RAGE OF BURST
「てめえら! ふざけんじゃ、ねえええええええええッ!」
俺が上げた怒号に、病室の空気がシ……ンと凍りつく。
この病室が個室で良かった……と、冷めた思いが一瞬頭を過ぎるが、そんな冷静な思考も押し寄せる憤怒の炎に、たちまち灼き尽くされた。
そして、思考を怒り一色に染め上げた俺は、その攻撃の矛先を、目の前で固まっている三人に向ける。
「……お前らさあ! 俺がどんな気持ちでココに来たと思ってるんだよ!」
「ご、ごめん、ヒカル! 本当に――」
「ごめんで済んだら、警察も裁判所も必殺仕事人もソレス○ル・ビーイングもいらねえんだよッ!」
「う……」
謝ろうと口を開きかけたが、俺の剣幕の前に、きつく口を結んで俯くシュウ。
今度は、シュウの傍らに座るハル姉ちゃんを睨みつけながら、俺は言葉を継ぐ。
「映画を観終わって、スマホの電源を入れた途端にLANEの通知がドバドバ入るし! 丁度そのタイミングでアンタから電話がかかってきて、『シュウがトラックに撥ねられた』って――! アンタらしくない、マジなトーンの声でさ! ……ソレを聞いた瞬間の、俺の気持ちが分かるかよ!」
「あ――あの時は、私も本当に動転してて……。まだ、詳しい状況が解ってなかったから……」
「……じゃ、じゃあ、ソレはいいとしてだ!」
「て……ソレはいいんかーい……」
「……何か言ったかッ?」
「あ、いえ! 何でもありませんです、ハイ!」
小声でツッコむハル姉ちゃんをギロリと睨みつけると、彼女は慌てて背筋を伸ばした。……いや、気まずくて、睨んで誤魔化した訳じゃないからな!
俺は、ゴホンと咳払いをして気を取り直すと、再び声を張り上げた。
「そのまま、映画館から駅に直行してさ。こっちの駅に着いたら、そのままダッシュでチャリに飛び乗って、ここまで休み無しで漕ぎ続けたんだよ! ――シュウの事が心配すぎて、『居ても立っても居られず』ってヤツでね! もう、さっきから肺やら腹やら脚やらがクソ痛えよ! 明日は、絶対に全身痛くて、ベッドから起きられねえよ絶対!」
そこまで息継ぎ無しで一気に捲し立てた俺は、初めて息を吸うと同時に、激しく咳き込んだ。
慌てた様子のハル姉ちゃんが、「ひーちゃん、大丈夫ッ?」と差し出してきたコップの水を引ったくるように受け取り、一気に飲み込み――更に噎せた。
「ちょ、愚け――お兄……アンタ、大じょ――」
「お前もだよ、羽海!」
急に、俺に怒りの矛先を向けられて、驚いた表情を浮かべる羽海。
俺は、憤怒に衝き動かされるまま、妹に指を突きつける。
「俺が、やっとの思いで病院に着いて、この階まで上がってきたら、いつものお前らしくもねえ顔でびーびー泣いててさ! ……アレも、俺を騙す為の芝居だったって言うのかよコノヤロー!」
「え! ……う、ううん! 違う、違うよぉ!」
俺に指弾されて、泣き腫らして充血した目をまん丸くした羽海は、慌てて首を横に振った。
「あれは……その……シュウくんが無事だった事に安心したら、嬉しくて泣けてきちゃって……」
「……て、嬉し泣きィッ?」
あんなにさめざめ泣いてたのに、嬉し泣きだっただとぉ?
「じゃ……じゃあ。別に、俺を騙そうとしたんじゃなくて……素で泣いてただけだって事か……?」
「……うん」
俺の問いに、コクンと頷く羽海。その、らしくもない殊勝な態度から、妹が嘘をついている訳ではない事を悟る。
俺は、ぶつけようとした怒りのぶつけ先を失い、
「……いや、紛らわしいんだよ、コノヤロー……!」
でも、ムシャクシャしてたので、理不尽に怒鳴った。
「……ごめん、愚兄……」
……何か、謝られてない気がするのは、何でだろうか?
ともあれ、俺は再び気を取り直そうと、コップの水を一気に飲み干すと、ベッドの上で神妙な顔をして座っているA級戦犯を睨みつける。
「――そして、何よりお前だ、シュウッ!」
「……反省してます」
俺の糾弾に、深々と頭を下げるシュウだったが、そんな事で許せる程、俺の怒りは浅くない。
「昔っから、『反省だけなら、猿でも出来る』って言うんだよ! どーせ、『ちょーっと殊勝なフリすれば、すぐに許してくれる』って、俺の事を舐めてんだろ、お前!」
「いや……違――」
「どう違うって言うんだよ、オイ!」
俺の言葉に頭を振ろうとするシュウの言葉を遮り、俺は声を張り上げる。
「お前が撥ねられたって聞いてから、俺はずーっと、お前が大丈夫なのか、どのくらいの怪我をしてるのか、……万が一、お前がしん――い、いなくなっちゃったら……どうしようって……ずーっと……」
俺は、一方的に口を動かしながら、次第に声が震えてくるのを感じていた。
――ヤバい。目頭がまた熱く……!
俺は、こみ上げる感情の大波を感じながらも、声を発し続ける。まるで、口の周りにだけ別の人格が宿ってしまったかのように……。
「……それなのに――おま……お前は、俺の気持ちなんか知らないで……俺をからかって、笑い飛ばそうと――こんな“死んだフリ”なんて小芝居まで打ちやがって……!」
「……ごめん! 本当にごめん! ヒカル……、お前がそこまでオレの事を心配してくれてたなんて、全然想像も出来なくて――! 馬鹿だよ、ホントに馬鹿だ、オレ……!」
「――ああ、そうだよ! お前は馬鹿だよ!」
俺は、何度も繰り返し頭を下げるシュウに向かって、厳しく言い捨てる。
そして、口の端を歪めて、せせら笑いを浮かべ、親指で自分の胸を指した。
「でも、もっと大馬鹿なのは、この俺だよ! お前なんかをめちゃくちゃ心配して、お前らに笑われる為に、ノコノコとここまで駆けつけた、トンマな大間抜けだ!」
「違う! そんなつもりじゃなかった……オレはただ――」
「そ、そうなの! シュウくんは――」
「うるせえっ! もう、知らねえよッ!」
俺は、必死に何かを言いかける、シュウとハル姉ちゃんの言葉を絶対に聞くまいと、両手で耳を塞いで頭を大きく左右に振ると、クルリと踵を返し、病室を飛び出した。
「ま、待てっ、ヒカル! 話を――」
「ちょ! 行かないで……!」
「ひーちゃんッ!」
俺を呼び止める三人の声を背中に受けながら、病院の廊下を大股で歩く。
振り返る訳にはいかなかった。
何故なら――俺の頬が、流れる涙でぐっしょりと濡れていたからだ。
今回のサブタイトルの元ネタは、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のOP『RAGE OF DUST』から採りました。
訳すと『激怒』。はい、そのまんまですね(笑)。
Google翻訳でそう翻訳されたから、多分意味は合ってる……はず(自信は無い)!




