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今屋敷蜜の探究  作者: ブーランジェ
毒の色彩
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スコットランドヤードの使者

「ところで、オリバーは銃を扱えるかい?」


ビシュヌ・パリカールに会うのであれば、できるだけ用心する必要があると私が考えていると、彼女からそう質問された。


「何度か撃ったことはあるよ。でもイギリスは日本と同じで銃規制が厳しいからね、それにどの国でも在留資格のない外国人はライセンスを取るのが難しいし」


私はそう答えたが、運動神経は良い方だし、渡米した際に度々ガンハウスに通っていたため、射撃には多少自信があった。


「わたしの射撃の腕も相当なものだよ、君と同じで実弾はあまり撃ったことはないけど」


彼女がおかしなことを言うものだから、私はつい笑ってしまった。


むっとした表情を見せた彼女に、私は「あまり撃ったことがないのに腕がいいっていうのかい?」と尋ねた。


「実弾を撃てなくても腕を磨くことはできるよ、空気銃だって馬鹿にしてはいけない」と彼女は真剣な表情で答えた。


私は半信半疑だったが、彼女がそう言うのならそうなのかもしれない。


いずれにしても、インドには銃の専門店が街中にいくつもあるが、ライセンスがなければ購入できないし、観光客にはまず売ってくれない。私たちがここで銃を所持することはできないと思われた。


「観光でも銃を手にする方法はあるものだよ、非合法だけれどね。しかし君は反対するだろうね」


私は彼女のこの言葉には即答できなかった。


命の危険があるとなれば身を守る手段が必要だ。インドでは女性用の銃も販売されているし、銃を扱えるのであれば万が一の事態に備えて彼女には護身用の銃を持っていてもらいたいのが正直な気持ちだった。


とはいえ、違法なことをおおっぴらに認めるわけにもいかないし、インドでは許可無しで銃を所持していると最大で終身刑が法律で科されている。


私たちは空港の両替所でいくらかインドルピーに替えた後、ターミナルでメータータクシーに乗った。


目的地を運転手に伝えて、二十分ほどニューデリーの雑然とした景色を見ながら車に揺られた。


この時期のデリーは乾季と暑季の間で、もう少しすると気温が一気に上がるがまだ過ごしやすい季節だ。


政府機関が密集するニューデリー中心部へ来ると、街並みは広く整然として厳粛げんしゅくとしたおもむきの建築が立ち並ぶ。


目的地のデリー警察本部はその中でもひときわ目を引く近代的な二棟の高層ビルで、その中心を連絡する高層の通路と合わせてビル全体を俯瞰ふかんすると、まさにインド首都圏を守る城壁を思わせた。


このインド警察が敵に回ったとしたら? 


そう考えただけで陰鬱いんうつな気分になったが、私の隣で見るともなく景色を眺めている今屋敷蜜の表情からは、つゆほどの不安も読み取れなかった。


それはこの少女が、我らが誇り高きスコットランドヤードの使者として大義を帯びて今ここにいることの何よりの証だった。


「でっかい建物だね! あの壁に描かれているおじいちゃんは誰だろう?」


デリー警察署の壁に描かれたマハトマ・ガンディーの巨大壁画を見て彼女は歓声を上げた。

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