121 魔物討伐 3
ゴブリン討伐からしばらく歩いて、今度はオーク。
いや、ウサギ(角付き。指揮官用?)も出たけど、団員さん達はふたりとも、「フン!」って無視してた。美味しいのに……。
そして今、前方に現れた、オーク3頭。
「撃て!」
隊長さんの指示で、3丁のアサルトライフルが軽快な発射音をたてた。勿論、3頭の敵に対してフルオート射撃をするはずもなく、セミオート射撃である。
拳銃ならばともかく、アサルトライフルにとっては至近距離。プロの傭兵なのだ、撃ってこない相手に対する余裕を持った単発射撃で、外すようなことはない。……が。
「くそ、5.56ミリじゃ効かん!」
隊長さんが敢えて選んだ5.56ミリ弾では、小銃のフルサイズ弾である7.62ミリ弾を使用するバトルライフルに較べ威力不足みたいだ。人間相手ならば、弾速の高速化と弾頭の形状や材質を工夫したことで弾頭重量の減少による威力低下を補うことができても、頑丈な魔物に対しては、やはりパワー不足か……。
と思ったら。
「くそ、胴体にはあんまり効かんぞ!」
ありゃ、7.62ミリ弾の銃を使っている団員さんも、何やら悪態をついている。
勿論、全然効かないわけじゃないけど、人間のように1、2発で戦闘力を完全に失うかというと、そういうわけにはいかないらしい。さすが、魔物だけのことはある。
そもそも、使っているのは軍用の完全被甲弾だから、当たった後で弾頭が潰れにくく、銃創が酷い傷にはなりにくい。そして、人間、特に戦場にいる人間にはあり得ないほどの、分厚い肉。この、分厚く強靱な魔物の肉を貫き致命傷を与えるには、いくらフルサイズ小銃弾とはいえ、1、2発では威力不足だったようである。
王都での戦いの時は、軽機や重機を含めての撃ちっぱなしだったから、1発、2発の効果とかはあんまり気にしていなかったけど、急所に当たらない限り、なかなか倒せないみたいだ。
「頭を狙え!」
うん、胸板を打ち抜けないなら、筋肉が無く、鍛えようのない場所を狙えばいいだけのことだ。
さすがに、仮にもアサルトライフルの弾だ、頭蓋骨を打ち抜けないということはないだろう。
本当は、もっと色々なところに当てて研究したかったのかも知れないけれど、かなりの速さで突っ込んでくるオークに、ちょっと危険を感じたらしい。今回は、さっさと片付けることにした模様。
そしてそれぞれ2発ずつ、合計6発の銃声が響き、3頭のオークは地に倒れ伏した。
「アサルトライフルじゃ、威力不足か……」
「頭部を狙わなきゃダメなんじゃ、状況によっては制約が大き過ぎるし……」
「特殊弾を使えばいけるかも知れないけど、高くつくし……」
「うむむ、嬢ちゃんのところが魔物の群れに襲われた場合、アサルトライフルと分隊支援火器だけじゃ厳しいか……」
ありゃ、自分達の楽しみだけじゃなくて、うちの領地のことも考えての調査を兼ねていたのか! ごめん、見損なっていたよ。
確かに、分隊支援火器は分隊員が使うアサルトライフルと互換性のある弾丸を使うのが普通だから、今の主流である5.56ミリじゃ、いくら連射性能は良くても力不足か。そりゃオーク1頭に何発も集中して当てれば問題なく倒せるだろうけど、それはまともな戦い方じゃない。
伯爵様達は、難なくオークを倒した『雷の杖』に畏怖の眼を向けているけど、その『雷の杖』は、決して万能というわけじゃない。
「じゃあ、先に進みましょう」
せっかくの獲物を置き去りにするのを、猟師さんが残念そうな顔で見てる。でも、どうせ村まで担いで帰ることはできないから、諦めようね。私達に担がせるわけにもいかないだろうし、猟師さんが自分で担ぐにも、伯爵様に指名された案内人である自分がお役目の途中で自分の稼ぎに時間をかけることも、荷物を担いで案内の速度が大幅に低下することも、許されようはずがない。ま、後で私からも給金を弾んであげよう。
そして更にしばらく進んだ後。
至近距離で、突然魔物が木々の陰から 飛び出した。
「オーガだ! 複数!」
猟師さんが、焦った声で叫んだ。
オーガ。このあたりで出る魔物の中では、一番強い魔物だ。そして、距離が近過ぎる!
慌てたウルフファングの3人によるアサルトライフルの射撃音が響くが、あまり効いていない! 顔面を狙った弾丸も、丸太のような腕で遮られた。空になった弾倉を交換しようとした団員さんが腕で払い飛ばされ、もうひとりの団員さんは弾倉交換の時間がないと判断して、腰から副兵装である拳銃を抜いて連射したが、小銃弾が効かなかったものに、拳銃弾が通じるはずもない。
団員さんが先頭のオーガに殴り飛ばされる、と思った瞬間、隊長さんが残弾全てをそのオーガの顔面に叩き込み、さすがにいくら5.56ミリ弾とはいえこれには堪らず、倒れるオーガ。
しかし、その後ろにはまだ数頭のオーガが続いている。
払い飛ばされた団員さんは、生きてはいるようだけど、まだ立ち上がれる状態じゃないらしい。隊長さん達は急いで弾倉交換を行おうとしたけれど、目の前に迫ったオーガの速さには追いつかず、殴りかかるオーガの腕を銃で受け流さざるを得なかった。
逃げなくちゃ! いや、サビーネちゃんとコレットちゃんを逃がさなきゃ!
