だけで賊と戦う、というようなものではないらしい。
そして、不寝番の多くは商店の建物、つまり商会主一家の寝室や金庫がある母屋に詰めるものであり、倉庫は定期的に外周を巡回するくらいらしい。
……だから、レフィリア貿易の警備員は無力化されちゃったんだけどね。
巡回するのを待ち伏せて、大声を出す前に無力化。
様子を見にきた警備員も、無力化。
その後、警備員詰所や母屋も制圧されて、あとはやり放題、と。
レフィリア貿易の店舗と倉庫は借家だから、居住部分は手狭であり、レフィリアや従業員の大半は住み込みではなく通いであるため、戦闘力がある警備員はあまり多くはなかった。それに、警備員も、下手に抵抗して殺されては割に合わない。無理だと思えば、即、抵抗を諦める。
それは決して間違った判断ではなく、現代日本においても、商店の店員は、強盗には逆らわずお金を差し出せ、と教育されている。売上金を少々奪われるより、従業員に死なれた方が、店のダメージは遥かに大きいのだから……。
まぁ、とにかく、ここの商会主も、警備員に倉庫の鍵を持たせたりはしていないようである。
やはり警備員を信用していないのか、それとも、警備員に倉庫の中の荷を見られると都合が悪いからなのか……。
そして私は、倉庫の入り口の石段から、中の床の高さを推測して、少し余裕を見た高さに連続転移を行った。
別に、その空間自体が視認できなくても、明らかにその空間座標が明確に意識できるのであれば、何の問題もない。うん。
……真っ暗。
明かり取りの窓も閉められているのかな。
ま、いつも開けていたら、雨やら虫やら害獣やらが入り込むか。
ポケットから超小型のLEDライトを取り出して、と……。
状況によっては、光漏れを押さえるためにケミカルライトを使うべく用意していたけれど、これならばLEDライトで問題ないだろう。もし不審に思われて騒ぎになっても、扉を開けて誰かが入ってくるまでには充分な時間があるから、転移で逃げれば済むことだ。
そして、ライトを当てて調べると……。
うんうん、あるある!
普通の在庫物資の他に、乱雑に積み上げられた、ヤマノ領の商品が……。
地球で買い込んだものを、うちの領地で袋詰めし直しているんだよね、元の袋はオーパーツだから……。その、ヤマノ領のマーク入りの袋が、たくさん……。
一応、証拠を隠滅しようとしているのか、ここでも他の袋に詰め替える作業中らしいけれど、まだ完了していないらしい。それと、どうやら、混ぜ物をして増量、かつうちの商品じゃない、ということにしたいらしく、混合作業をしているらしい。
だから、夜間は作業をしていないのかな。暗いとミスる確率が高くなるから。
それとも、単に油やロウソク代を節約するため?
ま、そんなことはどうだっていい。私が犯人を確定した。それが全てだ。
よ~し、やりますか……。
連続転移!
地球をほんの一瞬だけ経由して、ヤマノ領の倉庫に物資を転送。
勿論、レフィリア貿易の倉庫から奪われたものだけでなく、倉庫の中にあったもの、全てを。
奪っていいのは、奪われる覚悟のある者だけだ!
……いや、いくら覚悟していても、奪っちゃ駄目か。
そして、この倉庫の警備が厳重だったから、こっちを先に調査したけれど、実はこの商家の倉庫はこれひとつだけじゃない。なので、引き続き、他の倉庫にも、行ってみよ~!
多分、うちから奪われたのはここにあるので全部だろうけど、ま、物はついで、と言うしね。
そして、全ての倉庫の中身を転送し終えて、最後に……。
「全ての倉庫の、壁の一部、ついてこ~い!」
暗闇の中で、無音で、小さな面積の壁が、すっと消える。
直接見てでもいない限り、すぐに気が付くようなものではないだろう。
そして、警備員は外側を見張るものであり、倉庫の壁の低い場所をじっと見詰めているものではない。……決して。
警備員達が異変に気付くのは、多分、かなり時間が経ってからだろう。
それに、別にすぐに露見したとしても、たいして困るわけじゃない。
逃走に必要な時間、とかいうものとは無縁だからね、私の場合……。
怪盗ミツハ、本日の営業、しゅうりょ~!




