彼女の高校生活
ここで、今屋敷蜜の高校における立ち位置を説明しておくことで、これから語る奇妙な事件の全体像を把握するうえで役に立つだろう。
彼女の通う高校は、千代田区の歴史ある男女共学の公立高校で部活動も盛んに行われている一般的な進学校だ。
彼女が有名私立校などではなくこの高校を選んだのは、どこでもよかったが、通うのが便利だったからというのがその理由らしかった。
敷地は広く、校舎、グラウンド、図書館、体育施設、理科施設が同じ敷地内に収まっており、植物も多く緑に恵まれている。
図書館は校舎のほぼ中央に位置しており彼女もたまに利用する。
体育施設はテニスコート、体育館棟(メインアリーナ・サブアリーナ・柔道場・剣道場・トレーニングルーム)、プールがある。
理科関係の機器類などの設備は他校よりも特に充実している。
今屋敷蜜は学校のことを未成年を拘束する監獄のようだと表現した。
限られた空間で毎日特定の人間と一緒に過ごすことを強要され、一日のスケジュールも自分の意思に関係なく厳密に決められており、逃げ場はない。
彼女の高校生活の方針は卒業するまで適当にやり過ごすというものだった。
とはいえ彼女の成績は文武ともに優秀なうえに容姿も良いため目立たないわけはなく、ひっそりとした尊敬と妬みの対象となっていた。
猪戸亜威が説明したように生徒間で彼女のファンクラブも結成されていて、中には熱狂的な信者もいる。
しかし一方で、今屋敷蜜は犯罪捜査をこよなく愛し、また、頭蓋骨を彫刻するといった変わった趣味がある。
制作中の作品が気に入らなかったりすると彫刻刀を突き立てて破壊することも度々あるのだが、彼女は学校ではそれを隠して普通にふるまいたいと考えていた。
そのため、校内での発作的な彼女のそれら奇行の産物を、他者による嫌がらせと勘違いしたファンクラブの隊員が彼女を守るために決死隊を結成したのも無理のないことであった。




