125 航空偵察 2
あれからかなりの時間、大陸上を飛んで貰った。
私の希望だけではなく、元々、『できる限りの情報を収集するように』との指示を受けていたんだろうね。私が、もういいですよ、と言っても、まだ大丈夫ですから、と言って飛び続けてたから。
学者さん達が『もっと低く飛べ!』と騒いでいたけれど、あんまり低いと地上の人達に見つかっちゃうよ。視認もだけど、爆音とかで。それに、視認範囲も狭くなっちゃうし。
リアルタイムで詳細が視認できなくても、高性能カメラで撮影しているんだろうから、あとで幾らでも拡大して分析できるじゃん!
そして、暗くなって地上が視認できなくなった頃に、ようやく諦めてくれた。
もうとっくに燃料が半分を切っているだろうと思うけれど、別に問題はない。
「じゃ、帰還します。30秒前!」
そして、来た時と同じように怪しげな呪文を唱え、転移した。
出現したのは、出発地である空軍基地から少し離れた場所。
さすがに、飛行場のすぐ近くにいきなり出現するような馬鹿じゃない。航空事故の大半は、飛行場の周辺で起きているのだ。多分今日は他の航空機の飛行は制限されているだろうとは思うけれど、念には念を、というのが私の主義なのである。
そして私達を乗せた給油機は、無事、基地の滑走路に着陸したのであった。
* *
「今日は、色々とありがとうございました。では、これにて……」
「いやいや、これくらい、お安い御用です。いつでも御用命下さい。まだ、確認していない他の大陸とかもあるのでしょう?」
基地司令の言葉に、外交官さんも大きく頷いている。
まぁ、確かに、得られた情報と私への貸しを考えたら、安いものかも知れないな。
でも、情報といっても、地球より文明レベルの劣った国を上空から撮影しても、あまり意味がないと思うんだけどな。これから戦争するだとか、侵攻するとかなら、そりゃ意味は大きいだろう。でも、自分達が行くことのできない世界の写真なんか、大した意味はないだろう。
一応、データの他国への流出は厳禁してある。それと、大気のサンプルとかを採っていたみたいだけど、勿論転移の時に空気中の微生物なんかは全部シャットアウトしてある。まぁ、気体成分の分析はできるだろうけど。
ま、だからこそ、私も今回のことを計画したんだけどね。
あの世界の文明レベルは、既に周知のものだ。だから、今回のことも、別に知られて困るようなことは何もない。飛行の目的も、ただの『自分達の大陸のことしか知らないから、昔の言い伝えに残っている、海の向こうの大陸とやらの確認がしたい』という、興味本位の調査飛行、ということになっている。
なので、大体の方位や距離は言い伝えによるものであり、誤差が大きいかも、と言っておいたのだ。そう、間違っても、『視認したら転移できるようになるから』などということは漏らさない。
あ、そうだ、もしドラゴンとかが写真に写っていたら、場所を教えて貰おう。何かに役立つかも。
そういうわけで、私の日帰りクエストは、これにて終了。あとは、暇を見てちょこちょこと調査に行けばいい。あの国も東欧系の人種らしいから、私だとちょっと目立つかも知れないけど、遠くの国から来た異人種も少しは居るらしいから、ま、何とかなるなる!
危なくなれば、逃げればいいんだし。逃げることにかけては、いささか自信がある。
* *
というわけで、数日後。
写真と、解析結果を渡して貰った。
そして、それとなく報酬をほのめかされたため、仕方なくうちの領地の近海で獲れた『カンブリア紀みたいなやつ』を1匹あげたら、狂喜してた。焼くと美味しいから、焼き方を教えてあげようとしたら、固辞されたよ。
身のほじり出し方を実演しようとしたら、羽交い締めにされて止められた。セクハラだよ、セクハラ! セクシャル・ハラショーだよ、コンチキショー!
まぁ、いいや。さすがに、今のは私がちょっと悪かった。あげたものは、もう向こうのものなのに、それを勝手に弄ろうとしたのは、こっちの落ち度だ。今回は、引き下がろう。
そして、貰った資料を持って、王都の『雑貨屋ミツハ』の3階へ。
さすがにこれは、セキュリティが万全で他の者が立ち入れないところでないと……。
ふむふむ、港の拡大写真によると、外洋帆船が数十隻か……。分析による全長の推定値は、と。
う~む、この感じだと、やはり拿捕した船は一世代前の旧式船かな。新型船が配備されて、古いのが調査船団用に廻されたか。詳細は、やはり直接見ないと分からないよねぇ。
周辺国も、似たようなものか。さすがに、この写真じゃ細かい文明レベルは分からないよねぇ。やっぱ、行くしかないか。
って、最初からそう決めていたんだよね。
そう、金儲けは地球との秘密の小規模貿易だけでなく、大陸間での貿易でもできるんだよね。それも、地球とのごく小規模なものとは違い、少し規模を大きくしても構わないだろう。何せ、同じ世界のものなんだからね。
金と銀との交換レートが違えば、それを利用して荒稼ぎ……、いやいや、それは最後の手段に取っておこう。いざという時には、金、銀、真珠で起死回生。金、銀、パール、プレゼント!
