エリオットの証言
私たちはまたタクシーを拾い、メモに書かれた住所を運転手につたえて、ハリー・モリスの友人エリオット・エルフィンストンに会いに行った。
「ハリー・モリスの件でスコットランドヤードから来ました」
少しお待ちをと男性の声が聞こえて、開いたドアの前に立っていたのは肥満体型で中背の男だった。
エリオットは警戒心の薄いタイプのようで、今屋敷蜜を見てから私に視線を向けたが、何も不審は抱かなかったように見えた。
彼女はあとで、身分を説明する手間がはぶけて助かったと話した。
また、この時は私もエリオットのことを、人の良さがにじみ出ていて人殺しはおろか隠し事さえ満足にできないタイプの人間だろうという印象を持った。
「聞き忘れたことがあったもので」と彼女が切り出すと、エリオットはどんなことですか、と応じた。
「今回の事件が起きる前のモリスさんの様子を詳しく聞きたいのです」
男は数度瞬きをして、「非常に不安定でした」と答えた。その後、彼女が聞き取った内容はこうだ。
二年前にあんな事件があって(この事件の詳細は彼女が教えてくれた)恋人を亡くしてから、ハリー・モリスは精神的に非常に不安定になり、カウンセリングも受けていたが、仕事を辞めて家にこもりぎみになり、人前に姿を見せなくなった。
しかし、事件から時間が経ってからは度々どこかに外出していたようで、エリオットがモリスのことが気がかりで訪ねても留守にしていることがあった。どこに出掛けていたかモリスは話さなかったが、一度に長期間家を空けていることもあったようだ。
モリスの精神状態について、今屋敷蜜は強く関心を抱いていた。
彼女の分析によると、恋人を助けられなかった事に対しての罪悪感と自責感、加害者に対する殺したいほどの激しい怒り、加害者を正当に裁けない警察と司法、社会全体に対する不信感と怒り。
慢性期における遺族の心理は様々だが、モリスは自他に対する怒りの傾向が強いと指摘した。
「馬鹿なことを言っていると思われるかもしれませんが、ハリーを殺したのはあいつです」
ドアに手をついてぜえぜえと息を吐きながら、興奮に胸を震わせ、額を汗で濡らしながらエリオットは告げた。
「あのインドの殺人鬼です」




