表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/498

137 情報収集 2

 みっちゃんを華麗にスルーして、私は侯爵様との話を進めた。

 いや、これは『貴族家当主としての仕事』だ。だから、ダシにされたみっちゃんも、そう怒っているわけじゃない。今は、自分の父親と他の貴族との、言わば『商談の場』だ。家族が横から口出しして邪魔をしていい場面じゃない。

 そして、みっちゃんはちゃんとした教育を受けた上級貴族の娘であり、そして頭のいい子なのだから。


「……それと、この国の船について、興味があります。

 交易で、どれくらいの荷を、どれくらいの日数で、どれくらいの経費で運べるのか、ということ。海賊や海難事故等で船や積み荷、人員等が失われる確率が、どれくらいであるか。そして……」

「そして?」

「我が国が危機に陥った時に、どれくらい当てにできるのか、ということを」


 他国の軍隊のことや船の性能について根掘り葉掘り聞くのはアレなので、そうしても怪しまれない聞き方を考えた結果が、これだ。

 侯爵様は、少し考え込んでいる様子。

「ううむ、難しい質問だな……。

 商人によって、持ち船があるところ、船会社に頼むところと色々あるし、船会社にも色々ある。そして船にも、船員達の腕にも色々ある。事故や海賊の被害にしても、通るルート、使う船、船団の規模、天候、季節と、千差万別だ。単純に数値化したり、ひと言で言い表せるものではない」

 あ、なる程……。そりゃそうだ。


「そして、国同士のことなど、私が勝手に軽々しく口にできるわけがなかろう。それは、どういう条約を結ぶか、とか、条約の内容をどこまで拡大解釈して力を貸すか、ということであり、その時の互いの関係や国内情勢、国際情勢にもよるだろうしな」

 うん、納得!

 船の運動性能については、ここで直接聞くのはやめておこう。拿捕船を調べたり、元捕虜、現在は我が国の国民となった皆さんに聞けば、充分だ。いくら新型船でも、帆船である以上、そんなに急激な性能向上があるとは思えない。余程のブレイクスルーがない限り。


 それに、最新鋭の船については、あの、『軍人くん』からある程度聞いているし、また会うのもそう難しくはないだろう。あくまでも水兵、もしくは幹部候補生の候補、程度の下っ端だろうけど、多分、船の性能には詳しいだろう。何しろ、実際にロープに木片を結び付けたもので対水速力を測ったり、帆を操作したりするのは、その『下っ端』の皆さんなのだから。

 ここでこれ以上船について聞いても無駄だろう。侯爵様は船の専門家じゃないだろうし、国の対外政策の方針について、つまり、新しい大陸を見つけたら侵略するつもりか、なんて聞くわけにもいかない。そういうのは、もっとそれを聞くのにふさわしい相手、ふさわしいタイミングというものが必要だ。

 あとは、世間話でお茶を濁そう。


「で、ヤマノ子爵の国から貿易品を運ぶのに、子爵の国の船だと、どれくらいかかるのかね?」

 うおっとぉ! うちの国を局限するための質問が来たよ!

 これに答えちゃうと、うちの国までの距離が判り、候補が数カ国に絞り込まれちゃうよね。しかも、うちの船、という質問に素直に答えたら、海に面した国だということが判明する仕組みだ。

 だから、勿論、答えは……。

「単純に数値化したり、ひと言で言い表せるものではないですねぇ」

 侯爵様の言葉を、そのまま丸パクリでお返しした。

「……そうか」

「……そうですねぇ」

「「あはははは!」」


「ふたりだけで分かる話をしないで下さい!」

 ありゃ、みっちゃんが膨れてる。御機嫌を取らなきゃ!

 みっちゃんは、この国で最初の、そして現在のところ、唯一のお友達だからね。

 ……あの、ネックレスをあげた、誕生パーティーの伯爵家の子?

