招待
以上が、私たちがロンドンでおこなった捜査のあらましだ。
今屋敷蜜が通う高校のロッカーに置かれた髑髏をたどって、国際的犯罪組織の存在とハリー・モリスの死の原因が明らかになり、ロンドンで暗躍する組織の構成員を一部とはいえ刑務所に送ることができた。
私たちは命を落とす寸前の目に遭いながらもかろうじで事なきを得たが、危険を冒した成果はあったと言えるだろう。
インディラ・ガンディー国際空港へ向かう飛行機の中で、私はこれまでに判明した事実を整理した。
「毒の色彩事件」で無差別殺人を企んだハリー・モリスは犯罪組織から教唆されており、毒を盛られた末、絶望して焼身自殺を遂げた。
モリスの計画を止めた今屋敷蜜に対して、組織はハリー・モリスの髑髏を贈った。その目的は未だ不明だ。
私たちはロンドンのモリスが焼身自殺した家でビシュヌ・パリカールの髑髏を発見。そこにはゴアの住所が書かれた手紙が残されていた。
そして、組織の幹部からガス漏れによる爆発を偽装した攻撃を受けるが、逆にその幹部ほか組織の構成員を逮捕することに成功する。
尋問の結果、聞き出した名前は「ヌエストロ・アーティスタ」。チェルシー・ミラーいわく闇のネットワークの支配者だ。
「この組織を潰すには、支配者であるヌエストロ・アーティスタを叩かなければならない」
座席に身を預け瞼を閉じて語る今屋敷蜜の表情は、ロンドンでの危険な捜査のあとにも関わらず、疲れを感じさせなかった。
今屋敷蜜は一見して可憐な少女だが、犯罪者と渡り合うための逞しさを心身に宿している。
その源泉となっているのは、真実を探究するという使命か犯罪への好奇心か、それとも悪を憎む正義の心なのか、いずれにしても彼女を止めることはどんな犯罪者にもできないのだった。
椋露地メルから「あの招待状に書かれていた住所は、オシリシュ・パリカールの邸宅」との報告があった。
「髑髏を置いたのはオシリシュの指示なのだろうか?」
「息子の遺体をあんな風に扱うのだとすると、常軌を逸してるね」
今屋敷蜜は微笑を浮かべて興味を持った様子だった。
「自らの手でわたしたちに復讐したいと考えているのだとしたら、巧妙に誘き寄せられてのこのこと殺されに行くようなものだね。しかし、組織のボスに接触するまたとない機会になるかもしれない」
「危険だとしても、君は行くんだろう?」
私は彼女の意思を確認したが、もちろん答えは決まっていた。
「虎穴に入らずんば虎児を得ずだよ、オリバー。それに、ようやく面白くなってきたんじゃないか!」