* *
……で、ここはヴァネル王国、新大陸である。
いや、新大陸のことが気になって気になって、何も手につかなくなっちゃったもんで、ちょいとばかし遠足に。
勿論、おやつは、250円。多く買い過ぎた50円分は、行く前に食べたから大丈夫。
お金は、船の金庫にあったやつと、乗員が持っていたやつを両替してあげた分とで、充分な額を持っているから、問題なし。
あ、この大陸のことは、分かりやすいように『新大陸』と呼ぶことにした。
そして今は、夜。
明るいうちに来た方が時間的には便利だけど、夜ならば転移で出現するところを偶然見られる可能性がほぼ無くなるので、安全優先。
そりゃ、街から遠く離れた森の中とかに転移すれば昼間でも見つからないだろうけど、その後の移動が大変だ。それよりは、街のすぐ近くに、暗くなってから転移した方が楽だし安全だ。
そういうわけで、この港町の街外れに転移して、今は街中で宿を探している最中。
あ、あった。あそこでいいや。
「すみません、部屋、空いてますか?」
ここでも、当然子供に見られるけれど、子供だろうが他国人らしかろうが、前払いの客にどうこう言う者はいない。それに、私の服装は、どう見ても貴族か金持ちの娘っぽいし。
問題なく部屋が取れ、すぐにベッドにはいる。ここのトイレを使うのは気が進まないから、さっさと寝るに限る。ま、トイレの個室にはいってから転移して自宅で済ませ、また個室に戻ればいいんだけど。
明日は、忘れずに『日中に転移しても問題ない場所』を探しておこう。そうすれば、朝方転移して夕方に戻る、という、『日帰りクエスト』が簡単になるからね。
そして、翌朝。
固いベッドのせいでバキバキの身体をほぐしながら、ふと気が付いた。
部屋を取ってから家に戻り、快適なベッドでぐっすり眠って、朝にこの部屋に転移すれば良かったのでは?
くそおおおおぉ! いくら優れた能力を持っていても、それを効果的に使う頭脳が無きゃ、意味がない! もしかして私、他にも、しなくていい苦労をしてるんじゃなかろうか……。
今度一度、じっくりと考えてみようかな……。
よし、頭を切り換えて、出発!
まずは、転移ポイントを選定。
あちこちをうろついた結果、公園の木立の中に、いい場所を発見。
木々にうまく遮られて、どの方向からも見えず、そしてそんな場所にわざわざ人が立ち入ることはなく、しかしそこから出てきてもそう違和感がないという、絶好の場所。これで、日中に転移してくるのも安心だ。
そして次に、港へ行って、船の確認。
転移先に、王都ではなく、この国で一番大きな港町を選んだのは、勿論このためだ。
怪しまれそうなカメラなんかは持ってきていない。そんなものは無くても、船の形式や大きさ、帆、砲列甲板の層や砲門の数を見れば、大体分かる。まぁ、ある程度は写真分析で解析済みなんだけどね。
で、やってきました、軍港近く。勿論至近距離には近付けないけれど、元々そんな必要はない。遠くからで充分だ。
う~ん、砲列甲板は2層で、60門艦クラスかなぁ。ガレオン船に近いやつで、戦列艦という程のものじゃないか……。
でも、拿捕したのは、もっと小型で搭載砲数も少なかった。やはり一世代前の、旧型艦だったか……。二世代前、って程じゃないかな。
やはり、対等の艦を作るのは無理そうだな。いくら地球の帆船の設計図を使っても、蓄積された技術もノウハウも無しじゃ、大型艦の建造は難しいだろう。たとえ形は真似られても、精度や強度がお話にもならず、水漏れやら竜骨がポッキリ折れたりと、『悲しい出来事』が起こりそうな気がする。
ここはやはり、小型の高性能艦に長射程の新型砲を搭載、アウトレンジで滅多打ち、しかないか。
大口径砲もアリかな。この時代の艦載砲は、先込め式だから弾の装填には砲身を艦内に引き込む必要があり、それが理由で大口径にできないのであって、別に艦の大きさによる制約じゃない。だから、元込め式の新型砲なら、大口径化が可能だ。
小口径の無旋条先込め球形弾砲を積んだ大型で運動性能の悪い艦対、大口径の旋条式元込め椎の実弾砲を積んだ中型で運動性能が良い艦。
うんうん、何か、イケそうな気がする~!
「お嬢ちゃん、こんなところで、何をしているのかな?」
うおっ!
切り株に腰掛けて敵陣偵察に熱中していたら、いきなり後ろから声を掛けられた!
この山のミツハ、一生の不覚!!




