183 黒いミツハ
「じゃあ、大きな怪我や病気、みんなでは対処不能な事態とかは、特にないのね? そして、No.9が雇い主から受けた具体的な指示を漏らした、と……」
「はい。最大でも御神器の窃盗までで、姫巫女様やその眷属の方々への危害は一切禁じられていたとか……。決して、悪意があったわけではないようです」
「秘密を嗅ぎ回って、邸に侵入して重要なものを盗み出そうとすることの、どこが『悪意がない』って言うのよ! それで悪意がないなら、少しでも悪意があったら何をしでかすって言うのよ!
それに、悪意がなくてそれってことは、それを全然悪いことだとは思っていないってことでしょ? それって、これからも、悪いこととは欠片も思わず、平然とそういうことを続けるってことじゃないの。
あなた、庇ってるつもりで、No.9とその雇い主が良心も反省する心もない、とんでもない悪党だってことを私に説明するために熱弁を振るってるってことに気付いてないの?」
「うっ……」
私と話しているのは、草。
……いや、別に、私は植物と話せるわけじゃない。
『忍び』の一種である、『草』のことだ。
現地人として普通にそこで暮らし、情報収集、暗殺、仲間の手引き等を担当する、スパイの一種。中には、完全に情報収集だけで、その他の活動には一切手を出さない者もおり、そんなの、発見できるわけがない。
そして、勿論、アレだ。
『……俺も使ってるんだよ』
ってやつだ……。
私が今話しているのは、No.6。ボーゼス伯爵からの刺客……じゃなくて、間諜だ。
どうしてこんなことをするかなぁ、ボーゼス伯爵……。
とにかく、捕らえて、吐かせて……ボーゼス伯爵の手の者だということが分かれば解放して貰えるなどと、甘っちょろいことを考えていたらしい。伯爵から、『万一捕らえられた場合は、ボーゼス家の手の者だということを明かして、解放して貰え。その代わり、今回の報酬は半額になるがな』とか言われていたらしい。だから、簡単に吐いた……、新設した間諜用の牢に入れていたわけだ。
他の者との接触は一切できない、完全防音の個室。3畳、トイレ(壺)付き。
そして、せっかく新設した間諜用の収容施設があっという間に満杯になりそうな上、食費、世話役の人件費、衣服や毛布の洗濯、その他諸々の負担が大きくて困っていた時に閃いたのが、『こいつらに、自給自足で勝手に生活させればいいんじゃね?』という名案だったわけだ。
早速、調査船団に積んであった海図の中で良さそうな島をいくつか選び、また調査飛行をお願いした某国の空軍機でそのあたりを飛んで貰って、転移位置情報をゲット。ついでに、うちの国の周辺海域も飛んで貰い、このあたりでもいくつかの島々を転移可能にした。そのうち、いい無人島を選んで、みんなで海水浴にでも行こう。
とにかく、そうやって調査したいくつかの無人島の中で、程良い大きさ、何とか生活できるだけの水と野生動物、植物等が入手できるものを選んだのが、あの島だ。
そして、No.1からNo.4までを短間隔で送り込み、それから少し間を置いてNo.5、No.6を送り込み、あとは捕らえる度に送り込んだ。
最初にそんな手間を掛けたのは、立ち上がりはある程度の人数がいないと危ないと思ったのと、No.6が加わるのに不自然なところがないように、との配慮からである。
こうして、私の間者としての役割を担ったNo.6が、間者として、そして本当の『囚われ人』として、島で服役することとなったわけである。たまに私に情報を提供しつつ。
しかし、私がNo.6に求める本当の役割は、別に情報収集ではない。それは『ついで』であり、No.6のモチベーション維持のための仕事である。
私が本当にNo.6に求めている役割は、囚人達の間に怪我人、病人が発生したり、皆の力では対処できない危機に陥った時に救助するためであり、また、たまにほんの少し援助したりするためである。そして、そのうちこの記録を元に、小説を書いて……、いや、何でもない!
