100 襲 撃
イライライライライラ……。
ああ、イライラするぅ!
いや、最初の訪問国であるダリスソン王国の王都マスリカから使節団の馬車に乗って少し離れた後、『ビッグ・ローリー』(いつまでも「キャンピングカー」では可哀想なので、名前を付けた)を転移輸送、略称「転送」で自宅から運び、サビーネちゃん、コレットちゃんと共に乗り換えたんだけど。
勿論、ビッグ・ローリーは前回のように前方に出しておいて、ずっとそこに駐めてあったように偽装した。伯爵様達には、不用心だ、盗まれなかったのが不思議、と、さんざん叩かれたけど。
そして、ちょっと考えがあって、使節団の本隊を置き去りにして先行することなく、一緒に移動しているのだ。
私達が先頭にいると、本隊を引き離さないよう常に後ろを気にしなくてはならないため気疲れするので、後ろに付いている。まぁ、排気ガスを浴びせかけるのは馬さん達に悪いしね。
そして、あまりのノロノロ運転に、イライラが募っているわけである。
こんなに低速だと、プラグがカブるわ!
いや、それ以前に、精神的に参ってしまう。
ちょっと心配なことがあって本隊に同行しているのだから、仕方ないんだけど……。
相談したところ、伯爵様も私と同じ心配をされていたので、まぁ、2~3日は同行せざるを得ないだろう。
その後、しばらくノロノロ運転を続けた後、街道脇にビッグ・ローリーを駐めて3人でのんびり寛ぎ、本隊が視界から消える直前に走り出して追いつく、というのを繰り返せば、かなりストレスが軽減されることに気が付いた。
……と思ったら、退屈したサビーネちゃんとコレットちゃんが後部へ引っ込んでドラクエ3を始めた。
うがああああああぁ!!
そして、王都を出発してから2日後。
ようやく、待っていたものがやってきた。いや、全然嬉しくないんだけどね。
そう、盗賊に襲われたのである。
岩山のふもとを迂回する部分で、見通し距離が短い場所で突然前方に現れた盗賊の群れ、およそ25~26人。強行突破できないように、御丁寧に横向きにした馬車で道を塞いである。
一時停止して少し経った時だったため、私達と本隊との距離は然程離れておらず、走り出してすぐに追いつき、停止していた本隊と合流。その後、後方にも14~15人の盗賊が現れ、前後を挟まれた。
後方は馬車で塞がれてはいないけれど、退避や方向転換用のスペースが作られていない場所で馬車の向きを変えるのは難しいし、そうする余裕を与えて貰えるとも思えない。
街道の右側は切り立った岩山、左側は少し空いているものの、地面はでこぼこの岩地で、大小の岩が出っ張っており、とても街道を外れて馬車が疾走できるようなものではない。つまり、振り切って逃走、というのは不可能ということだ。
そして、ゆっくりと近付いてくる盗賊達。そう、違和感バリバリの、盗賊達である。
何が違和感かと言うと、ボロを纏ってはいるけれどきちんと剃られた髭、お揃いの革の半長靴に、手入れの行き届いた剣。そして、ばらばらに歩き寄っているにも拘わらず、無意識のうちに歩調が揃っている。人数も、全部で40人くらいで、丁度このあたりの国の軍隊が1個小隊を編成するくらいの数である。
「「あ~……」」
コレットちゃんは分かっていないが、私とサビーネちゃんは、揃ってため息を吐いた。
そして私は、シフトレバーに付けたいくつかのマイクロスイッチのうちのひとつをオンにした。
『あ~、そこの怪しい盗賊達、止まりなさい! 止まらないと、どうなっても知りませんよ!』
そう、ビッグ・ローリーに装備してある外部スピーカーに繋がったマイクのスイッチである。
「ミツハ、怪しくない盗賊はいないよ?」
コレットちゃんがそう言ったが、いや、私が言っている「怪しい」というのは、そういう意味じゃない。「盗賊として、怪しい」という意味だ。
そして、コンマ数秒で連続転移を行い、転送したものをサビーネちゃんとコレットちゃんに装備させた。勿論、私も。
私の警告を気にする素振りもなく接近を続ける「盗賊」達。
うん、あれは「盗賊」だ。そして警告を無視して他国の使節団に接近中。この世界のルールだと、完全に正当防衛が成立する。
「じゃ、やるよ。私とコレットちゃんが前方、サビーネちゃんは後方をお願い。なるべく殺さないように無力化してね。そして、逃がさないように」
「分かった」
「任せて!」
頼もしい返事が返ってきた。
うん、ふたりとも、銃の腕は私より上だからね。くそ!
