歓迎
私たちが招かれた場所は、ゴアの州都パナジの北を東西に流れるマンドウィ川を渡って、その支流であるネルール川のほとりに構えられた高級別荘地だった。
ゴア国際空港に到着したのは午後一時五十分。そこからレンタカーで一時間四十分ほど走って、パリカールの別荘へ到着した。
沈黙が耐えられないかのように運転をしながらお喋りをしていたディティ巡査に対して、ヤダフ巡査は静かに助手席に座っていた。今屋敷蜜も黙っていたので、ディティの話し相手は専ら私だった。
一度だけ、「さっきは神経質な対応をしてすまなかった。スニラと呼んでもいいかな?」と今屋敷蜜がヤダフ巡査に話しかけて、初対面での摩擦を解消したので、車内で険悪な雰囲気はなかったが、これから向かう先を考えると緊張した空気になるのは避けられなかった。その点では、ディティの無駄話はありがたかった。
建築が密集したパナジと違い、各別荘の間隔は広かったので、建物の中で事件が起きたとしても周囲に気付いてもらえるかはわからなかった。銃を所持した護衛警官二人の存在が、その時の私にとってどれだけ心強く感じたか、想像できるだろうか。
特に、パリカールの別荘へ侵入する際に率先して先頭を引き受けたヤダフ巡査の身のこなしには隙が感じられず、建物への突入にも慣れている様子だった。
別荘は二階建ての欧風建築で、マンガロール・スタイルで有名な瓦屋根のクラシックなデザインだった。ネルール川に面した西側には水泳用プールがあり、白を基調とした建物は中庭の水域を取り囲むように柱が何本も立ち並び、高い天井と窓からは、揺れる水田の景色が堪能できるように設計されている。
しかし、その豪華な別荘をゆっくり見物することはできなかった。
私たちは忍び込むように渡り廊下の玄関を進んで、観音開きのドアを押し開いた。前方は吹き抜けの中庭になっていて、水面が風でわずかに揺れていた。
中庭の先の正面の壁には、照明に照らされて一つの絵画が飾られていた。私たちは全員、真っ先に目を奪われた。それは恐ろしい絵だった。漆黒を背景に裸の巨人が白髪を振り乱し狂気に目を見開いて虚空を見つめながら人間を頭から喰らっている――私にはそのように見えた。
隣で今屋敷蜜が「フランシスコ・デ・ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』だ」とつぶやいた。
彼女の視線は絵画に釘付けになっていて、私はそんな彼女の様子を観察した。そのため、初めに異常に気づいたのはヤダフ巡査だった。
彼女は私のすぐ後ろにいたので、大きく息を呑む音が私の耳に届いた。それに釣られて、私も視線を正面の、絵画の下に向けた。その空間は、明るく照らされた絵画とは対象的に、暗く影になっていた。
そこには、闇の中で誰かが椅子に座っていた。私はその瞬間までその存在に気付かなかった事実に身震いしたが、その男はまるで人形のように身じろぎ一つせずただ静かに腰掛けていた。
上等な革靴からスラックス、ジャケットと視線を移して、最後にやはり精巧な人形のように青白く血の気の失せた顔を見た。口を開けて少し驚いたような表情を浮かべたまま、オシリシュ・パリカールは息絶えていた。
更に異様なのは、その死体は右手にフォーク、左手にナイフを握っていた。彼の食卓の上には、男性の裸体が置かれていて、それはやはり青白く人形のように見えた。しかし、今度は激しく損傷していた。頭部は無く、胸に穴が開いていて、男性器が切り取られていた。ビシュヌ・パリカールの体に違いない。
その場にいた全員は驚きのあまり、わずかの間、悲鳴どころか声を立てることもできなかった。




