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今屋敷蜜の探究  作者: ブーランジェ
真実の探究者
40/62

同士

翌日の午後一時に、東京駅丸の内中央口改札で待ち合わせをして、電車で移動することになっていたので、私が十分前に到着したところ、ちょうど私服姿の今屋敷蜜いまやしきみつが改札を抜ける姿が見えた。


友人と会うためなのかそれとも休日は普段からそうなのか、珍しくスカート姿の彼女を私は駆け足でつかまえて、そのまま中央線で新宿駅まで行き、彼女に従って京王線の特急に乗り換えた。


吊り革に掴まって揺られながら、私は事前に心の準備をした方がいいと思って、その友人はどんな人なのかと尋ねたところ、今屋敷蜜は「ひと言で表せば妖精だ」と答えた。妖精、ならば、怖い人物ではないだろうと一安心したところを、彼女は間髪入れずに「それと魔女も一緒にいる」と私をわざとおどかすような口調で付け加えた。


思い返せば、今屋敷蜜と出会ってからまだ日も浅いが、これまで驚くべき出来事の連続だった。


初対面では彼女は年齢を偽っていたし、危険が伴うことに言及はあったものの、依頼内容は通訳がメインと言われ、ほとんど巻き込まれるように契約をして、結局、「毒の色彩事件」で私はインドの殺人犯を撃ち殺すこととなった。そのくせ、通訳が必要になることは一度もなかったのだ。


普通なら、彼女にだまされたと恨み、恐ろしい結末に至ったことをなげくかもしれない。


しかし私は、この場を使ってはっきりさせておくと、その後今屋敷蜜と関わった数十年間を含めて、数え切れないほどの感謝をしたことこそあれ、彼女のことを恨んだことは一度もない。


私は子どもの頃、冒険家になるのが夢だったのだ。


冒険には危険がつきものだし、殺人鬼から襲撃を受ければ、髑髏ドクロや毒物も出てくるだろう。妖精や魔女が登場することだってあるかもしれない。


私は、その妖精と魔女が、今回の事件とどう係わってくるのかを彼女に質問した。


「わたしの友人は、妖精のほうで、彼女の力を借りられれば百人力だ。魔女は彼女の保護者なんだけどね。もったいぶった言い方をやめると、探偵とその助手だ」


探偵、と聞いて私は、正直に言うと少し肩透かしを食らった。


しかし考えてみれば、今屋敷蜜の趣味である犯罪捜査は、推理小説に登場する探偵の役回りだし、一般的な職業としての探偵ではないのだと考えてに落ちた。


「その探偵とはつまり、君と同類ということだろうか?」


彼女は答えを少しためらっていたように感じたが、うなずいた。「わたしと彼女は――つまりその探偵のほうだけど――我らが『真実の探究者たる同士』なんだ」


「真実の探究者たる同士」という言葉を私が耳にしたのは、その時が初めてだった。


彼女は以降、単に「同士」または「我が同士」という言い方をすることが多かったが、それは仲間意識を高めることを目的として使われている古い言い回しのようだった。


「なんだい、その真実の探究者たる、っていうのは?」


「ある種の秘密結社のようなものさ。といっても、名前もなければ統率とうそつを取る指導者がいるわけではないし、政治的、宗教的要素を持つものではない。どの国家、企業や団体とも利害関係を持たず、真実の探究という共通の目的のために無報酬で活動する優秀な個人間の同盟、といったところかな」


私は、彼女の説明を聞いても、その組織の実態を直感的に把握することはできなかった。


秘密結社といえばフリーメイソンやイルミナティが思い浮かぶが、そもそもその存在や活動が秘匿ひとくされているのだから、ぴんとこなくても当然かもしれない。


しかし、以前、スコットランドヤードで、たてがみのような髪型をしたギャラン副長官補と会ったときに、今屋敷蜜が自らのことを秘匿捜査員と称していた。


彼女が捜査機関に顔が利くのは、その真実の探究者たる同士による協力関係のたまものなのだろう、と私は理解した。


「では、今からその同士に協力を求めに行くんだね」


「いや、わたしはあのおばさんが苦手でね、なるべく会いたくないんだけど、メルはあの魔女にとらわれてるから、ああ! まったく腹立たしい!」


彼女がいきなり車両の壁を叩いて大きな音を立てたので、私は驚いた。


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