102 現 場
そして2日後、ようやく現場に到着。
前方に、街道脇に寄せられた数台の馬車が見えてきた。
「ストレート!」
自信たっぷりに手札を晒すサビーネちゃん。
「ワンペア……」
投げやりにカードをテーブルに置くコレットちゃん。
そして私は……。
「奇面フラッシュ!」
そう、同種札が5枚揃った、ストレートより強いフラッシュである。『奇面』は、勢いで付けた。後悔はしていない。
フラッシュは、ストレートより簡単に揃えられそうな気がするが、ストレートよりも強いのである。勿論、スリーカードよりも。
勝った!
そう思い、にやりと笑った私に掛けられた声。
「フルハウスですわ!」
ええええええぇ~~っっ!
「ゲッゲッゲッ!」
馬車内に響く、王女殿下の勝利の声。
……って、気持ち悪いわ!
「到着致しました!」
「伯爵の馬車の側に着けなさい!」
一瞬で表情と声を切り替え、御者に指示を出す王女殿下。
……怖いわ!
普通であれば、側付きの女官とメイド達が同乗するところを、王女殿下と私達だけで過ごした2日間。王女殿下にとっては楽しい2日間だったようだけど、私達には、その、あの、……まぁ、面白かったから、いいや。
殆ど壊れたかと思っていた王女殿下は、到着と同時に元に戻った、……ように見える。
そして馬車が停止すると共に、騎馬や他の馬車から飛び出した護衛達が周囲を固めるのに必要な時間を置いてから、馬車を降りる。勿論、下位者である私達が先に降りて、安全を確かめる役である。その後、王女殿下がお降りになる。
他の馬車から降りた大臣、有力貴族、軍の高官等も王女殿下の周りに集まった。
「使節団の皆さんは何処ですか!」
「ここにおりますぞ、レミア王女殿下!」
王女殿下の声に、すぐに返事が返ってきた。そして、それと共に使節団の中で一番豪華な馬車から、使節団長であるコーブメイン伯爵様が降りてきた。
「おお、伯爵、御無事なようで、何よりです! 大変な目にお遭いになられましたが、それだけは重畳でありました……」
王女殿下は、そう言って伯爵を労った。
ここでは、労りの言葉は掛けても、謝罪の言葉を掛けるわけにはいかない。あくまでもこの件は盗賊の仕業であり、盗賊は無国籍、この国に税を納めているわけではなく、他国から流れてきた者達かも知れない。なのにここで王女たる者が謝罪してしまえば、それは国がこの件を自国の責任だと認めてしまったということになり、それは政治上の大きな弱みとなるからである。
なので、これはあくまでも不幸な出来事であり、この国とは全く関係のないことである、というスタンスを崩すことは許されない。
「それで、御被害は! 賊共は、いずこに逃げ去りましたか!」
そう問う王女殿下に、伯爵様は、にこやかにこう言われた。
「当方に人的、物的被害はなく、盗賊共は壊滅、捕虜を捕らえております。おい、連れて来い!」
後方の護衛に伯爵が命じ、すぐに縛り上げられた3人の盗賊が連れて来られた。
「「「「「え……」」」」」
思わず声を漏らし、顔色が悪くなる王女の周りの人々。
それはそうである。見れば分かる。
古びた服を着てはいるが、2日間で少し伸びたとはいえ、襲撃当時には綺麗に剃られていたであろうと思われる、短い髭。刈り揃えられた髪。そしてお揃いの剣とブーツ。
衣服は変えても、値段が高く、そして使い慣れたものでないと安心できない剣とブーツは、普段のままのものを使用したのであろう。多分、動転した他国の者には分かるまい、とでも考えて。
しかしそれは、自国の王宮関係者や軍人達の目から見れば、一目瞭然であった。
(((((我が軍の、軍人……)))))
「この捕虜を我が国に連れ帰り、拷問して全てを吐かせます。吐いた情報は、この国にも全てお教えしますから、盗賊一味の根絶に御活用戴きたい」
伯爵様の言葉に、この国の人々は皆動揺していたが、その中でも特に激しく動揺している数名の者達がいた。
「ど、どうせ盗賊の言うことなど信用できません! 今すぐ殺してしまうべきです!」
大臣のひとりが、突然、そう主張し始めた。
「そうだ、いつ逃げ出して、また盗賊になって人を殺すか分からない! この場で殺すのが一番です!」
そう言いながら、剣を抜こうとする数名の軍の高官達。そして、その前に立ち塞がる、使節団の護衛兵達。
捕虜達は伯爵様の後方にいるため、それは、他国の軍人が使節団長である伯爵様に向かって剣を抜く態勢になるため、当然の行為である。
「やめなさい!」
王女殿下の鋭い叱責の声が飛び、王女殿下を始め、多くの人々に非難の眼で睨み付けられた軍の高官達は、渋々引き下がった。
