27 DAY3終了
その後。
元気を取り戻したジャンさんと共に早めの昼食を取った俺たちは、イタリアペアに遭遇したらすぐに逃げられるよう滅茶苦茶警戒しながら、先を急いだ。
マンハッタンペアの視聴者は、ジャンさんの服が血だらけになっているのを見て悲鳴を上げた。その後、イタリア語が分かる人たちが向こうの配信を覗きにいって情報を流してくれたところによると――。
やっぱりあの二人は、イタリアンマフィアだった。
マリオという女体化した方がドンの息子で、兄弟たちと跡目争いの真っ最中。ドメニコという男の方はマリオのお目付役で、跳ねっ返りで気性の荒いマリオに相当苦労しているようだ。
彼らはナポリにできたダンジョンの入口から入ってきた。最初は順調だったけど、どこからか彼らが最近巷を騒がせているマフィアだと知れて以降、投げ銭が激減してしまったらしい。
そこから、マリオの凶行が始まった。
見つけ次第、他のペアは排除する。その時に、相手がフロア転移陣を持っていれば奪う。滅茶苦茶だけど、倫理を考慮しなければ効率がいいやり方ではあった。
だけど、香港ペアを襲ったことで、更に視聴者の反感を買ってしまった。
投げ銭が激減したことで、マリオはさっさとこのゲームを終わらせて脱出することに決めた。
そして三日目になり、ジャンさんが襲われたという訳だ。
ジャンさんが、うんざりといった様子で溜息を吐く。
「とにかくイタリアペアとは同じ階にならないよう調整するしかないな」
「俺もリューノスケも大賛成だよ。トイレに行く度に襲われるんじゃないかと思ったら、ジャンにはその辺で用足しをしてもらった方がマシ――」
「被らないように作戦会議だ!」
「おう!」
俺は大きく頷き返した。
四人になると、戦闘はかなり楽になる。
一階でスライムの大群に物理攻撃チームと魔法攻撃チームが分断されてしまった苦い経験を踏まえて、龍之介とジャンさんは今日は魔法を中心にレベル上げをしていった。
俺とスティーブさんは、魔法を鍛えつつ体力の底上げだ。
スキルポイントを体力に割り振ると、身体が軽く感じるようになってきた。どういった原理かは分からないけど、疲れにくくなった気がする。
もっと早く体力にもポイントを割り振っておけばよかったね、とスティーブさんと笑い合った。
三階のフロア転移陣は、地面から次々に生えてくるゴーレムの集団を倒したらゲットすることができた。
「入手後にイタリアペアに会わなくてよかったな」とニヒルに笑うジャンさんに、スティーブさんが不満げな表情で抗議の意を示す。
「あんなのはもう二度と御免だぞ。助けを求められなかった俺の気持ちにもなってくれよ」
「分かってるよ。悪かった」
すると、スティーブさんが目を細めた。
「反省してるなら、今夜のノルマ『膝の上に座らせてアーンで食事する』は俺にやらせろよ」
「……ええ?」
「異論は言わせないぞ。どれだけ心配かけたと思ってるんだ」
「う……っ、それとこれとは……っ」
スティーブさんの言葉に、ジャンさんが顔を引きつらせた。ジャンさんから目を逸らさないスティーブさんの視線から逃れるように、ジャンさんが俺たちの方を見る。
「き、君たちはどうす、」
「当然僕がしますよ。僕の体重は70キロあるから、亘の膝が潰れちゃうだろうし」
龍之介が、さも当然とばかりに即座に答えた。ね? と振られたので、俺も頷く。
「まあお前の膝に乗るくらいは楽勝だな」
幼馴染みゆえに、普段から俺たちの距離は近い。この程度なら余裕だし、俺は食に専念したい!
