151 誘 拐 4
「……困ったなぁ。どうしよう……」
両腕を組んで考え込むミツハの前には、豪邸、倉庫、ビル等の、様々な建物があった。
「粗大ゴミにすると、量が多すぎて大変だしなぁ。全部終わったら、返却するか……。
いやいや、それはマズいだろう! 大規模な転送は生命力が、という触れ込みなのに、攻撃のためならばともかく、返却如きに同等の生命力を無駄遣いするはずがないよなぁ……。
よし、調度品は売り払い、建物はバラして資材として使うか! 丁度、大きな倉庫を新設したかったし……。で、ビルの方は……」
そう、豪邸の方は、そのまま使うのはアレであるが、バラせば使い道がある。しかしビルの方は、地下の岩盤まで届くコンクリートパイルが打ち込んであるわけでもないのに、そのまま使うには不安があり過ぎる。
それに、電気や水道、エレベーター等の存在を前提とした建物なので、使い勝手が良くない。そして、バラすのも大変だし、その瓦礫を活用する使い途もない。
「よし、魚礁にしよう! ビルの最上階あたりは海面上に出るようにして、船が座礁したり漁網が引っ掛かったりするのを防ぎ、併せて漁船がトラブったりした場合の避難場所にも使えるようにして……。
渡し船を使って、釣り場にするのもいいかも。うんうん、それがいいや!」
何とか廃物利用の目処も立ち、ひと安心のミツハであった。
「で、向こうは、どうしようかなぁ……」
* *
「ですから、王女殿下にお取り次ぎを! 我が国には何の関係もない出来事を誤解されております王女殿下に、急ぎ御説明せねば……」
どうやら、高圧的な態度では逆効果だと悟ったらしく、そして電話やメールでは埓があかぬと思ったのか、某国は、腰の低い外交官を、直接ウルフファングのホームベースへと派遣した。
しかし……。
「そうは言われても、ここに来ないものはどうしようもないからなぁ……」
最早、丁寧語を使う気もない隊長。
「それに、もし会えたなら、『王女殿下』って言うのはやめた方がいいぞ。それはあいつが捨てた身分だからな、気を悪くするぞ。『子爵閣下』……、いや、『子爵』って呼んでやれよ」
「は、はぁ……」
そして結局、何の約束もできず、何の言質を取れることもなく、外交官は帰っていった。一応、『王女殿下が来られたら、お渡し下さい』と言って書簡を置いていったが……。
「ふむふむ、そう来たか……」
外交官が建物から出たのを確認してから、ミツハが現れた。そして、隊長が外交官から渡された書簡に目を通している。
別に、転移してきたわけではない。ずっと隣室で話を聞いていたのである。聴診器を壁に当てて……。リットマン聴診器は、なかなか性能がいい。
「何て書いてあるんだ?」
興味本位で聞いてきた隊長に、ミツハが肩を竦めながら説明した。
「いやね、『連絡が取れないようなら、テレビや新聞を通じて王女殿下宛てのメッセージを送ります』、だってさ」
「え? 嬢ちゃんの存在は各国のごく一部の者達の間だけの秘密、ってことになってるのにか?」
「うん、だから、私のことを公表されたら困るだろう、という脅しだろうね。
でも、そんなことをすれば、自分達がしでかしたこと、小娘ひとりに散々な目に遭わされたこと、そして機密文書やデータが奪われたこと等が世界中に知れ渡るわけだからね、勿論、自国民を含めて。そんなこと、できるわけがないよね~。
でも、ま、せっかくだから、お誘いに乗ってあげようかな。そんなことをされたら困る、って私が思っていて、すごく焦っている、ということで……」
そう言ってにんまりと笑うミツハの悪い顔を見て、げんなりとした様子の隊長であった……。
* *
「国営放送の送信機材が、予備システムを含め、全て消失しました! 送電線が何カ所も断線、非常用発電機も燃料タンクと共に全て消失!」
「何だとおっ!」
「新聞社の機材も全て消失、非常用の輪転機も消えました! テレビ、ラジオ、新聞、国営のメディアは全て麻痺状態です!」
「馬鹿な! なぜそういう反応になるのだ!!」
思っていたのとは全く違う相手側の反応に、頭を抱える指導者。
「脅しが効いています! 余程、自分の存在を公表されるのを恐れて……」
「馬鹿者! 交渉の座に就かせるための脅しなのに、ますます強硬姿勢を取らせてどうする!
