150 誘 拐 3
「何だと! 作戦が失敗しただと! では、分析班の出した結論が間違っていて、本当にあの子供達が『即死魔法』とやらの使い手だったというのか!
あれは、あのふたりに手出しさせないためのブラフであり、それは即ち、危険を自分ひとりに集めてでも護らねばならない人物である、という結論に、あれだけ自信たっぷりだったではないか! それを信じて、作戦の許可を出したのだぞ。
……まぁ、本当にあの子供達に魔法が使えてエージェント達が死んでも、身元は絶対に判らないようになってはいるが……。殺されようが、捕らえられて自決しようが、な。家族や一族郎党に累が及ぶことが分かっているのだ、国を裏切って自白することは決してあるまい。
で、どういう状況だったのだ?」
部下から作戦失敗の報告を受けた、今回の作戦の責任者らしき男は、事の次第を確認した。情報元は、作戦には一切関わらず、駐車場の他のクルマの車内から、そして普通の客として店内から全てを見ていた複数の観測員からの直接の報告であるから、信頼度に問題はない。
「……ふむ、では、やはり子供ふたりは即死魔法とやらを使った形跡はない、ということか。その点においては、分析班は正しかったということか……。で、いつの間にか助け出されていたふたりの子供と、タイヤがなくなったクルマに閉じ込められたエージェント達、というわけか。そして、自決もせずに連れていかれた、と……」
その時点で自決してもおかしくはないが、別に無理にそうする必要もない。何も喋りさえしなければ、時間を稼いで逃亡の機会を待つ、というのは別に悪手ではないのだから。
どうしても脱出が不可能であり、拷問に耐えきれなくなったなら、その時点で自決すれば済む話である。毒薬を取り上げられていようと、舌を噛む、頭を壁に強く打ち付ける、何かの破片で動脈を切る等、自決の手段など、いくらでもあるのだから。
「何、一度失敗しただけだ。我が国が関与したことを示す証拠もないし、万一捕まった連中が口を割ったとしても、でっち上げの陰謀だ、他国のエージェントが罪を我が国に擦り付けるために嘘を吐いている、とか言い張れば済むことだ。そして、次に成功すればいい。
絶対にあの王女を手に入れて、異世界の富を手に入れるのだ! 何、1個中隊程の軍を運ばせれば、どうとでもなる。倉庫に眠っている、時代遅れの旧式武器を金や宝石と交換で売り捌いてもいいしな。
生命力が削られるだと? ふん、我が国を交渉の席から排除したりするからだ、せいぜい我が国のために命を磨り減らすがよい!
さぁ、さっさと次の計画を立案しろ!」
そして、部下達は一斉に部屋から出ていった。
* *
「……ここが、情報局の建物か……」
深夜、ある場所に転移した私の前には、8階建てのビルが建っていた。
……某国の、諜報部門のビルである。『諜報部門』では聞こえが悪いので、『情報部門』と言われているが。
転移は、ある国から提供された写真資料と、衛星写真、緯度経度による数値情報等を基にしての『初めての場所への転移法』で行った。いや、地球上だと、これができるから便利なんだよね。航空偵察を行ったから、今では新大陸もある程度の広さはカバーできたけど、大陸全体から見れば、ほんの一部だ。高々、2~3カ国の上空を少し飛んだに過ぎない。
そして失敗したのが、あの時、旧大陸の上空も少し飛んで貰えば良かったなぁ、ということだ。
ホント、失敗した……。
今度、また航空偵察を行うべきかな。旧大陸と新大陸の、それぞれで。
新大陸も、今度は転移で直接新大陸上空に行けるから、燃料が保つ限り、丸々新大陸の偵察飛行に充てられる。
……って、いかんいかん、今はそんなことを考えている時じゃない。さっさと仕事を終わらせなきゃ。
ビルは、深夜にも拘わらず、窓の多くに明かりがついている。残業が多いのか、24時間営業なのか……。
でも、そんなの構わず、お仕事開始!
「転移!」
8階にいる人間を全員連れて、転移。行き先は、むこうの世界の無人島。そして私だけすぐに戻る。
「転移!」
次は、7階の人間を全員連れて転移。私だけ戻る。
「転移!」
そして、6階、5階、4階と続き、地下3階まで実施。深夜なのに、そこそこの人数がいた。
……なぜそんな面倒なことをするか?
だって、全員を一度に転移させたら、上の階の者が落下して死んじゃうかも知れないでしょ。
そして最後に、無人となったビルを伴ってヤマノ領に転移。予め転移でビルの大きさに合わせて地面を掘っておいたので、地下部分がすっぽりと嵌まって、丁度いい感じ。
……いや、勿論、少し深さがズレて、1階入り口がかなり高い位置になっちゃったけど、大したことじゃない。ずっとここに置いておくわけじゃないし、勿論、住居として使うつもりもないから。
下にコンクリートパイルも打っていないし、水も電気も通っていないのに、こんな建物使えやしないよ。中は暗いし、お手洗いは使えないし、勿論エレベーターも動かない。
じゃあ、なぜ運んだか?