「じゃ、今夜のうちに錆びたナイフと斧、異国産の強いお酒、その他ちょっとしたものが入っている木箱を海岸に漂着させるから、明日の朝に発見させてね。ちょっとしたサービスだよ」
「おおおおお! 助かる! できれば、酒は多めで頼む。28人がある程度酔えるだけの量は欲しい。それと、釣り糸と釣り鉤があると嬉しい。骨で作った鉤は、脆くてなぁ……」
「なるべく、御要望に沿えるようにしておくよ。でも、お酒がぎっちり詰まった木箱が無傷で漂着とか、それはちょっと無理があるよねぇ……。ま、何か、いい方法を考えるよ。
じゃ、頑張ってね!」
「あ、待ってくれ! 伯爵は、ボーゼス伯爵からは、何か連絡は来ていないのか?」
立ち去ろうとしたら、そう言って食い下がられた。
「ないよ。28人、誰の雇い主からも、何の連絡もなし。もし連絡が来たら、謝罪と適当な交換条件で返してあげようと思っているんだけどねぇ……。
こっちから連絡して、『そんな者は知らん! おかしな言い掛かりをつけるな!』とか言われたらこっちが悪者にされるから、こっちから問い合わせることはしないよ」
「……伯爵ううううぅ……」
何とも言えない顔をする、No.6。
ま、間諜というのは、そういうものだよね。自分が選んだ職業なんだから、諦めようよ。
じゃ、今度こそ、本当に……。
「みつは、テレポテーション!」
……誰が、ななこやねん!
* *
「ヤマノ子爵が、一切のパーティーへの出席を取りやめただと!」
「原因は、やはりアレか……」
「いや、その後、王宮へ呼び出されたらしいぞ。そこで、陛下が何か無理難題を吹っ掛けたのではないのか?」
「母国の指示で交流のために来たというのに、その交流を打ち切るだと? いったい、陛下は何をしでかされたのだ!!」
……とかいう噂が、社交界で流れているらしい。
知らんがな~……。
情報を集めようにも、みっちゃんのおとうさん、ミッチェル侯爵とはあれから会っていないし、レフィリアは中規模商家の娘で、本人はまだ小規模商家に過ぎないレフィリア貿易の商会主だ。とても社交界に出てパーティーに出席するとか、貴族が訪問して話をするとかいう身分でも立場でもない。
かといって、家人を遣って聞き質すには、内容がデリケート過ぎる。下手をすれば、国王陛下を非難するような内容となるかも知れず、そんな話が外部に漏れれば大変なことになるだろう。
他国の貴族である私であればともかく、この国の貴族や商人がそんな話をしていることが広まったら、そりゃマズいよねぇ。
なので、レフィリアのところには、そういう話は来ないらしい。
と聞いていたら、直接私のところへ来たよ、問合せの手紙が……。
貴族個人からのパーティーのお誘いであれば、辞退するだけで済むのだけど、何と、数名の貴族の連名での、御機嫌伺いというか、私を心配しての、という体裁をとった、状況確認のためのお手紙だった。
大切なコネとなる人の名前もはいっているから、無下には扱えない。
仕方ない、ちゃんと返事を出すか……。
『ウォンレード伯爵と、エフレッド子爵とかいう貴族に絡まれて困っているため、彼らがいつ姿を現すか分からないパーティーには、もう出られません。主催者や他の参加者の皆さんも助けては下さらないようなので、あまりにも危険が大きいと判断しました。
以後、この国との交流は、商人の皆さんを介して行うことと致しました。
また、この国から撤退して、周辺の他国に拠点を移すことも考えています』
よし、こんな感じの返事でいいだろう。
あんまりしつこいと、他国へ行くぞ、と。こう書いておけば、そっとしておいてくれるだろう。
……とか考えていたら、また来たよ、手紙が……。
『我々が和解のための仲介を行う。早まるな!』
って……。
ネコと和解せよ、ってか?
線が数本足りないよ!
よし、こうなったら……。
『相手は王族の血を引く者らしいので、普通の貴族の言葉は聞かないと思います。
なので、国王陛下、王太子殿下立ち会いの下で、あのおふたりに、もう二度と私にはちょっかいを掛けない、話し掛けない、半径6メートル以内には近付かない、と、女神と御自身の名誉に懸けて誓って戴けるのであれば……』
これで、どうだああああぁ~~!!




