第95話 アルヴィンの旅行日記 7
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「動くな!」
「…………ッ!」
突然自分が追っていたターゲットが振り向いて素早く身を反転させて自分に刃を向けられているのに驚いたであろう追手の少女の両腕と首筋には黒い腕輪とチョーカーのようなものが付けられている。
「これは……!」
「くっ……」
その腕輪とチョーカーに少し気を奪われた瞬間にその少女は後ろに飛び退き後ろを向いて逃げ出す。どうやら今の動きから休暇中の騎士か冒険者だと思ったのだろう。しかし、後ろを向けて走り去るとは……。
「って、早い!?」
ついさっきまで俺から7mほどの距離に居た少女は今では30mほどの距離がある。ちなみに、この間わずか2秒。明らかに人間の足ではない。
「くそっ!俺でさえ50m7秒後半なんだぞ!……地球でだけど」
地球で一度計測をしてから計測してないが、今ならおそらく6秒台で50mを走れるのではないだろうか。
しかしこれは……追いつけるわけがない。どう考えても無理だろこれ。
「ちょ……とりあえず追いかけるか」
少し困惑しながらも追跡することにした俺は急いで少女が逃げていった方面に走り出した。
〇 〇 〇
追跡開始から10分。意外にも俺を尾行して襲撃した犯人はあっさりとお縄についた。
というのも、追いかけて走っていた時にふと裏路地の方を見てみると唯の少女が首を抑えて倒れていたのである。少し見えにくいところに倒れていたので、倒れるのも計算に入れての行動だったようだ。
「……魔力ないけど【クレバーアイ】って使えんのかな……」
【クレバーアイ】はモノの構造などを透視のような方法で丸わかりにするものだ。以前のゴブリンキング戦で攻城兵器を不発弾にするときにも活躍した。
しかし、最近は使ってなかったので魔力を使ったかどうかを忘れてしまった。とりあえずやってみるか。
「【クレバーアイ】」
そうつぶやいて発動させてみたが、何も起こらなかった。どうやら魔力を使うスキルか魔法のようだ。これじゃあ何もわかりません。
ただし目星はついている。おそらくこのチョーカーと腕輪は奴隷が付けるような拘束具ではないかという事だ。ラノベでも同じようなものが書かれていたし間違いないだろう。
多分だが、魔法の類を使うと首が絞まるように作られている。身体強化術も当然魔法。逃げている間に首が絞まり、ここで倒れたのであろう。
「ま、とりあえず奴隷商館に連れていくもよし、騎士団に突き出すもよしだが……。どうしたもんかね」
この少女、身体強化を使っていたとはいえ鉱山で強制労働をするような奴隷には見えないのである。仮に使って従事してたとしても、今みたいに首が絞まって倒れられては使えないだろう。もしかしたら奴隷商人が道端に居たから、敵なノリで捕まえてそのまま奴隷に下のではないだろうか。中々読めない。
「まあ、調査依頼中だし。あとで胸糞悪くなったり罪悪感に浸ることになるのは避けられんから大本の所に行きますか……」
少し体重が軽く感じる少女を担いで、俺は奴隷商館に向かって歩いて行った。
〇 〇 〇
この世界の奴隷は完全に合法である。
奴隷の7割前後は山賊やら海賊やらの元犯罪者で、あとは性奴隷、見物用の奴隷などが占めており、少数だが戦闘用の奴隷もいるらしい。
そんな彼らは首に黒いチョーカー、両腕に黒い腕輪をしている。身体強化を含めた魔法を使用したり、取り外そうとしたり、奴隷商人などに危害を加えようとすると各拘束具が絞まる仕組みになっているらしい。
「というわけですな」
という説明を奴隷商館のお偉いさんにしてもらった。どうもこの依頼書、王国内では万能でお偉いさんホイホイらしいですね。
彼はドワーフにして奴隷商館館長のデューデ。御年75歳で現役である。
「ああ、あといい年したじじいと思ってると思いますが、ドワーフの寿命は200年ほどありますからな」
「え!? じゃあ人間の寿命に換算すると30代!?」
「ええ。立派な中年のおっさんですな」
そう言って豪快に笑う館長。しかも自分で言ってウケてるし。わけわからん。
「まあ、ひとまずありがとうございました。うちの奴隷を捕まえていただいて」
「ああ、まあ良いってことよ。ちょっと後尾けられて襲撃されたもんだから気になってな」
「なんと!?」
「大丈夫大丈夫、ケガはないから。それにしても……あの奴隷、鉱山で使役されている奴隷なのか?身体強化使ってたけどとてもそうは思えん……」
「ああ、彼女はいわゆる性奴隷ですな」
……はいついに来ました、この世界で俺が一番関わりたくない存在その2,性奴隷! 関わったら100%の確率で変なことになる。そして俺はそっち方面嫌い!
