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167 チェルシー・テラワロスへの道 2

 深夜の埠頭。

 そこに佇む、ひとつの小柄な人影。

 そして……。

「よし、誰もいないな。……転移!」


 そして突然出現した小型の船と、そのために起きた波が海面を伝わってゆくが、埠頭がその程度の波でどうこうなるわけがない。停泊中の船が揺れるであろうが、寝ぼけまなこの船員が慌てて真っ暗闇の中で周りを見回したところで、原因が分かるはずもない。

 そして少女は、小型船に乗っていた者達に指示して、船を係留させた。勿論、この場所を使う許可は取ってある。


 係留作業が終わった後、作業をしていた男達は姿を……、文字通り、『姿を消し』、ひとり残った少女は、部屋を取っている宿屋へと戻っていった。


     *     *


「はいはい、順番に積み込んで~! 慌てず、落ち着いてね。その木箱、落として中身割ったら、あんたの年収分くらいのお金が飛んじゃうからね~!」

 木箱をぞんざいに扱っていた荷役にやく作業員が、それを聞いて顔を引き攣らせる。

 小型の帆船から馬車へ積み荷を移す作業の指揮をっているのは、レフィリアである。

 私にはとてもそんなことはできないし、この作業が私、『ヤマノ子爵』ではなく、レフィリアが経営する新興の商会、『レフィリア貿易』によるものだということを印象付けるためでもある。


 うん、そういう名前に落ち着いた。レフィリアの商会の名前。

 私の名前を入れる、としつこかったけれど、断固、拒否。

 若い女性であるレフィリアを看板として利用するのは、当然のこと。

 そして、海外貿易に消極的だった父親と兄への当て付けと、何々商会、とか、何々商店、という名が多い他の商会との違いを強調すべく、『貿易』と付けたのである。


 若い女性だからと舐めてかかり、詐欺や脅しで仕入れルートを奪おうとする者が出てくるであろうことは、ほぼ確実。

 それに備えて、色々と手は打ってある。

 使用人として、腕のいい元軍人を雇用。

 ……本人のせいではない事件の責任を取る形で退役したそうで、元上官や同僚、部下達に惜しまれていたらしく、それらの人達からも、その男性を高給で雇ったことを感謝されているらしく、いざという時には現役の方々からの配慮が期待できるそうな。


 また、参謀役として、某大店(おおだな)で主人の代替わりの際に、跡を継いだ馬鹿息子に諫言かんげんうとまれて一方的にクビにされた上、悪口を触れて廻られて再就職を妨害されたという、元番頭を雇った。

 先代には恩があったらしいが、今の主人には怨みしかない上、先代もクビにされた時やその後の妨害行為に対して何もしなかったことから、恩義は既に返し終えたとして、もはや何の義理もない、とのことらしい。

 遣り手らしいその人物がいれば、仕入れルート乗っ取りのための詐欺に引っ掛けられることもあるまい。

 ま、仕入れルートも何も、私が拒否すれば終わりなんだけどね。


 そして、いざとなれば、私の出番。

 相手がルール内で攻めてくるなら、社交界で有名なヤマノ子爵としての私が。

 そして相手がルールを破って、つまり不法行為に出たならば、謎の転移能力者、怪盗ミツハとしての私が、相手を破滅に追いやる。誰にも知られることなく。

 うん、完璧の母!


 そして迎えた、営業開始の宣伝と、遠国から船で輸送しているということをアピールするための、このイベントである。

 多分、仕入れルートを知りたがっている多くの商会が、手の者を派遣しているだろう。その者達に見せるためでもある。


 船は、言わずと知れた、ボーゼス伯爵領の造船所で造られた、技術習得用の試作小型帆船。

 まだ就航していないけれど、今回は実際に走らせる必要がないから、問題ない。だから、ちゃんと伯爵様の許可を取って、丸々1日、借りてきた。

 係留作業を頼んだのは、うちの漁村の人達。

 今更、私のことで驚くような人達じゃないからね。何しろ、『1日防波堤』、『1日漁港整備』、『1日街道整備』、とか、色々とやらかしてるから。

 ……あ、それ以前に、『ひとりで敵艦3隻の拿捕』があるか。

 いやいや、その他にも、『古竜征伐』、『帝国軍撃破』、……ま、色々あったからねぇ。


 毎回、この作業をやるつもりはない。……面倒だから。

 一度見せておけば、『安全のため、毎回港を変えている』とか、『夜のうちに荷下ろしして、夜明け前に出航している』とか、何とでも言い張れる。

 そして、今回レフィリアが指揮を執っていることから、荷揚げの段階からレフィリア貿易が仕切っていると思わせられれば、流通において私の方、ヤマノ物産店がマークされる確率を下げられる。