護衛騎馬と、馬車から飛び出した護衛兵が本隊の前に立ちはだかっているが、人数が違い過ぎる。これが、相手が本当に盗賊であれば、使節団の護衛に選ばれるくらいの兵士達だ、相手が「割に合わない」と思って逃げ出す程度の戦いはできるであろう。しかし当然、護衛の兵士達も馬鹿ではないので気付いている。敵が「なんちゃって盗賊」であることに。
悲壮な顔の護衛達。
私はビッグ・ローリーを少し動かして、街道に対して斜めにした。左右の窓から盗賊を狙い撃てるようにである。そして、前方の本隊の馬車と護衛達を射線上から外すため。
そして、まずは私から。
パンッ!
「ぎゃあああああぁ!」
うん、狙ったとおり、太腿に当たった。
窓枠に銃身を乗せて撃っているから、命中精度がいい。楽ちんだし。
盗賊達の足が止まり、指揮官、いやいや、頭目が叱咤する声が聞こえた。
「あれは、一度攻撃すれば次の攻撃まで少し時間がかかる! その間に接近すれば、1~2回攻撃できるかどうか、というところだ! 焦っていれば狙いも狂う! 行くぞ、突にゅ」
パァン!
「ぎゃああぁ!」
2発目は、コレットちゃん。うん、指揮する者から狙うのは、常識だよね。
「今だ、走れえぇ!」
ありゃ、脚を撃たれて倒れても指示を出すか。見上げた根性だ! でも。
ぱぁん!
「「「「「え……」」」」」
弾は外れたけれど、連続して響いた銃声に、驚く盗賊達。
「なに、武器がふたつあっただけだ! 行け!」
ぱん! ぱん! ぱん! ぱん!
「ぎゃあ!」
「うあああぁ!」
「え……」
続く銃声、増える被害。予想外の事態に動揺し、声が止まる頭目。
そして、セレクトレバーをフルオートに。
ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ!
「「「「「ぎゃああああああぁ!!」」」」」
うん、実戦に、旧式で欠点の多いM1ガーランドを使ったりはしないよ、勿論。
コレットちゃんやサビーネちゃんにも扱いやすいよう、M1ガーランドより小型で軽量、30連マガジンを付けたコレをチョイスした。
そう、M4カービンである。
弾は7.62mmではなく5.56mmの小口径高速弾なので反動も少なく、しかし初速を速めているため威力は然程落ちてはいない。相手がオーガとかの魔物ならばともかく、盗賊レベルの革の防具なら問題ない。
フルオートで撃ったのは私だけど、別に盗賊達を狙ったわけではない。その手前、盗賊達の足元近くを薙ぎ払っただけである。しかし、それがわざとであり、その気になれば全員をいとも容易く、それも今度は脚ではなく胴体を撃ち抜くことができるということを疑う者はいそうになかった。
そして、再びマイクのスイッチをオン。
『全員、その場で武器を捨てて、両手を挙げてゆっくりと歩いて来なさい。少しでもおかしな動きをしたり、逃げ出そうとした者は、狙い撃ちます。
そして、レミア王女殿下に引き渡した後、身元を調べて、他国の使節団を襲った盗賊として斬首刑にした後、死体を中央広場に晒し、更に家族、親族、友人その他を盗賊の仲間の疑いありとして捕縛し、取り調べます。
しかし、もし、上官の命令に従っただけの兵士であった場合には、勿論責任は上官にあり、皆は責を問われることはないでしょう。逃げたり抵抗したりした場合には、自分も一味であったと自白したも同然であり、国賊、そして仲間を見捨てて敵前逃亡した恥ずべき屑として、敵からも味方からも唾棄すべき存在と認識されることでしょう』
凍り付いたように動きを止めた盗賊達。
脚を撃たれて地面に座り込んでいる頭目、というか、頭目役の指揮官も、声も出せずに固まっている。
そして私達が前方の盗賊の相手をしている間、どうやらこっちの状況に合わせて同じような撃ち方をしてくれていたらしきサビーネちゃんの発砲音が後ろでも響いていたが、今は前方の盗賊達と同じく、後方も静まり返っている。そりゃ、スピーカーの声は後方にも思い切り聞こえているから、当たり前か。
動きが止まった盗賊達のうち、一番後方にいた者が、皆に気付かれないように少しずつ、少しずつ後ろへと下がり始めていた。そして男が一気に逃げ出そうとした時。
ぱぁん!
弾丸が右肩のあたりに命中し、その男はもんどり打って倒れ込んだ。
「「「「「「………………」」」」」」
がしゃん!
がちゃん、がちゃがちゃん!
盗賊達が一斉に剣や槍を捨て始め、そして両手を挙げてゆっくりと歩き寄ってきた。
「皆さん、捕縛の用意を!」
私の指示に、護衛の皆さんは慌てて縄や紐を求めて馬車へと向かった。
ななな、何と! いつの間にか、遂に100話に!(^^)/
今日(14日)は、本作品のコミカライズ第1話の掲載日だし、16日後には書籍第1巻の発刊!
あ、その前に、明日は『平均値』5巻の発刊日だ……。(^^ゞ




