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第128話 最初の一歩

 カエデがこの世界からいなくなって数日後。今度は俺がルーマー族の里から去る日がやってきた。

 ここでは色んなことをしてもらった。魔力を復活させるにあたり、蛇を倒したり、変な薬飲んだり今回みたいに軽い闘争が起こったりもした。楽しいという表現は無理があるが、それなりに充実した時間をここでは過ごすことが出来た。

 また、ここでの生活を終える、ということは旅仲間であったユエルともお別れということになる。もともと俺はユエルをこの里に送り届けるというのが目的だったから、それを達成することができた。でも、なんだかちょっと寂しい。ここからまたグランツ側の南端までは一人旅になるのだろう。2人分の食事を作るのは、多分もうないだろう。


 早朝に里を出るにあたって、顔面スターズとも久しぶりにご対面。彼らは「走ってやるからまずはブラッシングしろや」という顔をしてたので素直にブラッシングして機嫌を取っておいたので、走る気は満々のようである。


 里の入り口まで馬車を移動させてもらって、とうとうそこで別れを告げることになった。言ってはいなかったものの、ユエルをはじめ里でお世話になったたくさんの人が見送りに来てくれた。


「……君には世話になった。里を代表して礼を言う」

「いやいや、俺の方が世話になった」

「君が居なければ、おそらくこの里は壊滅していただろう……だが、君がいたおかげで里には大した被害はでなかった……」


 最終的に、ルーマー族の人的被害は、17人が死亡、4人が未だに行方不明になっている。それ以外にも、戦いに出た者の半数が怪我を負っている。


「……ユエル、彼を里の外まで送り届けてやれ」

「……いいのですか、爺様」

「ああ、少しの間とはいえ共に旅をした仲間であろう。積もる話もあろう」

「……それでは」


 と、いうことは。また意識を刈り取られるっぽいですね。はいはい、わかってますよ……ということで、俺は諦めてあえて隙だけしかない形をとる。


「……いや、気絶させんでもよい」

「は?」

「貴君は外の者の中でも、特に信用に値する。困ったときは、いつでもここに来ればいい。あと、これを渡しておく。このブローチは我々の仲間の印になる」


 そう言って渡されたのは、ルーマー族の紋章が捺印されたブローチだった。どこか龍のような形をした紋章は、金色に光り輝いていた。


「また、いつでも来るといい」

「わかった……ありがとう」


 馬車から一度降りた俺は、「こっちから何も渡せることはないけど」と言いながら、長と固く握手する。

 ……まさかルーマー族を調査するという目的もあった今回の旅だったが、まさか友好関係を結んできたといったらあの王様はびっくりするだろうな。


「……それでは、行きましょう。話すこともあります」

「よし、わかった」


 里の人たちに別れを告げ、俺は再び馬の歩を進め始めた。


  〇 〇 〇


 それから約3時間後、俺たちは3週間ぶりにヴィーネの街にやってきた。ここの周囲で闘争が起きたというのは知っていたのか、多数の王国兵が詰め寄せていた。城壁には魔導士の方々も待機していた。しかし、闘争は既に済んだ。緊張した空気を流してるヴィーネの南門も、そのうち平和な時間が流れるようになるだろう。


 その中に……俺の知っている顔もあった。


「せんぱ~い、こっちですこっち!」


 元気よく手を振りながら、俺を招くローブ姿の少女……新田だ。なぜこいつがここにいるのかどうかは知らないが、どうやらここで俺を待っていたらしい。赤坂とシルクも横で控えている。

 まず驚いたのが、新田のローブがまあまあいいものになっていたり、赤坂の鎧も王国兵とほぼ同じものになっているからだ。

 俺が旅をしていたころ、こいつらいったい何してたんだ……と思いながら奴らの前で馬車を止めて、話をするために降り立った。


「あれ? カエデちゃんは一緒じゃないんです?」

「まあな。旅仲間ならここにいるけど」

「……噂のユエルさん、ですか」

「ああ、それとカエデはな……」


 そこから小30分程度かけて、今回の闘争、そしてカエデがこの世界からはいなくなったということをできる限り説明してみた。まあもちろん俺のボキャブラリーはそこまで広くないから完璧にはできないけど。