 ……まぁ、完全にノーマーク、ってことはないだろうけど。


 以後は、転送で地球から直接ヤマノ物産店へ運び、そこからレフィリア貿易の倉庫へと運ぶ。

 港からうちへの輸送をレフィリア貿易が請け負い、いったんうちの倉庫へ運び入れて輸送契約終了。あとはそれとは別に、レフィリア貿易との売買契約を行って、売った分だけレフィリア貿易の倉庫へと運ぶ。そうしているように見せかけるのだ。

 面倒そうに見えるだろうけど、レフィリアが『子爵閣下が、面倒でもそこはきちんとしたい、と言われている』と言えば、疑う者はいないだろう。何せ私は、商売には素人で、殿様商売をする、世間知らずの異国の貴族様なのだから。

 これが、小麦だとか石炭だとかの嵩張るものであればアレだけど、嵩張らない高額商品であれば、輸送計画を秘密にするのも、人知れず運び込むのも、そう不思議ではあるまい。

 斯くして、新興の商会『レフィリア貿易』の取引が開始された。


     *     *


「……爆売れです。ま、分かってはいましたけど。現在、1店当たりの数量制限、他の商会への転売禁止、国外への販売禁止、契約内容の漏洩禁止、禁止事項を破った場合の取引停止と全ての契約破棄、という条項を呑んだところとのみ取引しています。

 ミツハさんのところから仕入れたもの以外も、私の歓心を買うためにうちから買うようにしてくれたところが多いから、もう、仕入れが間に合わないくらいです。ふへ、ふへへへへ……」

 そう言って、だらしない顔で笑うレフィリア。

 最初は私のことを『子爵閣下』とか『ミツハ様』とか呼ぶものだから、慌てて呼び方を変えさせて、紆余うよ曲折きょくせつの末、『ミツハさん』に落ち着いた。

 12~13歳くらいに見える小娘が、年上に見える女性から、人前で『閣下』とか『ミツハ様』とか呼ばれたら、注目を集めてしまう。それに、身の安全のためにも、私の顔が大勢の人達に覚えられるのは、良くないからね。


「遠方からの輸入品を超高値で売っていた商会からの当たりは?」

「私や従業員の尾行、間諜を従業員として送り込もうとしたり、従業員の買収を試みたり、といったところですね。さすがに、ミツハさんの特約店扱いのうちに、直接的な妨害工作を仕掛ける勇気はないようです。……今のところは」

 そう、今のところは、だ。これから先もそうであるかどうかは、分からない。

 それに、輸入元である私に直接アプローチを掛けてくるという可能性もある。大商会ならば、コネがあったり、弱みを握っている貴族のひとりやふたりくらいはいるだろう。

 ……でも、コネなら、こっちにだってある。

 普通に商談を持ち掛けてくるなら、断るなり、利用するなりする。

 しかし、もし舐めた態度に出るようならば、こっちにも考えがある。


「機会があれば、私とレフィリアはただの取引相手じゃなくて、個人的なお友達だって触れて廻ってね。その方が、余計なちょっかいを掛けてきたところを潰すのに、遠慮なく思いきりやっても不自然じゃなくなるからね。……それに、それは嘘じゃなくて、本当のことだしね」

「……は、はいっ!」

 ちょっと驚いたような、そして嬉しそうな、レフィリア。

 うん、みっちゃんに続く、この国、いや、この大陸でふたりめのお友達だ。巻き込んだからには、ちゃんと守るよ。……私を裏切らない限りは。

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― 新着の感想 ―
[一言] コレット父をもってして言わしめた"悪質な天然タラシ"、ここに再発動⭐︎
[一言] 私を裏切らない限りは……フリかな?
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