拳銃なんか役に立たない。何とか、この場から逃げ出して……。
そう考えながらも、私が半ばパニックに陥っていると。
ざしゅ!
気が付くと、後ろにいた伯爵様達が私達の前に飛び出して、剣を振り下ろしていた。
ざしゅ、ぶしゅっ、どすっ!
振り回される8本の剣に、周りに血しぶきが飛び散る。
8本。そう、ボーゼス家の護衛4名、そして伯爵様、アレクシス様、テオドール様、イリス様の、計8名の剣である。
貴族家の男子たる者、戦場で部下を率いて戦うのであるから、一般兵士より強くて当たり前。そのため、幼少の頃から訓練をしているらしい。テオドール様も、結構様になっている。勿論、護衛達がアレクシス様、テオドール様、そしてイリス様に危険が及ばないように全力でサポートしているが。
どうやら伯爵様にはサポートの必要がないらしい。護衛達は、さすがに領主一家の護衛、しかも精鋭30名の中から更に選抜されただけのことはあり、オーガ相手に戦える凄腕らしいけど、明らかに、伯爵様はそれより強いよね?
うん、伯爵様、アレクシス様、テオドール様はいい。さすが、貴族家の男性だけのことはある。
……しかし、イリス様、あなたはどうしてそんなに強いのですか!
ほら、また、オーガの喉を切り裂いた……。
そして、伯爵様達が時間を稼ぐどころか、完全にオーガを塞き止めている間に、団員さん達は弾倉交換を終えていた。払い飛ばされた団員さんも、大きな怪我はなかったのか、戦線に復帰。
隊長さんのアサルトライフルは、どうやら使えなくなったらしい。右手に拳銃、左手にナイフを握っている。
余裕さえあれば、いくらオーガ相手とはいえ、7.62ミリ弾でも充分な働きはできる。弱点を狙えば良いのだ。そしてこの、超至近距離。更に、眼前の兵士達の剣に全ての注意力を集中させているオーガの頭部を狙い撃つなど、容易いことであった。オーガは身長が高いから、味方を誤射する恐れもない。
暫し銃の発射音が続き、そして全てのオーガは地に伏した。
「……ヤバかった……」
隊長さんの呟きに、蒼い顔で頷く団員さん達。
「甘く見ていた。確かに急所に当てればアサルトライフルでも倒せるが、腹や胸板じゃあ、5~6発当てても向かって来やがる。これじゃあ、至近距離で急に襲われたり、大群に取り囲まれたらマズいぞ……。あの時は、条件が良かっただけか……」
そう、王都絶対防衛戦の時は、距離が充分あり、間を遮るものがなく、敵が突っ込んでくる前に一方的に撃って追い払えた。しかも、重機関銃の掃射付き。もし森の中で突然、多数の魔物と近距離で出くわしたら。……おそらく、命はないだろう。
それに較べて……。
私達を守るために無理をしたため、護衛のうちふたりが負傷していた。しかしそれも、命に関わるとか、後遺症が残るとかいうものではない。私達にとっては割と深手かも知れないけれど、多分、彼らにとっては軽傷なんだろう。仲間に傷を縛って貰い、平気な顔で笑っている。
本当に凄い。オーガのあの巨躯に剣を振りかぶって平然と向かい、振り回される腕を避け、斬撃を与え続けるその勇姿。まさに、漢の戦い、『戦士』と呼ぶにふさわしかった。武器の威力に頼った現代地球人とは、身体から立ちのぼる覇気が違うよ!
彼らの力がなかったら、今頃私達は……、って、どうしてみんなを連れて転移しなかったのかな、私! 何、ボケてたんだよ! 人死にを出すところだった。許されるミスじゃないよ、これ!!
恐怖に固まっちゃって、頭が回らなかった。
ダメだ、ちょっと調子に乗ってた。危機感が麻痺してたんだ……。
伯爵様達は、自分達が転移させて貰うことなど考えてもいなかっただろう。隊長さん達も、戦いの最中に、『転移』という馴染みのない概念が思考に割り込む余裕はなかっただろうし。それに、甘い考えで護衛の人数を無理矢理減らさせたのも、私だ。結局、私のミスで、護衛の人達に怪我をさせ、みんなを危険に晒した。あああああ……。
護衛の人達は、伯爵様御一家だけでなく、救国の姫巫女様である私や神兵様達を自分達が護った、という栄誉に盛り上がり、たとえ雷の杖という神具は無くとも、自分達はこの剣で神命にも応えることができるのだと、気勢を上げていた。
そして自分達の失態に肩を落としていたウルフファングの3人は、それを眩しいものを見るような眼で眺めているのであった。
……うん、ここまで『漢』としての力量の違いを見せつけられちゃ、仕方ないよねぇ……。
あ、軟弱だと思っていた貴族の子弟、そして女性であるイリス様にも助けられ、神兵様の立場がありませんか、そうですか……。




