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152 誘 拐 5

「ま、さっきのメッセージの後で、今度はあの国も含めた全ての国々に、こっちのテキストをメール送信して貰うんだけどね」

 そう言って、隊長にメモリースティックを渡すミツハ。

「一度に渡せよ!」

 文句を言いながらメモリースティックを受け取ると、すぐにパソコンのスロットに差し込む隊長。

「これは……」


 そう、そのメッセージには、もし次に子爵領関係者に対する敵対行動、もしくはその準備行動が見られた場合には、今度は手加減や容赦のない、本気の報復攻撃が行われること。軍の弾薬庫の中身、ミサイルサイロの中身等が首都や軍事基地、そして指導者層が住んでいるあたりの上空に突如出現するかも知れないこと。そしてこちらを攻撃しても、魔法による周辺探知や自動防御を突破することは、魔力がない者には難しいであろうこと。

 更に、もしこれから数年の間に、この世界において自分に万一のことがあった場合、『ある種の情報が、ある方面に流れるようになっている』という、分かる人には分かるお話。

 そして、今回のことでかなりの生命力を消費した子爵様がかなりお怒りであることが、誤解の余地のない言い回しで明記されていた。


「……できるのか?」

「えへへ……」

 転送自体は、なぜか軍事基地の衛星写真まで付いていた『ある国から貰った資料』により、実施可能であろう。しかし、弾薬庫に保管されている砲弾に信管が装着されていて安全装置が解除されているとも思えないので、ただ落下するだけであり、起爆はしないのではないかと思われる。ミサイルの弾頭にしても、同じであろう。

 しかし、そんなことを説明してあげる必要はない。

 ミツハの防御については、丸々ハッタリである。

 しかし、超常の力を見せつけられた後での、自信たっぷりな宣言であるから、嘘だと決めつけられるだけの根拠がない。

 暗殺を試みて、もし失敗すれば。そう考えるだけで、それは強力な抑止効果を生み出すであろう。


「でも、もう、あの街へは行けないなぁ……」

 さすがに、それは危険が過ぎるであろう。これからは、遊びに行くのは遠くの街へ、ただの少女3人組として行くしかない。

 まぁ、今までも、『ごく普通の少女3人組』という触れ込みだったし、遠くの街であろうと、移動時間も交通費もかからないから、その点では大した問題ではない。それに、英語か日本語が通じるところであれば、サビーネちゃんとコレットちゃんの言語的には条件はあまり変わらない。馴染みの店が数軒失われる、というのは、少し残念であるが……。

 なので、その分の鬱憤うっぷんは、あの国で晴らさせて貰うのであった。

 そう、時たま、指導者の自宅のワインセラーから値打ち物のワインが数本消えるだとか、料理人が用意したはずの料理がそっくり姿を消すとかいう形で。

 戦争中の敵国なのである、補給を断つのは当然のことであり、何の問題もない。




 そして、その後。

 時たま、隊長のところに謝罪と泣き言のメールや手紙が来るらしいが、それらを華麗にスルーするミツハであった……。


     *     *


「あれ? 何だか様子が……」

 地球でのゴタゴタが一段落し、久し振りに新大陸、つまりヴァネル王国の港町へとやってきたら、何だか軍港がざわついている。

 何かあった?

 こんな時には、情報源の……、って、無理か。こんな状況じゃ、主力艦の下っ端乗組員に、外出なんか……、って、来たよ、オイ!


「はぁはぁはぁ、ミツハちゃん、久し振りだね……」

 何も、たかだか数十秒早く来るがために、そんなに汗だく大盛りで走らなくても……。

 というか、外出日は毎回、私が来ていないか確認するために一番に上陸してたのかな。よしよし、ワンコのようで、可愛いぞ。

 ま、来たなら、問題ない。では、いつものカフェへ……。




「え、軍艦が遭難?」

「うん。嵐に巻き込まれて、マストが折れて流失。船体も大きな被害を受けて、帆走不能。ただ海流と表面吹送流と風圧流で流されているだけらしいんだ。

 あ、ミツハちゃんは、世界が丸い、ってことは知ってる? 表面吹送流は、この世界の自転の転向力が作用して、角度が……」

「パ~ス! パアアァ~~スっっ!!」

 今から海洋学の勉強を始めるつもりはないよ。

「結論だけ、お願い」

「…………船が1隻、漂流してる」

「……」

「…………」

「……ごめん。もう少しだけ、詳しく……」


 結局、分かったのは、『船が1隻、漂流してる』ってことだった。

 で、なぜそんなに詳しく状況が分かったかというと、ただ1艘だけ無事に残った短艇カッターで、決死隊が荒海に乗り出したらしいのだ。まだ風浪が高く、うねりなんか全然治まる気配もなくて、危険な三角波が立ちまくりの危険な海へ……。