「よし、帰ろう」
「まあまあ……何か性奴隷絡みで嫌なことでもあったのですかな?」
「いや、彼女が居るから。関わったら殺されそうだ」
設定上で彼女が居るだけで、本当は居ないけどね!! ええそうですよ! あ、ただし新田に殺されてシルクに無視されて祈祷の時雨に「ししょーサイテー!」って言われそう。
「でも気になることがおありなのでしょう?」
「そりゃあそうなんだけどさ。このままいくと「なんでも致しますから助けてください!」ってパターンじゃん。それが一番困るのよね~」
それが嫌だから逃げたいわけなんだが……。
隙を見て逃げる準備をしていた俺だったが、ドアをノックして入ってくる奴隷商館の職員がタイミング悪く現れて館長に何かを言って出ていった。
「どうやら目を覚ましたようです。こちらに連れてきますので」
「逃げ道がふさがれたぞ!?」
もしかしてこのまま押し売りとかしてくるんじゃないだろうな。それされたら最悪だぞ。
シルク→祈祷の時雨→新田って順番に上記のことをされる。無視されて罵られて殺されるとかどんなバッドエンドだよ!
館長の「連れて来る」と言う発言からわずか30秒ほどで、例の奴隷が入室させられる。
やはり赤髪に青い目で、性奴隷というからにはスタイルもいい方である。
「それでは、このお客人の質問に素直に答えろ。さもなくば拘束具が作動するであろう」
へぇ、そんな細かいことにも反応することが出来るんだ。それはすごい。
「それじゃあ早速……。おっと、俺はアルヴィン・ヴェルトール。さっきの動きから予想していたとは思うが冒険者でランクはC。主に長距離輸送依頼なんかを受けている」
俺の自己紹介に「こく」と頷く少女。無口なのかな?
「じゃあ聞くけど、どうして俺を襲ったんだ?」
「……武器、持ってる。私もってない。盗ろうとした」
「だろうな。他の冒険者とか、俺よりも明らかに駆け出しの姿もあったが?」
「駆け出し、使えない武器ばっか持ってる。その点、あなた、弓使いの癖に短剣しかもってない。私から見たらいい的だった」
こいつ……俺がアーチャーだってわかってたのか。軽戦士ともとれる格好だったんだけどな……勘が鋭いようだ。
「それにあなた、ドワーフ焼きのにおいに誘われてた」
「本当に鋭いなおい!」
なんで俺に関わる女性ってこうも鋭い人間ばっかりなんだよ……。ちっとも油断が出来たもんじゃねぇ。
「まあ俺が無事だからどうこういうつもりはないけど……。あ、そうだ。最後に一つ聞いていいか?館長さんも」
「どうぞなんなりと」
「ルーマー族って知ってる?」
「は?」
やっぱそういう反応になるか。どこにどう住んでいるかすら謎の戦闘民族だもんなぁ……そう簡単には捕まらないか。
「知っているも何も、今目の前に居ますよ?」
「は?」
「彼女、ルーマー族ですし」
「……マジ?」
「大マジです。ほらここ。肩の裏に紋章がありますよね?これがルーマー族の“幼印”ですよ」
「ちなみに彼女、いくらだ?」
「そうですねぇ……値段で言えば120万ゴルドくらいですかねぇ」
「よしわかった。その奴隷買おうじゃないか」
気付けば俺は、反射的に購入を宣言していた。




