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今屋敷蜜の探究  作者: ブーランジェ
毒の色彩
20/62

ゴアの北の砦

「このあとはどうするんだい?」と私が聞くと、彼女は「ホテルに行く」と答えた。


「でも、急がないとまずいんじゃないのかい?」


「人事は尽くした、あとは報告待ちさ」


運転席にいるディティ巡査に、今屋敷蜜いまやしきみつはとりあえず空港へ行ってくれと指示を出した。


私にはわからないことだらけだったが、ビシュヌに渡した紙には何が書いてあったのかと彼女に尋ねた。


「あの紙にはでたらめな住所が書いてあるだけだよ、どうせあの男から連絡は来ない」


「空港からどこに飛ぶんだい? 報告を待つだけだったら、デリーのホテルでも構わないと思うけど」


「ここにはもう用事はないし、デリーからは離れよう。当初の予定通りゴアへ行こうか、ビーチもあるし帰りにヴァスコ・ダ・ガマが見れるよ」


そうして私たちは、デリーの空港でディティ巡査と別れ、当初乗る予定だった飛行機に乗ってゴア国際空港に向かったのだった。


私は事件の調査がどのように進んでいるのか気になって仕方なかったのだが、彼女はもうすっかり旅行を楽しむ準備に入っていて、嬉しそうに今夜泊まるホテルを吟味して予約していた。


ゴア国際空港に着いてからは、タクシーに乗って寄り道せずにまっすぐホテルに向かった。


昨夜はデリー行きの機内で十分な睡眠が取れていなかったため、私はタクシーの中でぐっすりと眠ってしまい、起きたのは夕方近くなってホテルに到着してからだった。


彼女は空港からかなり離れたホテルを選んでいたようだ。


そこは観光客向けの色とりどりの優雅な装飾が施されていて、特別豪華なわけではないが、緑に囲まれて居心地のいい、歴史を感じさせる独特な建築だった。


客室係がもともとポルトガルの砦だったものを改装して使っているのだと教えてくれた。


解放的な部屋のほぼ全ての窓からアラビア海の素晴らしい雄大な景色を眺めることができた。


私はこの美しい場所がすぐに気に入った。


「部屋はひとつだけなのかい?」と私が聞くと「せっかくのこの素晴らしい部屋も一人で過ごしたら魅力が半減してしまう」と彼女は答えた。


「まさかオリバーは、わたしに手を出したりしないだろう?」


今屋敷蜜は十分魅力的な女性だが、私とは歳が離れているし、何より弁護士と依頼者の関係だ。


私は笑って、はっきりと否定した。


そこで、以前から気になっていたことを彼女に聞いてみた。つまり、交際相手がいるかどうかだ。


彼女の年齢ならむしろ恋愛に興味津々というのが普通だと思ったが、今屋敷蜜は私の質問にきっぱりと恋愛には興味がないと答えた。


彼女はキングサイズの天蓋付きベッドを独り占めにして気持ちよさそうに寝転んで、私は窓からアラビア海の絶景を楽しんでいた。


私たちがホテルに到着して落ち着いた頃合いになって、見計らったように彼女の携帯電話が鳴った。


「こちら今屋敷蜜いまやしきみつ


何度か相槌を打ってから、彼女はむくりと上体を起こして、おもむろに告げたのであった。


「オリバー、ついにこの休暇の終着点に着いたようだよ」


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