#076.奇妙な道化師
半グレどもを壊滅させた後、俺たちは壇上の裏に隠されていた隠し通路を進んでいた。というのも、結局のところ、敵の大将かと思われていたのはただの下っ端。というより、魔法で精神共々操られていただけだったのが判明したからだ。
そんなわけで、あの空間には祈祷の時雨とバックアップ要員でセレッサを残してさらに奥を進んでいる。おそらく先ほどのところは信者たちとかにも解放されているような場所、だとしたら人がすれ違えるかわからないくらいの通路の幅的に、ここは秘密裏に造られている場所に違いない。この奥にボスがいると確信できる。
「しかし……あそこに現れなかったサウスフィールドの騎士団は大丈夫だろうか……お前たちは見てないんだろ?」
「ああ、影も形もまーったくな。俺たちのコースはでかいのは多かったが数は少なかったからな。もしかしたら彼らがあたりルート引いたのかもな」
「それは本当にあたりルートなのかはわからんが……まあ、お前たち主力が最深部に辿り着くことが大事だ」
「だべ?」
正直騎士団の安否は気になるし、かなりの戦力として見ていたので埋め合わせをするのは相当厳しい。そもそも先ほどの広場での物量戦に対抗するために参加してもらっていたんだが……この奥で物量戦にされるといよいよ怪しくなる。新田の魔力はそろそろ余力がないし、赤坂の盾も一部にヒビが入ってしまっている。シルクの強力な精霊魔法もあと2,3発撃てるかどうか。唯一ピンピンして余力があるのはシフォンくらいだ。
「とりあえず、これ以上の被害がないようにしないとな。今のところ、地上に被害が出ていないとは言い切れない」
「ふむ……そうと決まれば早期決着を狙ったほうがいいだろう。まだお前も余力はあるだろう?」
「あるにはあるが……俺の場合は追い込まれたらの切り札だからな?」
余力……要は”超覚醒”だが。確かにここまでまだ1度も使っていない。が、アレ使うと解除した後バカみたいに疲れるんだよなぁ……。前に守護精霊のナナシに相談したら「精霊にある潜在能力を使ってるんです。なんならアレ使ってる瞬間はモノホンの精霊になってるんですから。疲れるに決まってますし解決法はないです」とキッパリ言われてしまった。そういうわけで、後片付け等を考えたら超覚醒はできるだけ温存しておこうという話になったのだ。
確かにそろそろ終盤になってきた。ある意味ここまでキャリーしてきてくれた赤坂と新田の負担を考えればここから先は俺がほぼ全てやってしまったほうがいいだろう。次期国王のシフォンに危険が及ばない意味でも。
「先輩、ちょっといいっすか?」
「ん? どうした?」
「なんかここまで順調っすけど……なんか、何かありそうじゃないです?」
「赤坂……語彙力……。でも、確かに逆に不穏ではあるような。苦戦はしてるけど……なんというか、群れてるだけでやろうと思えばまだまだ戦力を増強できるはずなのでは」
ここにきて、何かを懸念しているような赤坂から横やりが入り、新田も語彙に呆れながらも同意している。確かに苦戦したにはしたが、こちらは1つ突入帯と合流できていないのにここに来れている。俺たちを含めても戦力で言えば五分五分と新田達には言っていたからこそ、何かあるのではと疑っているのだろう。
正直なことを言えば、俺もまだ何かあるんじゃないかと常に目を光らせている。アーチャーではあるが、この世界の弓使いは半分斥候のような役割も併せ持つ。そのため罠が仕掛けられていたらすぐ気づくのだが……今のところ1つしかない。これに関しては早いとこ他の宗教団体のところに安全のために一度出てってもらったのがよかったかもしれない。
「とにかく、まずは一番奥に行くか。じゃないと話が進まん」
「うむ、お前の言うとおりだ。判断は後からいくらでもできる」
シフォンもそう頷くと、罠に気を付けながら大将自ら前を進んでいく。トップの士気はそのまま下に伝わるものだからこれはありがたい。こちらも彼を殺させないようにと気合が入るものだ。
〇 〇 〇
一番最下層、最低限の松明のような灯りしかな場所。不気味な雰囲気とRPGのダンジョンをまんま目の前に持ってきたような光景が広がっている。かといって、特に魔物がいるというわけではなく。罠が多数埋まってるわけでもなく。ただただ静寂な空間がたむろしているだけ。
「不気味だな……」
「ああ……伝え聞く地下迷宮と同じ雰囲気だ」
相変わらずシフォンを囲むように、俺と新田が先頭に、赤坂とシルクが後方を固めて進んでいく。全員がそれぞれの獲物を抜いて、四方八方に目を光らせて必要以上の警戒を続ける。
ちなみに、地下迷宮というのは……まあ要約するとこの世界に数人いる勇者様専用のダンジョンのようなもの。最下層に埋まってる伝説の装備を手に入れて魔王を倒そう! のテンプレ展開を作るためのもの。なお一般人は入っても1分で死ぬとされている。
まあ、そんなわけで。ワンチャンここが地下迷宮だとしても対応ができるように常に戦闘態勢を取っているわけだ。
いや……しかし……。
「嫌な予感がするんだよなぁ」
「えぇ……そんなアバウトな」
「いんや、ぜっったいになんかがある。じゃねぇとこんな意味もない長々とした通路を作るわけがねぇ」
俺の後ろを若干警戒しながら歩く新田が「そりゃそうですけど」と返してくるが、どうも納得はしていないようだ。ま、そりゃあ魔導士は罠とかに引っかかりやすいし。あいつ鈍感だし。
空間把握能力(仮)はなんも反応しないが……しかし、圧倒的な違和感を感じる。具体的には、ここに居ない”何か”に全てを見透かされているような。どんな力を使って、どんなものを持っていて、足幅も弱点も。全部……。
まさか!
