決死隊
決死隊はファンクラブの内部に留まるものではなく、全学年から優秀な人材を募って結成された。
これだけのメンバーを揃えることができたのは今屋敷蜜の人柄と彼女を慕う親衛隊の熱意のたまものと言って相違ないだろう。
これから述べる決死隊員の氏名は、猪戸亜威以外は本人の了解を得ていないため、個人情報に配慮して私が決めた仮名であることをお許し願いたい。
それでは、決死隊員を紹介しよう。なお、各隊員の特徴は、猪戸亜威の独断と偏見によるものである。
まずは三年C組、剣道部主将・剣持将人。全国高等学校剣道大会の個人トーナメントでベスト十六位に残った実力を持ち、段位は三段、真一文字に結んだ口と太い眉毛が特徴だ。
次に二年A組、学修一。彼は学年で三本の指に入る成績を常にキープしており、むらがある今屋敷蜜よりも平均順位では優れた成績を持つ。銀縁フレームの眼鏡と一八〇センチを越える身長が特徴。
続いて一年B組、猪戸亜威。彼女は今屋敷蜜ファンクラブの新人だが、入学して日が浅いにもかかわらず隊員の中には今屋敷蜜から猪戸亜威に鞍替えしたものもいるほどの人気を学校内で誇っている。
そして三年C組、推名探。推理研究部部長。彼の執筆した推理小説はネット小説大賞を受賞したことがあり、今回の決死隊による犯人捜査の指揮を取る。これといって特徴はないが男子の中では身長が低めで、ファンクラブの代表として決死隊に参加した。
最後に三年B組、絵野沢美知子。今屋敷蜜が所属している美術研究部部長。美術大学への進学を決めており絵画コンクールでの入賞を狙っている。茶色に染めてウェーブした髪が似合っている。
以上五人が決死隊のメンバーだ。
それぞれ、今屋敷蜜に対して行われた脅迫めいた嫌がらせ(実際には違う)の事実と犯人捜索のために隊員を募集しているという話を耳にして、我こそはと名乗り出た義勇兵だ。
それでは、その日学校で起こった数々の出来事のあらましを、なるべく詳細に語らせていただきたいと思う。
しかし、私自身がその場に立ち会ったわけではなく、この記録は主に猪戸亜威が決死隊員の供述をまとめて私に説明したものであるから、彼女の主観が混じっていることを否定できない。
とはいえ、のちほど今屋敷蜜が注釈を入れた箇所を除いては信頼できる供述であることを彼女にも確認している。




