本題
遅れて、私は彼女の言葉の意味が理解できた。
「大男が二次元の存在なら、推理研究部部長は誰に怪我を負わされたんだい? 君は決死隊の中に犯人がいると言っていたけれど」
「それは、動機を持つ者がいる以上、はっきりさせなければならないね。しかし、犯人がいるとの発言は撤回させてくれ、彼が怪我をしたのは地震による事故だったんだからね。ただし、決死隊隊長の自作自演が原因となって招いた事故だ」
決死隊隊長、つまり被害者である推理研究部部長。その自作自演というのは、大男のだまし絵を天井に張って自分が襲われているように演出したということだ。
「彼はなぜそんなことをしたのかな?」
「推理研究部部長はわたしに強い興味を抱いているようだったからね、おそらく彼なりの方法で気を惹こうとしたんだろう」 今屋敷蜜は平然と言った。
「天井の大男を急いではがそうとした時に、間が悪く地面が揺れて足場が崩れてしまったんだ。地震はミステリーの仕掛けとしては陳腐なものだけど、現実は大抵あっけないものだからね」
こうして今屋敷蜜は、彼女の学校で起こった謎を解明してみせたのであった。
「ファンクラブがあったり、嫌がらせを受けたり、君は学校で人気者だね」と投げかけてみたところ、「おかげで少しは退屈がまぎれるよ」と彼女は答えた。
「それに、どうやら、わたしは校外にも熱狂的なファンがいるみたいだ」
そして今屋敷蜜は、おもむろに学生鞄から髑髏を取り出したのである。
「実はわたしは、退屈しのぎに彫刻刀で髑髏を彫ったりするのだけどね」
彼女は自分のことを滅多に話さないので、私はこの時に初めて、彼女に犯罪捜査と絵を描く以外にそのような風変わりな趣味があることを知った。
私は彼女の手のひらに乗った、人間の髑髏をじっと眺めた。
「でもそれは、本物の頭蓋骨みたいだ」
猪戸亜威も興味津々に「あ! それがお姉さまのロッカーに入っていた髑髏ですか! みつけたんですね!」と椅子に座ったまま、今屋敷蜜の前にかがんでしげしげと覗き込んだ。
「見てのとおり、これはわたしが彫ったものではなくて、本物の人間の白骨化した頭蓋骨だ。大きさと形状からしてアングロサクソンの二十代男性。もちろん、わたしの私物でもないよ」
「どうしてそんなおかしな物が君の学校のロッカーに置かれていたんだろうか?」
「誰かが自分のロッカーと間違えて入れたのでなければ、わたしへの贈り物だろうね、素晴らしい! こんなに嬉しいプレゼントは初めてだ! 興奮して昨夜は眠れなかった。おかげで授業中に居眠りして先生に怒られてしまったよ」
今屋敷蜜に贈られた髑髏の謎。さて、本題に入ろう、と彼女が言った。




