#013.新人研修はお気楽に 前編
前線を押し上げることに成功してから数日が経過した。あの後予定通りにパワードスーツ隊と合流し敵の主力を挟み撃ちにしたから聖教は戦力のやりくりに四苦八苦しているようだ。こちらも多少の被害があったものの、被害の規模は聖教の10分の1以下。むしろ敵が弱ってる隙に行けるとこまで行ってやろうという感じで勢いが増している。まあ主に脳筋第1大隊が敵の拠点を潰して回っているらしいが。
「で、なんで俺はここに呼ばれたのか聞いていいのか? 中隊長サン?」
「まあそう皮肉ぶるな。確かに明日までオオカワたちは戦場に出なくていいとは言ったがな……考えてみろ、ここに来てからの戦果を。初陣で敵3個小隊規模のベースゾーンを撃破、この前のトラップ作戦では進行してきた敵中隊を3人で壊滅させ、今回に至っては砦の戦力の半数を無力化させてるんだぞ……」
「はぁ……」
「はぁ……じゃない! 確かに元がプロの冒険者ということを差し引いてもっ、それでも尋常じゃないことはわかるだろ」
あー……まあ最近は結構アバレンジャーしまくってたという自覚はありますけれども。俺に関してだけ言えばここ数か月魔法が使えない呪いにかかってて、やっと治ったからうれしくてついつい……うん。そうですね、やりすぎたんですね。
「そういうことだ……まあ、例の件にはあんま影響しなさそうだから大丈夫なのだが」
「で、その話は結局どんなことになってんだ? この学園って申請しないと外出れないからまったくもって情報が入ってこないんだが」
「ああ、また一件自爆テロがあったらしい。今度は首都付近の農村だ。幸い人的被害は出なかったが……畑が丸々1ヘクタール吹っ飛ばされた」
「威力えげつねぇな」
……そういえば首都付近と言えば、今頃俺たちとは違う方向からこっちに向かってきている仲間たちが今頃通ってそうな場所だ。巻き込まれなければいいんだが。
「おっと、話がそれた。それで、ここまでの戦果をこんな短期間で出したからにはどういう秘策があるのかってことをみんな知りたがっている。だ・か・ら」
「だから、なんだ?」
「おい、入っていいぞ」
俺たちが話していた部屋の入口のドアに向けて声を放つシフォンを見て、若干つられるように入口の方面に目を向けると……ドアが開いてセレッサと2名の男女が入室してきた。男の方は甲冑に身を包んでいるところを見ると騎士、もう一人は刀っぽいものを持っている。
「シフォン様、連れてまいりました」
「ご苦労。あー……そっちの二人だがな、今回お前の隊に転属になった」
「はぁ!? なんで!?」
「だーかーらー! さっきも言っただろ!」
あぁ……どういう秘策があるかうんたらのあれね。つまりこの二人はほかの隊から回された味方を探るためのスパイってか。味方に味方のスパイを送るという謎現象はあんま認めたくないけど、経緯はわかった。
「自分、レイって言います! よろしくお願いします!」
「私はアスタロトだよ~。よろしくおねがいしますねぇ」
「あ、ああ。こっちこそよろしく……おい中隊長、あとで覚えとけよ」
「はっはっは、とりあえずあとはそっちでやってくれ。あ、あと今日はもう休みでいいから明日にでも適当なベースゾーン攻略で軽くやっとけよ」
こいつ……っ! コミュ障であんま人事系のことしたくないという俺の要望を知っての犯行だなぁ!あとで覚えておけ、最近手に入れたシフォンの幼少期の黒歴史を中隊の集会の時にばら撒いてやる!