「ナナシ。そのまま透視させてくれ」
『わかりました』
直感的に”それ”に気づいた俺は、小声で自分の守護精霊に”透視”させてもらえるように頼む。次に返事が来た瞬間、魔力が急速に目に集まる感覚と同時に空間の全てが見透かせるようになった。いつも使ってる魔法の透視よりもクリアに、ちょっと紫がかかったものになる。
そして……壁や地面を見渡すと。すべての方面に黒光りする鉄板のようなものが置かれていた。よくよく見れば、大気中にある魔力を鉄板が反射し、四方八方から俺たちを串刺しにしている。さらに、俺たちを貫いている魔力は、丁度人間の脳と魔力を浮かび上がらせるよう……。
「ッ!! お前ら、すぐに武器しまえ!」
「「「え!?」」」
「グラン、どうしたんだ?」
「いや、これは陰湿でやべぇ罠だわ」
突如の出来事に、新田達3人が驚きの声を上げ、シフォンも何が起きたのかわからずに怪訝そうな視線をこちらに向けてくる。
じゃあ、今からそれを見せてやろうと思い地面に向かってビットを刺して、さらに魔力を強めて壁の一部を破壊する。と、さっき透視で見たやつと同じ色をした黒い鉄板がむき出しになってしまった。
「これ、なんです?」
「ミスリルか?」
「その通り。これ、大気中の魔力を任意の方向に向かって反射させることができる特殊なミスリル板だ。んで、これはちょうど魔力を持つ生物の脳と、持っているものに反応するもんだ」
じゃあ、これがどれだけ凶悪かというと。この反射する魔力によって範囲内にいる生物の行動パターン、どんな魔法や攻撃をしてくるかが筒抜けになる。これは持っているモノ、武器にも言える。要は情報アドバンテージを一方的に取られてしまっているのだ。
先頭において、何が飛んでくるかわかっていても負けるのは圧倒的な力の差があるときだけにいえること。ある程度の実力があると、たとえ実力やパワーで買っていても負けかねない。いくら護衛していても無駄、今回ならシフォンの位置と俺たち護衛の位置やフォーメーション、使う魔法も全て筒抜け。今から真っ先にシフォンのいる位置にピンポイントで落雷を落とすことだって簡単なはずだ。
この罠、数か月前に学園の授業で”魔力を使うことで、一部の魔導士は敵の魔力や魔法の種類を当てることができる”ことを学ばなければ気づかなかっただろう。
「え、じゃあこれ手遅れじゃないです?」
「その通り。多分そろそろくるんでない?」
俺たちはこの罠に気づかず10分は歩いていた。30秒やそこらならまだセーフだっただろうが、解析に十分な時間を与えてしまった。じゃあ、もう敵からしたら逃げないように刺客を送り込むほかない。
後ろから赤坂からの素っ頓狂な「はあ?」が飛んできたころ、丁度高速でゴロゴロとボールのようなものが横切っていった。そしてどういうわけか壁を垂直に昇り、天井を物理法則ガン無視しながら横断。反対の壁から降りてきて、そのまま新田に突っ込んでくる!
「えっちょ……」
「【サイコキネシス】」
横切ってから再び突進してくるまでの時間、わずかに5秒ほど。接近戦はそこらのゴブリンにも負けそうな新田の反応が一瞬遅れて直撃コース。それをなんとか俺が【サイコキネシス】を使って無理やり回避させる。通り過ぎた正体不明の野郎はそのままシフォンに向かってまっしぐらであったが、これはすぐに赤坂が前に出て大盾で完全に防ぐ。
「【ソードビット】」
そして、弾かれた球体は一瞬で空中に打ち上げられ回避ができなくなったところで俺のビットの餌食に。ふつうはただ弾けばいいのだが、赤坂は攻撃を受けるときに合わせて盾をわざと下から上に救い上げるように弾いていたのだ。これのおかげで弾いたら必ず一瞬は隙ができる。それを利用しての連係プレーだ。
まあ、まず初見では見抜けないだろう連係プレーで球体を串刺しにすると、それは眩い光を四方八方に漏らして大爆発。なんとか身を守りながらも空間把握能力(仮)で警戒していたら……急に通路が大広間に変わった。
『キャヒッ、キキキッッ』
少し閃光混じっていたようで、霞む視界を開けながら正面を見ればカラフルボールト派手な化粧にアフロ姿と色とりどりの服。
いかにもピエロっぽいのが目の前に立っていた。




