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今屋敷蜜の探究  作者: ブーランジェ
毒の色彩
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インドへ向かう前に

亡きハリー・モリスの怒りを一部でも理解してもらうためには、簡単にではあるが、インドの司法制度の現状を説明する必要がある。


そのために、一つ事例をあげよう。


五年前、十四歳のアイルランド人少女がインド南部のゴア州で暴行を受けたのち殺害され、インド人の男二人が強姦罪と過失致死罪で起訴された。


検視の結果、警察は当初死因を水死と発表していたが、遺族が再度の司法解剖を求めた結果、薬物を投与されて強姦されていたことが判明したのである。


少女の体には五十ヶ所以上の傷があった。インド当局が事件を隠蔽いんぺいしようとしていると考えた遺族は、アイルランドで検視を行うことを強く求め、三度目の検視が行われたが、その際に、子宮が行方不明になっていることが判明した。


裁判では、犯行を目撃したはずの証人が次々と証言を拒否し、男二人には無罪判決が言い渡された。遺族は沈黙し、ついに上訴されることはなかった。


無罪放免となったインド人の名前は、ビシュヌ・パリカール。


次に、司法体制について、今回の事件を追うにあたって必要と思われる知識を列挙する。


・インドの下位裁判所判事は各州知事によって任命される。

・下位裁判所は一般的に全ての刑事事件につき原審となる。

・高等裁判所は管轄内の下位裁判所について上訴管轄権を有し、監督する。

・高等裁判所は事件の一部が管轄内で発生していれば司法権が及ぶ。

・州政府が一定の独立性を持っており、各州に政府があり大臣がいる。

・州法案は州知事の同意がなければ成立しない。

・農村部ではカーストによる差別が残っている。

・ゴア州はインドで最も面積が小さく、小規模の農村部自治体である。


他にも耳に入れるべき事柄はあるが、ざっとこんなところである。


最後に、今屋敷蜜いまやしきみつから聞かされた特筆すべき事項として、ハリー・モリスの恋人を強姦したのち殺害した罪で起訴されている男の名は、ビシュヌ・パリカールであり、ゴア州知事アキレシュ・パリカールの実子であることをここに記す。

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