182 放 置
「えええ!」
王宮での一件と、その説明のために必要だった、以前からのウォンレード伯爵(笑)とエフレッド子爵(笑)についての話をすると、レフィリアは眼を剥いて驚きの声を漏らした。
……まぁ、今驚かなくて、いつ驚くのだ、というヤツだよねぇ……。
「……で、以後の対応は、どのように?」
驚いたのは、一瞬。すぐに普通の表情に、……いや、悪い笑みを浮かべて、そんなことを聞いてくるレフィリア。
うん、図太く……、いやいや、成長したねぇ、レフィリア……。
自分の身ひとつで立ち上げた商会、『レフィリア貿易』が順調に……と言うのも生易しい、爆発的な、驚異の発展を遂げているものだから、高揚と無敵感が半端ないんだろうなぁ。
……でも、それ、レフィリアの実力じゃないからね? 全部……とは言わないけれど、99.9999パーセントくらいは、うちの商品とうちのネームバリューのおかげだからね?
調子に乗りすぎて、思わぬところで躓いたりしないように、注意して見ておかなくちゃ……。
「放置。……向こうの嘘や策略が私にバレたこと。そしてバレたことを向こうが知っていること。バレたことを向こうが知っていることを私が知っていることを知っていることから、向こうが次にどういう態度に出るかということを……」
「え? ええ? 知っていることを知っていることを知っているから……?」
あ、レフィリアが頭から煙を出しそうだ。
「むこうの出方次第、ってこと。何も、こっちから事態の進展を早める必要はないでしょ」
いわゆる、『後の先』、ボクシングで言うならば『カウンター』である。相手が繰り出した攻撃を見切り、相手がもはや動作の中止や修正が利かなくなった時点で、相手の攻撃を避け、反撃の技を仕掛ける。……効果は抜群だ!
「なる程……。一見、向こうに主導権があるように見えて、実はこちらの掌の上で踊っている、というわけですか……。さすが、ミツハさんです!
……で、この子は?」
「あ、私の妹。よろしくね!」
「よろしくお願いしマース!」
うん、前回はコレットちゃんは連れてこなかったので、今回がレフィリアへのコレットちゃん初顔合わせ。
この前は、私が卸す商品、逆にこっちが買い集める商品の細かい分析や打合せがあったから、早口での専門的な話は聞き取れず分からないコレットちゃんが退屈するだろうと思って、連れてこなかったんだ。
で、今回は、ちゃんと紹介。
商会に紹介しようかい……、って、うるさいわ!
とにかく、紹介だ、紹介!
「まぁ、見ての通り、腹違いの妹、ってことで……。妹はもうひとりいるんだけど、そっちも腹違いだよ」
うん、本人は来られなくても、設定上はサビーネちゃんもちゃんと妹ってことにしておいてあげよう。そのうち、観光だけでも連れてくることになるだろうし……。
いや、強請るに決まってるよ! サビーネちゃんが、そんなに長期間我慢できるはずがないよ、コレットちゃんがしょっちゅう私と一緒に来ているというのに……。
でも、ま、王女稼業、主に作法とか貴族の系譜の暗記とかの勉強や、ダンスの練習とかが忙しくて、ここの言葉の勉強をする時間を捻り出すのは無理だろうけどね。サビーネちゃんは、コレットちゃん程の執念は無さそうだから……。
というか、王都じゃヤマノ領やボーゼス伯爵領と違って教材も無く教えてくれる人もいないのに、ここの言葉を覚えられるわけがないよ!
何、ボケたことを考えていたんだろうか、私……。
まぁ、サビーネちゃんは、『サビーネだ。王女をやっておる……』とか言って、のんびりやってくれていればいいや。変にアグレッシブになられて、私に被害が来たりしなければ……。
被害担当艦の役割は、王様にお願いしよう。……うん、そうしよう!