それに、こうも全ての国営メディアが一斉に停止すれば、国民どころか、世界中に異変が知れ渡るだろうが! とにかく、復旧を急がせろ! テレビ局を最優先だ!!」
ピントの外れたことを言った大臣を怒鳴りつけ、指導者はまず国民の不安を解消するためにはテレビで自分が話をするのが一番であると判断した。なのでそう命令し、その考えは正しかったのであるが……。
「送信試験、失敗です! 発振器が機能していません!」
「どうしてここの基板が無いんだよ!」
「電子部品が足りないだと? どうなってる!」
「なぜメモリが無いんだ?」
復旧は、遅々として進まなかった。
* *
「うん、まぁ、数日置きに1回、各地の放送局や新聞社の印刷所を一廻りするだけの、簡単なお仕事だけどね?」
「……」
「で、さっきのテキストのメール送信、お願いね」
「…………」
ウルフファングの隊長が、先程ミツハから受け取ったテキストファイル。
それは、異世界懇談会参加国に宛てた、ミツハからのメッセージであった。今回の件に関する、全ての事情説明の……。
民間人であるふたりの少女への攻撃と誘拐。……『誘拐未遂』ではなく、いったん誘拐されて奪還したので、『誘拐』は成立している、という判断であった。
それを宣戦布告なしでの奇襲攻撃と判断し、子爵領が全力で応戦、戦争状態となったこと。
よって、戦争中の当事国に対して軍需物資を販売、もしくは提供した国は、敵国の同盟国と看做すこと。我が方に関する情報の提供等もまた、同様とすること。
誘拐がその国の仕業であることは、魔法により確認されており、自国の法規的には証拠として全く問題がないこと。敵国に味方した国は、魔法により確認され、言い訳を聞くことなく自動的に敵対国と判定されること。魔法による確認に誤認はあり得ないこと。
これらが、一斉送信されるわけである。
「あの国とは、嫌がらせをやめた後も、名目上は交戦状態を維持しておいた方が便利なんだよ。
どうせ大半の国はあの国との交易を完全にやめることなんかできないだろうから、うちがいつでも文句を付けられる状態になって、つまらない要求をしてきた国には『敵国扱いするぞ』で済ませられるから。『軍需物資』なんて、金属、石油、食料、その他何でもこじつけられるもんね。
証拠なんか、『魔法で確認した』と言い張れば済むし。うちが関係を打ち切るだけだから、別に相手国が納得するような証拠が必要なわけじゃないしね。うちの勝手、という範疇だから。
そして、あの国とは交戦状態のままということは、うちは、いつでもあの国を攻撃して戦略物資を奪っても構わない、ということに……」
実際には、そう無茶をするつもりはない。相手が、再び余計なちょっかいを掛けてこなければ。
「あ、あの国に提供したドラゴン素材や、その他のうちの世界産のサンプル全てと、その研究成果を全て回収して、記録類も全部、書類やコンピュータごと回収しなきゃ……」
隊長は、少し怖くなっていた。いや、ほんの少しだけであるが……。
そして、数日後。
ウルフファングのホームベースに、外交官が再び書簡を携えてやってきた。
ミツハがここに顔を出していることは、前回の書簡による脅しに即座に対応したことから、バレバレであった。尤も、ミツハも隠すつもりなど欠片もなかったのであるが……。
そしてその翌日、やってきたミツハがその書簡を確認した。
「何て書いてあるんだ?」
そう尋ねる隊長に、ミツハは思案げな顔で答えた。
「う~ん、意訳して簡単に纏めると、テレビやラジオ、新聞とかでの連絡はしません、そろそろ勘弁して下さい、ってとこかな?」
「そりゃまた、簡単に纏まったな……。そんなに枚数のある書簡なのに……」
それを聞いて、肩を竦めるミツハ。
「どうしようかなぁ……。そろそろ、頃合いかな……」
考え込むミツハに、隊長が心配そうに言った。
「嬢ちゃん、やり過ぎると、暗殺とかがあるんじゃないのか? ……って、今更、もう遅いか……。
こんだけ恥を掻かされて、大損害を受けたんだ、暗殺部隊の1ダースや2ダース、送り出されてても不思議じゃないだろ。大丈夫なのかよ……」
「うん、大丈夫! 私は『サンダース』だから!」
「意味が分かんねぇよ!!」
ミツハが国を、領地を護るためにその名を借りた、あの人の名を知らないであろう隊長には、何のことだか全く分からなかった。いや、それ以前に、『3』を『サン』と言われた時点で、言語的に理解不能であった。
しかし、ミツハが、自分自身で分かっていれば良い。それだけのことであった。
「いざとなれば、エックス攻撃で……」
……どうやら、違う方の『サンダース』だったようである……。
『ろうきん』、30日(土)で、1巻刊行から1周年です!(^^)/
新刊がオリコンに載るだけの部数を買って戴け、そして書籍1~3巻、コミックス1~2巻、全てが重版という、作家にとってこの上ない喜びをお与え下さり、感謝致します。
どこからもオファーが無く完結した作品が、1年以上経ってから出版して戴け、まさかここまで来られるとは思ってもいませんでした。
私の「小説家になろう」デビュー作であり、何年も温めていた、思い入れのある作品です。引き続き、よろしくお願い致します!(^^)/