 そして、何日もかけて、何とか奇跡的に陸岸に辿り着いたその乗員達からの知らせで、救援の船が出ることになったらしいのであるが……。


「あまり、芳しくないのね……」

「うん。嵐で風向きはメチャクチャ変わっていたし、短艇も、陸岸に辿り着くまでにどれだけ流されたか分かんない。そもそも、短艇が出発した時の母艦の位置そのものが、既に自艦位置喪失ロストポジションに近い状態だっただろうから。

 そりゃ、嵐の中で長時間翻弄されて、その後何日も漂流。しかも天測器材も何もかも全部吹っ飛ばされた状態で、となりゃ、推定位置の誤差はメチャクチャ大きくなるよ。捜索に行ったって、そう簡単に見つかるもんじゃない。それに……」

「それに?」

「捜索には、3隻しか派遣されない」

「…………」


 まぁ、仕方ないか。

 大被害を受けて、沈没寸前の船なんか、動力船ならばともかく、帆船で長距離曳航が簡単にできるとは思えない。それも、うねりが残った荒れた海で、風上に向かって間切って進む、とかだと。

 もし曳航できたとしても、そんなにボロボロだと、新造した方が早かったりして……。

 乗員の損失が痛いかも知れないけれど、こういう世界では人命は安い。旧型の40門艦に乗っている下級水夫程度の人数など、ちょいと強制徴募隊が街を廻れば集められる。戦時中ならばともかく、平時であれば、そんなに人員不足というわけでもないだろう。

 士官や、一部の熟練水夫達を失うのは惜しいかも知れないけれど、多くの船を出して捜索するほどのメリットはないと判断したのだろう。それが政治的に、損得的に、そして人道的に正しいかどうかは知らないけれど……。

 それに、たくさんの船を出せば必ず発見できるとも限らない。上の方も、好きで見捨てるわけでは……、って、いや、見捨てていないからこそ、3隻の船を出すのか。それが、精一杯の判断だったのだろうな……。

 1隻も出さずに見捨てたりすれば、船乗り達の士気に関わる。そう言って、捜索隊の派遣を強く主張してくれた上級指揮官でもいたのかな。


「俺が乗ってる『リヴァイアサン』は、出港しない。捜索には、船体の大きさや戦闘力は関係ないからね。速度と経済性の方が大事だから。……まぁ、大きいと見張り台の位置が高い、という利点はあるけれど、そう大した差じゃないし……」

 ま、そりゃそうだ。救難活動に、最新鋭の戦艦を出す者はいないだろう。高速駆逐艦あたりで充分だ。


 軍人君、割と淡々と喋っているけど、ちょっと表情が暗いなぁ。ま、いくら別の船とはいえ、同じ海軍の仲間達のことだからなぁ……。

「友達と、昔お世話になった教官が乗ってる船なんだ……」

 あ。

 そりゃそうか、軍人なんだから、転勤や配属替えとかがあるよねぇ。


 ムク。

 ムクムクッ!

 うむ、心の奥から湧き上がる、この感じ。

 そーだ。クリィムそーだ。

 あの時の感じ。

 そう、マルセルさんと初めて会った、あの時の……。


「ねぇ、捜索に行くのは、どの船? そして、出航予定は何時いつ? 現場海域は、どれくらい離れているの?」

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― 新着の感想 ―
万が一用のパラシュートを購入して空中から探せないのかな
[一言] 懐かしいなあ、きんぎょ注意報。
[気になる点] >駆逐艦あたりで充分だ。 駆逐艦(destroyer)という艦種は、もともと水雷艇(魚雷を使って大型艦艇を攻撃する軽快高速な小型艇)を”駆逐”するための大型の水雷艇で、イギリス海軍が1…
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