そして、腹違いシスターズの紹介に少し引いていたレフィリアは、すぐにコレットちゃんに慣れて、コレットちゃんのたどたどしい言葉に合わせてゆっくり喋ってくれたり、頭を撫でたり……。
いや、私の腹違いの妹、ってことは、コレットちゃんも貴族って設定になるんだけど、気付いてるのかな、レフィリア……。
で、王様達の件だけど、『私に絡んで利権に食い付こうとしている、イキリDQN』というのは私の勘違いだったらしい。真実は、『私に絡んで利権に食い付こうとしている、イキリ王族』だったわけだ。
……あまり変わっていませんか、そうですか……。
あ、じゃあ、私達以外の貴族のみんなが、あのふたりが国王と王太子だと知っていたなら、それは公然の秘密だということで、商人達も知っているということか。……ど新人のレフィリアと私以外は……。
ならば、私達が告示しているあの文言、『その貴族家及びその係累と取引のあるところとは一切の取引を中止する』というやつ、その『貴族家』というのはあのパーティーの主催者だけでなく、ウォンレード伯爵とエフレッド子爵も含まれるわけだから、そのふたりの正体を知っている商人達は、レフィリア貿易との取引を失いたくなければ、『国王と王太子が消費するためのもの』としては、王宮には商品を納入できないというわけだ。
まぁ、それはあくまでも建前としては、であって、実際には『使用人用』とか『近衛兵用の食堂で使う』とかいう名目で王族用の分も調達されているのだろうけれど……。
どうしよう、と思ったけれど……。
いいや、このままで。私を騙そうとした人達のことなんか、どうでもいい。別に、お近づきになりたいわけじゃないし。
あ、じゃあ、あの時のパーティーの主催者の人やみっちゃんのおとうさんも、王様の命令だから逆らえなかったのか。こりゃ、情状酌量の余地があるなぁ……。
でも、『ヤマノ子爵を騙しても、簡単に許して貰える』なんて噂が広まったら、私を引っ掛けてひと稼ぎ、なんて考える連中が現れるかも……。
こりゃ、少なくとも対外的には、怒ってる振りを続けなきゃマズいよねぇ、やっぱり……。
ごめんね、あの時のパーティーの主催者の何とか伯爵と、みっちゃんのおとうさん!
……で、これからのパーティー出席、どうしよう……。
この状況で、またみっちゃんのおとうさんが選んだやつに出るのも、ちょっとアレだしなぁ。
かといって、代わりに誰かに私が出るパーティーを選択する役目を任せるのもなぁ……。
それは、私がその人をすごく信頼しているということの証だし、他の人からそう思われる、ってことだ。それに、私がそれだけ信頼している貴族はいない。
う~ん……。
あ!
そもそも、私がパーティーに出続けなきゃならない理由、あるのだろうか?
情報収集とコネ作りのために社交界に潜り込んだのだけど、既に情報は充分集まり、顔と名前も売れた。そしてレフィリア貿易もそれを利用してがっちりと販路を開拓して、盤石の態勢だ。
……もう、パーティー、出なくてもいいんじゃないの?
今なら、社交界に顔を出さなくなっても、みんなそう不思議には思わないだろう。『ああ、あの事件が原因なのだな』と思われて。招待が来ても、断りやすい。
軍の方も、下級士官はともかく、高級士官の大半は貴族だから、既に充分知り合いやコネはできている。それに、いざとなれば、『必殺、女神モード』もあるし。
どこかの船のマストに現れて、スピーカーで神託を下せばいい。イーラスの件が充分に広まっているから、効果は絶大だろう。
パーティーに出るのをやめれば、時間的にも精神的にも、すごく楽になる。ドレス代も馬鹿になんないし……。
何か知りたいこと、工作したいことがあれば、直接、それに適した貴族や軍人さんのところにアポを取って会えばいいし。
……そして、政財界への影響力を強めるのは、レフィリア貿易に任せよう。
そうだよ、何でもかんでも自分でやって仕事を抱え込むのは、デキる女のやることじゃないよ。
現場仕事は部下に振って、後進を育てるのも、指揮官の務め。決して、面倒になったから丸投げするわけじゃない。……多分。
そして、パーティーに出るのをやめる最大のメリットが!
……順調に育っている、私のウエストの数値にブレーキが掛けられることなのだだだ!!
いや、どうして、ウエストではなく、その20センチくらい上が成長しないかなぁ……。
というか、どうして胸や身長は成長しないのに、ウエストは成長するのよおおおおおっっ!
『成長』と『肥満』は別物なの?
コンチキショオオオオオォ~~!!