「あ、あの……っ!」
「えーっと、レイ、だったか?」
「はい、隊長。このあとはどうすればよろしいでしょうか」
「ああ、そうねぇ。とりあえず今日はこれでおしまいだ。あのクソ中隊長が言ってた通り明日はそこら辺のベースゾーン叩きに行くから早めに帰って寝とけ」
「了解しました! それでは失礼します!」
どうやらレイという少年は典型的な真面目君らしい。たまにいたよなぁ……あいつみたいに若干の融通すら利かない真面目騎士。ちなみにアスタロトの方はシフォンの言葉を受けて扉を出たくらいで「それでは明日からお願いしますねぇ」と言って寮に帰っていった。
この対極な2名を俺はうまく扱えるのか……? つーか俺が隊長なの?
〇 〇 〇
その翌日。2日間雨続きだったが今日は快晴。熱すぎず寒すぎず過ごしやすい気候だ。ということは、今日は絶好の……
「「戦闘日和だな・ですね」」
「「森林浴日和ですね」」」
「「「「え?」」」」
行軍開始1分、緊急事態発生。どう考えても戦闘日和なのにレイと赤坂の騎士組は森林浴日和とかいう意味の分からん単語で答えやがった! この不協和音で一気に隊全体に不安感が充満し始めた。
「ちなみに新田はなんだ?」
「お昼寝日和かな~っと」
「はい論外」
いいですか? 俺たちはこれから敵さんのベースゾーンを潰しに行くんだぞ? つまりこれは戦争だぞ? だから戦争日和に決まってんだろ。雨の日も風の日も雪の日も、ハリケーンの日だろうが空からGが降って来ようが戦争をしている限り戦争日和には変わりないの!
「なるほど!」
「先輩、ちなみに空から蛇が降ってきたら?」
「それは世界が滅亡するときです」
空から蛇が降ってくるとかそれは絶望でしかないだろ。そんな自論を語りながら歩くこと20分前後。前回占領した砦からさらに奥にある平原に今回の標的になるであろうベースゾーンを発見。ここからでも確認できるのだから少し大きいベースゾーンっぽい。せっかく建てたのだろうが……南無阿弥陀仏だな。
「おーっし、早く帰って寝たいからさっさとお片付けすっぞ」
「先輩最近寝てませんよね? 何してるんです?」
「マジックシューターの改良をやってんの!」
最近は毎日夜遅くまであのマッドサイエンティストの研究室でマジックシューターの開発だからなぁ……睡眠時間4時間30分くらいなんだよ。さすがに授業中に寝るわけにいかねーからさっさと終わらせて帰って寝たいんよ。報告書類は全部赤坂に丸投げするから後処理も問題ないし。
「おい俺はそんなこと聞いてねぇ!」
「だって新田に投げたら俺がフルボッコにされるもん」
「ふふっ、よくわかってますね」
いつも通り軽口を叩きながら接近を続け、残り距離は300mくらい。平原という関係上、今回は新田が身を隠す場所はなさげ。ということは前衛の皆さんに頑張ってもらうしかなさそうだ。ちなみにこっちのムードについていけそうにないレイはきょとんとしてるし、アスタロトは逆に突っ込みたくてうずうずしているっぽい。
「そ、それでっ! 隊長、作戦はいかがいたしましょう!」
「ん? ああ、適当に俺がサポートすっから前衛の3人は暴れちゃって。ただし新田と俺の魔法に巻き込まれんようになー」
「そ、それが作戦でありますか?」
あー……レイってこういうところも馬鹿正直に決めていかないといけないやつか~……シフォンのやつ、こんな面倒くさいのをよく俺につけてくれたなぁ! よし決めた、今度の中隊の集会でバラす黒歴史もう一個追加してやろう!
おまけ
新田:「あ、そういえばこの前コルニさんとセレッサちゃんとお茶会したんですよ」
大川:「もう仲よさげだな」
新田:「ええ、まあ。それで、そこでセレッサちゃんがシフォン王太子の昔のこと話してまして」
大川:「どーいうの?」
新田:「例えば、かくかくしかじか……」
大川:「ほぉ……(いざとなったときに使ってやろうという顔)」
新田:「あっ……(この人にこういうの教えちゃダメだったと思い後悔する顔)」
シフォン様、ごめん許して(by新田)