「つまるところ、カエデちゃんは意味不明な魔法陣で消えてったと」

「んだ。色々言ってたけどな」

「……そのカエデ様から預かっているのが、こちらです」


 そう言ってユエルガ見せたのは、1つのUSBメモリー、そして王国の制式装備一式と、手紙だった。

 手紙は人数分あり、そこにはユエルも含まれていた。


「後で読んでみますけど……どうせ意味不明なんだろうなぁ」

「あと、このUSBメモリーはどう使うのかはわからないから、あとで調べてくれ。どーせPC持ってきてるんだろ?」

「まあ、そうですけど」


 王国の制式装備一式は、そこら辺の責任者に渡しておいた。ついでにルーマー族がグランツの元宰相さんを拷問したときの映像も一緒に。


「……そんで、お前らなんでここ来たん?」

「それが……先輩が参加してたっていう闘争で助太刀しようとして青龍に運んでもらったんだけど……」

「結局間に合わなくて……」


 と、新田と赤坂がリレー形式で言葉をつないで申し訳なさそうにしている。っていうか運搬は青龍がやったのかよ、大盤振る舞いだな。


「それで、どうせここに来るだろうから待ってればあとでまた合流しなくてもいいんじゃないかってことになりまして」


 そういえば、闘争が始まる前に渡された依頼があった。それは共和国の学研都市・ルーツに行き、カルト宗教について調べ、最悪の場合は壊滅させろということだった。その依頼を受けるため、新田達は数日前から王国南部に向けて移動を開始していたらしいが、カエデからの一報が新田たちにも伝わったらしい。


「まあグランツ側から共和国に行けば俺はわざわざ山脈越えをしなくていいから楽っちゃ楽だが……」


 前言撤回、今度は4人分の飯を俺が作ることになりそうだ。旅は道連れ世は情け、たまにはこんなこともあっていいと思う。

 しかし、出会いがあれば別れもある。今度こそユエルとも別れの時だ。


「……そうだ、ユエル、これ持って行ってくれ」

「これは、とらんしーばー……」

「ああ。使い方はわかるよな?」

「し、しかし……」


 ユエルに渡したのは、俺がすっかり存在を忘れてて新田や赤坂に口上でフルボッコにされる機会を作ったトランシーバー。実はユエルにも気まぐれでその性質と使い方を教えていたのだ。


「いいよな?」

「ええ。先輩がお世話になったみたいですし、また作ればありますから」


 一応製作者の新田に確認は取ってみてもいいと言ったから、譲渡は可能ということだ。まあ、そのあとで新田はまた問題作をユエルに渡したのだが……。

 それは、丸っこくて、平べったい機械……。


「この子、長距離の通信の電波塔になってるからこれも持ち帰ってね。餌はゴミだから適当になんか食べさせておけばいいよ。ただ、水は苦手だからそこだけ注意してあげて」

「は、はい……」


 新田が渡したのは、シュベルツィアの家にいたはずのお掃除ロボ1号……の色違い。この際だから2号とでも名付けよう――お掃除ロボ2号だ。

 新田曰く、電波塔の代わりを作ろうとしたらなぜかこうなって魔物化したとのこと。マジでマッドサイエンティストの素質あるじゃんこいつ。


「何かあったらこれで連絡とってくれ。こっちからも定期的にする」

「ま、そういった先輩は私たちに一切してきませんでしたけど」

「……まあ、たびがたのしくてわすれてただけだし」


 そこを突かれると痛い……最後だけ棒読みになってしまったのはしょうがないことだ。現地の警備隊にも連絡を取って、無事に今回の騒動もお開きになった。

 新田達は顔面スターズが引く馬車に乗り込んで、今か今かと出発を待っている。


「それでは……お元気で」

「ああ、そっちもな」


 軽くそう言葉を交わしただけで俺たちはもう十分だった。どうせまた会える。連絡もできるんだから。


「よし、今日中に2つ先の宿場町まで行くぞ。頑張ってくれよ!」


 そう期待を込めて、俺は手綱で合図して馬車を動かして、次の一歩を歩みだす。


 ……突如異世界に転移させられ、器用貧乏で器用万能、不器用ながらも器用に冒険者やってたら、いつの間にかこんなことになっていた。

 もし家族たちにこの話をしたら、鼻で笑われるだろう。


 ……でも、問題ない。


 俺はどの世界でも、最初の一歩を歩みだせるのだから。

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