「そ、そうか」
戸惑いを隠せない様子のジャンさんに、スティーブさんが追い打ちを掛けた。ジャンさんの肩に腕を乗せて体重を掛けると、耳元で囁く。
「ジャン、俺はさっきお前に口移ししたんだぞ? それに比べたら軽いものじゃないか」
「……えっ!?」
ジャンさんが目をひん剥く。みるみる内に真っ赤になっていく姿が、大人な女性の姿をしているだけに凄く可愛かった。そっか、気絶してたから分かってなかったのか。誰も指摘しなかったしな。
「わ、え、あの、そのっ」
「今夜の食事が楽しみだね、ジャン」
にやりと笑うスティーブさんに、ジャンさんは何も言い返せず百面相を始めてしまった。頑張って、と心の中で応援しておく。
呑気に話している間に、地下四階へ続く階段が目前に迫ってきた。
ここまでくれば、もう大丈夫だろう。ホッと肩の力を抜くと、笑顔で龍之介を見上げる。
「俺は今日うな重にしようかなあ、でもステーキも食べてみたいんだよなー。うーん、迷う!」
「うな重、美味しかったよ。かなりオススメ」
穏やかに微笑む龍之介の眼差しが、あまりにも慈愛に満ちていて。
「お……う、うん……っ」
俺から逸らされない優しい目線に、不覚にもドキドキしてしまったのだった。
◇
うな重は、文句なしに美味しかった。
龍之介の膝の上に手を突いて足をプラプラさせながら、口の中に放り込まれるうな重をただひたすらに咀嚼して嚥下する。うーん、至れり尽くせりだねえ。
龍之介はというと、クラブハウスサンドとニョッキを頼んでいた。ひと口ずつもらったけど、どっちも美味かった。アホドラゴンの存在はムカつくけど、料理だけは褒めてやってもいい。
「じゃあ、先にひとっ風呂浴びてくるな!」
「うん、いってらっしゃい」
ここの湯船は、足を伸ばしても届かないくらいの広さがある。一日の疲れを癒やすには最高なんだよな。まあ、そもそもダンジョンになんか来たくなかったけど。でも、ある状況の中でいいことを見つけていくことにストレスを溜めないコツってあると思うんだよね。
龍之介に持論を展開したら、「亘がいてくれるお陰で僕も落ち着いていられる、ありがとう」って滅茶苦茶褒められた。この褒め上手が!
でもあんまりのんびり入っていると、龍之介が寝ちゃうかもしれない。もうちょっと入っていたかったけど切り上げて風呂から出ると、龍之介と交代した。
今夜も龍之介の鼻歌が聞こえてきたところで、確認タイムの始まりだ。
実はちょっと気になっていることがあったんだ。
――そう。俺のステータスについてだ。
「えーっと、ここか」
タップしてステータスを表示させた。
谷口亘 18歳 男性
レベル 19
身長 164センチ(165センチは詐称)
体重 50キロ
HP 315
MP 1000
状態 状態異常(女体化)
♡値 ♡♡
ペア 及川龍之介
「……♡が増えてる」
俺が気になっていたこと。それは、♡値の意味だった。これが一体何を表しているのか、未だに俺は分かっていない。だけど、龍之介は分かっているみたいなんだよな。
なにかヒントがないかタップしていくも何も表示されず、補足説明もなにもない。
「うーん? やっぱりよく分かんないなあ」
「キュー?」
首を傾げていると、キューが俺と同じように首を傾げながらパタパタ飛んできた。バランスを崩してベッドの上にぽてんと落ちたので、笑いながら胡座の上に引き上げる。
キューの頭を撫でると、キューは気持ちよさそうに瞼を閉じた。えへ、可愛いなあ。
「あ、そうだそうだ」
『ノルマ達成写真集』を選択して、DAY2の写真を表示させる。
龍之介の膝の上でだらしない顔をしている俺と、聖母のような微笑みを浮かべながら耳かきをしている龍之介の写真が複数枚掲載されていた。
「へへ……っ」
幸せそうな自分の顔を見て何故か温かい気持ちになった俺は、その後も暫くニヤニヤしながら写真を繰り返し眺めていたのだった。
次話は昼頃投稿します。