「他国の使節の方々に向かって剣を抜こうとするとは、何事ですか! しかも、賊の処遇は、捕らえた方々の判断によるもの。何を、無関係の者が差し出がましい真似を……。
我が国の威信を地に落とすつもりですか! それとも、何か、賊に証言されては都合の悪いことでもあるのですか?」
王女殿下の辛辣な言葉に怯む、捕虜の殺害を主張していた者達。
「ところで、第4大隊長……」
「は?」
王女殿下に突然名指しされ、怪訝な顔の大隊長。
「あの盗賊達は、なぜ我が軍の支給品である剣とブーツを身に着けているのですか?」
「あ……、うっ……」
額に脂汗を滲ませた大隊長に代わり、横から言葉が返された。
「それは、おそらく納入業者が軍に納められない規格外の製品を一般販売したものではないかと……」
そう返事した第4大隊の第1中隊長を、じろりと睨む王女殿下。
「ほほぅ、たまたま捕らえられた3人の賊が、偶然、揃いも揃って同じ業者から剣とブーツを購入したというわけですか? それなら、多分、賊達全員がその業者から同じ剣とブーツを買ったのでしょうね? たくさんの失敗作を作る工房ですね。それでは、商売をやっていけないでしょう?」
「う……」
黙り込む、第1中隊長。
「もしかして、この者達が我が軍の兵士、というようなことはないでしょうね?」
そう尋ねる王女殿下に、第4大隊長が慌てて答えた。
「そ、そのようなことはあり得ません!」
「ならば、この者達やその家族、親族等は、盗賊とその一味として処罰されることとなりますが、それで構わぬと言うのですね? この者達は絶対に我が軍の者ではない、と?」
「勿論です! そのような者など、我が第4大隊にはおりません!」
顔を真っ赤にしてそう言い募る大隊長に、王女殿下は悪い笑みを浮かべて言った。
「ほほぅ? 私は『我が軍の者ではないのか』と聞いたのに、それを否定するのに『第4大隊のものではない』と答えるのですね? まるで、盗賊行為を行うならば第4大隊の者しかあり得ない、といわんばかりの言い方ですね、それでは……」
「え……」
「そして、大隊の数百名の兵士達を全て知っており、決してその中にはいない、と断言するのですね。盗賊として一族郎党をその一味として取り調べよ、と」
「も、勿論です!」
そこで、私が伯爵様の後方に向かって声を掛けた。
「出てきて下さい!」
私の声に、すぐ後ろに駐めてある伯爵様の馬車の扉が開かれて、中からひとりの盗賊が降りて来た。
「……だそうですよ、ダリスソン王国軍第4大隊第1中隊の、第3小隊長さん!」
「「「「「「え……」」」」」」
愕然とし、口を開いたまま絶句する、王女殿下以外のダリスソン王国勢。
そして、怒りと憎しみを滾らせた眼で大隊長と中隊長、そして大臣のひとりを睨み付ける、捕虜であった小隊長。
そう、捕虜を取った、と言ったが、誰も3人だけとは言っていない。
おそらく、大臣や大隊長達は、命令の詳細を知っている小隊長が死んだと思い、やるべきことの命令のみ聞かされて詳細は知らない一般兵士3人であれば、命惜しさに兵士だと言い張っているだけの盗賊であり、そのような者は部下にはいない、と主張すれば済むとでも思っていたのであろう。
確かに、盗賊と軍の高官の言うことで、盗賊の方を信じる者はいないだろう。それに、王都へ向かう途中で「逃げ出そうとしたため、やむなく殺した」とか、「突然苦しみだして……」とかになる可能性が高かった。同行しているのは近衛軍であるから、第4大隊の下級兵士の顔を知っている者などいないであろう。顔を切り刻むか、岩に叩き付けるか、野営時に馬車に火を放つか……。殺してしまえば、死体の顔を判別できなくするくらい、どうとでもなる。
それでも、念の為にと、色々と喋られる前にこの場で即座に殺そうとしたのであろうが、それは使節団側の護衛兵により阻止された。
「お忘れですか、大隊長、中隊長。軍務大臣のマウンホルツ様からの特別命令だと言って、隣国からの使節団を襲い、王女殿下、使節団長、そして雷の姫巫女様を確保し、異国の秘密兵器を奪取するようにとお命じになった、第3小隊長のノイトソン少尉ですよ。つい数日前のことではないですか……」
全然笑っていない眼で、口元だけを笑顔のように歪ませたその顔は、怖かった。
それはそれは、怖かった……。
今日(水曜日)は、本作品のコミカライズ第2話の掲載日です。
そして週末、30日(金)は、本作品の書籍化、第1巻の発売日!(^^)/
よろしくお願い致します。(^^ゞ