 あれは、初めて社交界に招いてくれた伯爵家へのお礼と、紹介してくれた銀行の頭取さんの顔を立てるのを兼ねた、誕生祝いのプレゼントだ。勿論、主目的は、私が『便宜を図るとメリットがある、世間知らずの女の子』だということのPRだけど。


 つまり、『初めて招いてくれた伯爵家の娘』という駒に、私の思惑でパフォーマンスのためにああいう役割を振っただけだ。命を助け、助けられた仲のコレットちゃんやサビーネちゃんとは違う。

 そりゃ、あれを切っ掛けにして、これから本当のお友達になれる可能性はあるけれど、それは『未来の可能性』であって、今現在のことじゃない。


 それに、伯爵が、みっちゃんまで巻き込んで、無理矢理お友達に、それも親友扱いで既成事実化しようとしたのには、少し腹が立った。

 ああいうことをされて、私がそれを受け入れたとなれば、同じような手口でゴリ押ししてくるところが必ず出る。私が押しに弱い、と思って。だから、私の意向を無視してゴリ押ししたりデマを流す者は相手にしない、ということをはっきりと示す必要がある。あの次女さんには悪いけど。


 そういうわけで、今のところ、この国でのお友達は、みっちゃんだけ。

 みっちゃんは、自分から私に声を掛けてくれたから。それも、多分自分はあまり好きではないであろう『胸ネタ』の突っ込み役を買って出てまで、テンパっていた私に救いの手を差し伸べてくれた。ルビーが貰えるかも、なんてことは考えもせずに。

 あの中でただひとり、眼におかしなギラつきがなかった、誇り高き貴族の少女。


 そして、みっちゃんと侯爵夫妻に、更に3人の息子さん達も加え、世間話が始まるのであった。

 ……勿論、私が欲しい情報を積極的に話題にした世間話を、だけどね。

 でも、それは向こうも同じだ。それとなく話題に混ぜ込まれた、私の国を局限するための罠。私の身分や立場、家族の話。無意識に母国語の単語を喋るよう誘導される会話。

 ……疲れるわ!!


     *     *


 程々の時間になり、撤収。

 いや、程々も何も、訪問した時間が、既に非常識な時間だったか……。

 とにかく、パーティー会場とかで知らない人に聞くにはちょっと問題があるようなこともズケズケと聞き、かなりの情報が収集できた。

 結構いい情報が聞けたのは、侯爵様が私を味方、……少なくともこの国においては味方と判断してくれたからだろう。まだこの国には他の貴族の知り合いがいない私には、侯爵様の敵側に廻る理由がないし、そもそも、組む相手がいないからね。みっちゃんとも仲がいいし。

 ……いいよね? 


 それでまぁ、侯爵様は、自分の爵位や政財界への影響力等からも、私が頼って擦り寄るのにふさわしい人物だと自認しているから、私の『仲間になりたそうにこちらを見ている!』という状態に、全く疑問を持ってはいなかったのである。

 ……自分に自信がある人は、違うねぇ! 私だったら、擦り寄ってくる人がいたら、どんな下心があるのか気になって、警戒心バリバリだよ。もう、後世に言い伝えられるくらいの、バリバリ伝説だよ!


 まぁ、私が味方なのは、あくまでも国内問題においてのみ。国際問題となると、勿論母国のために動くと思われるのは当たり前だけど、そもそも、この国、ヴァネル王国は大国だ。まだこの国とまともな貿易もしていないような小国が、理由もなく敵対行動をとるわけがない。外交に、貿易にと、何とか取り入って友好国に、と考えるのが普通だろう。

 そして、そのための事前準備として、情報収集とコネ作りのために送り込まれた、妾腹の美貌の王女、ミツハ。

 ……とでも考えているんだろうな、多分。……『美貌の』というところには、突っ込むな!

 だから、あまり追及して私が距離を置くようになるよりは、と、私に敵対派閥が取り付かないように気を配りつつ、緩いお付き合いをしてくれているのだろう。

 いや、全部、私の憶測に過ぎないんだけどね。


 で、話の最中に聞いたんだけど、どうやら侯爵様は陸軍方面に顔が利く人らしい。

 残念! 海軍だったら、色々と便利……、いや、そうでもないか?

 海軍の派閥のひとり、というよりも、畑違いの陸軍の派閥の方が、海軍のどの派閥にも接触し易いかも? そして、海軍の人に見当違いのことを言っても、『陸の派閥の関係者である、小さな女の子』ということであれば、笑ってスルーして貰えるし、興味本位で色々なことを聞いても、警戒せずに教えてくれるかも?

 よし、これはこれで、悪くないかも知れないぞ。


「では、馬車を廻させよう」

「あ、歩いて来ましたので、馬車は預けてません。帰りも歩きますから……」

「「「「「「「夜道を、女の子ひとりで歩かせられるかあああぁっっ!!」」」」」」」


 思い切り、怒鳴られたよ。

 みっちゃん一家、シンクロ率、高いなぁ……。



15日(木)、『私、能力は平均値でって言ったよね!』7巻、発売です!(^^)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  一般常識的にも馬車とか用意させますよねwせめて一般人でも近くまで送るとかw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