#022.機械化兵の泥仕合 3
白いカラーリングが施され肩には虎の紋章が輝く機体と、深い青色にイルカのような模様が入ったマークを誇らしげに掲げる機体とが交じり合い剣と槍を向けて敵を討ち取らんとする戦場には、ひたすらパワードスーツの頭部にあるモノアイを隠すバイザーが発する太陽光の反射光がキラリキラリと舞うばかり。別に人間同士でもできる戦いをわざわざ屈強な装甲が自慢の巨人に乗って戦うパワードスーツ同士の戦いとは実に滑稽なものか。
学研都市”ルーツ”で一生を終えたかの有名な研究家・ハリーはこのことを皮肉を込めて”分厚い壁のキャットファイト”と言ってのけた。わざわざ高い素材を装甲にして、生身の兵と同じことをするなど費用相対比効果という6文字が泣きわめくことのほどだ。機体数だけが正義のパワードスーツ同士のぶつかり合いは言ってしまえば智将すらも頭を抱えて策を練るのがバカバカしいというかもしれない。
そんな中、とある3機がその環境を変えようとしている。ある一機は自身の左半分を隠してしまう大きな盾と大剣で、ある一機はありえない速度で動き回り一瞬で敵機を鉄くずへと加工し、ある一機はあろうことか魔法のように離れている距離の敵を圧倒的な力で打ち砕く。
「……危険を冒してまでここに来るだけの成果はあったかもしれないですねぇ」
これは絶対に我々”帝国”のためになる。子の3機こそが私の計画に必要なものかもしれない。わざわざ孤児院を経営し、人体に魔石を埋め込んで邪魔な亜人獣人その他諸々を浄化するよりも、これを使って一気に吹き飛ばせばいいではないか。平民の孤児なんていうどこにでもいる可燃ごみよりもずっとこっちの方がいい。
「次は、アレが欲しぃ。そうすれば、皇帝様も宰相様も喜んでくださるぅ……!」
あんなスープにがっつくガキなんて汚物を使うよりも、こんなにも素晴らしい進歩した技術を使うにこしたことはない。いずれ邪魔な奴らをすべて一掃し、我々の国が繫栄するために……すべては皇帝様のために。
「今日の所は帰りましょうかぁ……すぐに私が有効活用して差し上げましょうねぇ」
……確か私の記憶では、例えルーツの技術の粋を集めてもパワードスーツの骨格になるアーマーフレーム的に反動のでかいバリスタのようなものはつけられない。それに最近のは人体搭乗式と人体着脱式の両機種が多いはずなのだが……今は細かいことは忘れることにしよう。
〇 〇 〇
「んな細かいこと言ってられっか!」
『細かくないですよ! 私の機体スレスレに砲撃するのやめてくださいよ!』
「そっちの回避行動は計算済みで撃ってんだ! 俺は近接装備ないから必死なんだよ!」
あれから支援射撃に努めること30分。8機ほど撃墜したところで、なんと新田とレノンの2機が計6機もの集団の戦闘に巻き込まれてしまったのだ。だからさっさと脱出しようとテンパりながらもシールドと一体になった腕の無反動砲で牽制しながら好機を伺ってんでしょうが!