そりゃ、中に色々とあるからね。
秘密の文書、色々なデータがはいったパソコン端末、そしてサーバー。地下室あたりには、隠し金庫とかがあったりして……。
で、それらをそっくり戴いて、パソコンやサーバー、書類等は、ある国に売ってあげる。今回の協力の、報酬の一部として。金目の物は、勿論、うちのもの。
あ、続きをやらなくちゃ。
無人島で大混乱の、8階部分から地下3階部分までにいた人達を、もとの場所へと転移。地下室部分が消えて、大きく抉れた巨大な穴の底に。
ああいう職場は、携帯電話とかは入り口で預けるものだし、もし身に付けていたとしても、転移の時に除外している。なので、この事態が上の方に伝わるには、少し時間がかかるだろう。
よし、今日のところは、この辺で勘弁しといたろか!
* *
「何だと、情報部が消えただと! 何があった、落ち着いてちゃんと報告せんか! 火事か、爆破されたのか! どこの国の仕業だ!!」
翌朝、起きてすぐの、血相を変えた部下からの報告に、激昂してそう叫ぶこの国の指導者。
「そ、それが、文字通り、建物ごと消滅しました。この世界から……」
深い意味があって言ったわけではない、ただの『この世界から』という言葉であるが、それがまさに正解であるなどとは、この報告者は思ってもいなかった。
「何! で、建物にいた者達はどうした!」
そう叫ぶ指導者であるが、別に情報部の者達のことを心配しているわけではない。目撃者による情報が得られるかどうかが気になっているだけであった。
「はい、御安心下さい、人的被害は皆無です!」
「で、そいつらは何と言っている! いったい何が起こったのだ!」
部下のことを心配して下さっている、と感動している様子の報告者の勘違いは無視して、先を急かす指導者。
「それが、夜間勤務をしていると、突然砂浜にいた、としか……。
最初に8階で勤務している者達、次に7階、6階と進み、ほんの数十秒のうちに全員がそこに現れ、そしてその直後、今度は深くて広い穴の底に、と……。携帯電話等もなく、外部に連絡するのにかなりの時間を要したようです。
で、その『穴の底』というのが、情報部の建物が消失した跡の、地下部分だったそうです。切断された水道管、下水管、ガス管その他のために、大変なことになっていたようですが……」
「なん……だと……」
指導者には、そんな荒唐無稽なことができる手段など、たったひとつしか思い浮かばなかった。
「まさか、あの小娘が! いや、そんな……」
そして、全国規模の情報管制を敷いたその翌日。
国防省の建物が消失した。
その跡地に、呆然とした多くの文官や武官を残して。
更にその翌日には、政府高官の自宅が、別荘が、次々と消失。その隠し金庫と共に……。
続いて、政治家と癒着していた財界人の家が、会社が、隠し倉庫が……。
首都の大広場にある偉人像が消え、代わりにおどろおどろしい化け物の石像になっていたあたりで、情報管制も限界を超えて破綻した。
* *
「……王女殿下に取り次いでくれ! 何か、大きな誤解があるようなので、是非それについて御説明し、誤解を解きたい!」
某国の大臣から電話連絡を受けたウルフファングの隊長の対応は、冷たかった。
「電話、郵便物等による接触は一切禁止、指定した電子メール以外の手段で接触してきた国とは一切の連絡を絶つ、とお知らせしておいたはずですが?」
「そ、そんなことを言っている場合ではないのだ! それに、これは交渉のための連絡ではない、王女殿下が誤解のため間違った行動を取られているということをお知らせするための、忠告のための連絡である!」
しかし、隊長は取り合わなかった。
「王女殿下は、何やら『宣戦布告もない奇襲攻撃を受けたため、直ちに応戦します。我が領が反撃することは、国王陛下の御了承を戴いています』とか言ってましたなぁ。相手国が降伏するまで、ここには顔を出さないかも、とかで……」
「なっ……。で、では、王女殿下への連絡手段は……」
「ありませんな、ここへ顔を出すまでは」
「では、交渉も何も……、そもそも、降伏すらできぬではないか!」
ここで隊長は、ミツハがよく使う言い回しを拝借した。
「知らんがな……。では、事前警告通り、貴国からの一切の連絡はカットします。御健闘を!」
そう言って、隊長は電話を切った。
そして即座に、電話機に先程の番号からの電話の拒否設定を行い、パソコンにもメール拒否の設定を行った。どうせ他の電話や別のアドレスを使うであろうが、こちらの意思を示すことができるし、それらの番号やアドレスも、拒否するか無視すれば済むことであった。
そして、隊長は独り言を呟いた。
「えげつないな、嬢ちゃん……。そして、容赦がなさ過ぎだよ……」
『ろうきん』、150話です!
第二部が、第一部と同じ長さになりました。
毎日更新で1日も休まず書いた第一部が、2カ月半。週1回更新の第二部が、1年5カ月。7倍の期間が……、って、当たり前やん!(^^)/
そして来週で、『平均値』が300話に。
『平均値』と較べると、ジュン・サンダースですねぇ。
……はんぶんじゃく。
ミツハ「誰も分かんないよ!」
マイル「いえ、きっと、50人くらいは……」
FUNA「その50人のために、このネタを書こう……」
カオル「ソドムとゴモラかッッ!!」