『だからって私の機体掠めて撃ちますか普通! 万が一にも当たったら”エンシェリオン”中破ですよ!』
『あはは~、君たちはまだまだ余裕がありそうだねぇ』
『「あるように見えるか!?」』
今もこちらに槍を突き出してきた一機の攻撃をシールドで防いでから無反動砲で肩を撃ってバランスを崩してご退場願う。ただしバランスを崩して吹っ飛んでいくだけなのでほかの5機の相手をしているだけですぐに復活してしまう。
「なあ新田、ちょっと時間作れたりしない?」
『何するんですか?』
「もち、正面突破。めんどいから肩の4門一気にぶっぱする」
『えぇ……』
少しドン引きをしている新田に対して「とりまよろしく」と短く返してから、前方の3機を一気に標準に入れる。その間に背後から迫ってきた一機の攻撃をギリギリで避けて、前方に出てきたところを右腕の無反動砲で撃ちぬいて大破させる。その間、”エンシェリオン”はしっかりと持ち前の機動性を活かして敵を翻弄していた。
「よし、いいぞ!」
『オッケーです』
一瞬だけ背部のスラスターも全開にして大空へ駆けだした”エンシェリオン”が完全にどいたその瞬間に肩の全砲門から一斉に弾を撃ちだす。直後、激しい爆発があったのでどこに当たったかわからないが、前方の3機は見事に木っ端みじん。大破というよりバラバラと記した方がよさげだ。
今の砲撃で若干バランスを崩しかけていたが、気合で直して空いたスペースに滑り込んで包囲網を脱出。一気に距離を取ると、深い青よりもさらに黒、グレーの配色がなされた特徴的な3機がこちらに向かってきた。おそらくこの3機で迎え撃って、他の機体に被害が行かないようにするようだ。
『クソッ、あいつ早いぞ!』
『だが早いのはお互い様!』
『われら列島のパワードスーツ隊屈指の精鋭、グレー3連星に喧嘩を売ったが間違いよ!』
うわぁ……しかも相手どっかで見たことあるような奴らだし、名前忘れたけど。武装は他の機体と同じ槍とシールドだが、明らかにほかのよりスピードが速い。線が細いとは思ったが、まさか可能な限り装甲をそぎ落としてるのか!
『コラー! 逃げずに戦えこの卑怯者!」
『距離を取ったらあの攻撃が一方的に来る! なんとかこちらの射程に入るぞ!』
『戦いは数だよ兄貴、取り囲んで一気に終わりさ』
こちらは武器の都合上、正面にしか攻撃ができないからバック状態で後退しているがそれだとスピードが出ずに下手を打ったら追いつかれそうだ。前進は早くても後退は遅い、人型に作られたパワードスーツゆえの弱点だ。だが……ここまで下がってるならまさか前進してくるとはわからなさそうだ。
……だったら!
「ここで止まって……」
俺は思い切って前進してみることにした。そのためにばれないようにゆっくり制動をかけてどこか壊れたかに見せて機体を一旦その場に止める。その間にチャンスととらえたんだろう。奴らはきれいに縦一列に並ぶと、こっちに真っすぐ突っ込んできた。
……今だ!
『行くぞ! ジェットストリーム――』
先頭の一機が盾を掲げてこちらまであと数歩というところで、残っていたラストの肩の長距離砲をぶっ放す。もちろんその砲弾は盾を貫いて右腕をもぎ取り、後続の2機目のバランスも崩す。
「はぁぁぁぁぁ!!」
そこに俺は思い切って前進。一瞬だけかがみこんでからスロットルを全開にして一瞬だけジャンプをするような格好になり……倒れ込んできた1・2機目に飛び乗ってさらにジャンプ。すると直線上には……3機目が!
『『なっ……俺を踏み台にしたぁ!?』』
『目の前に!? うわああああ!!』
「ドンピシャぁぁぁぁ!」
一切の妥協もせずに左のシールドを掲げて体当たり。お互いに相当な質量ではあったが、やはり装甲がペラペラな分こちらが押し勝ったようで、3機目はあっけなく後方へ吹っ飛んでいく。そのまま一気に近づいて2機目から奪い取った槍でコックピットを貫通、撃破する。そして最後にヨボヨボと立ち上がった2機に両腕の銃口を向けてチェックメイトだ。
『まさか、こんな……』
『俺たち、グレーの三連星が負けるなど!』
「悪いな、戦いは数じゃなくて性能だったみたいだ」
パワードスーツのせいで雑草が舞い散る平原に響く2発の銃声、それと同時に列島のパワードスーツ部隊は不利を悟り撤退、勝敗が付いたのだった。




