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第7話 狂い咲く悪意

 かれこれ既に出発から2時間以上、森の中を進んでいる。

 魔物と遭遇することもあるが、今のところ対処に困るような事態にはなっていない。


 警戒を緩めるつもりもないが、気になるのは森の様子ではなく別のことだった。


(なにかあったのは間違いなさそうだな)


 ロンドは胸中でニヤリと笑った。

 【エインヘリアル】は、調査依頼でアンドラ大森林に向かっていた。


 アンドラ大森林とは、帝国の南西にある広大な大森林である。

 湿潤で気候が安定していることから、エクラリウス帝国は肥沃な大地を持つ。


 この地域は降水量が多いことから、その大森林では木々の発育も逞しく、太陽を遮るようにいつもの大きな枝が伸びている。まだ明るい時刻にも関わらず、森林内は薄暗かった。


 大森林を抜けると、工業都市ドドマンカに出られる。

 錬金術と鍛冶・精錬技術に特化しており、ドドマンカ製の武器や防具は質が高く、冒険者から圧倒的な人気がある。技術の粋を用いたインフラは街を潤し、活力に満ちている大都市の一つである。


 ドドマンカまでは街道が整備されており、定期的に街道付近の魔物も間引かれていることから滅多なことは起きないのだが、最近になって本来は森の奥地に住み、街道付近には出ないような強さを持つ魔物の出現報告が急増していた。


 万が一、危険な魔物と遭遇する危険性がある為、Sランクパーティーである【エインヘリアル】にアンドラ大森林の調査依頼が回ってきたのだった。


 調査依頼の為、重要視されるのは討伐ではなく、現状確認と報告である。

 危険な魔物を発見すれば、そのまま引き返してギルドに伝える。それで終わりの言ってしまえば楽な依頼ではあった。

 

 発見された魔物によっては、大規模な討伐隊が編成されることになるが、それはこちらには関係のない話である。改めて討伐依頼があったときにでも考えればいい。


 そっと視線を移す。

 どうにも、クレイスとヒノカの様子がおかしい。


 必要なこと以外、何も話していない。

 2人からは、これまでに見たことがないピリピリとした緊張感が漂っていた。


(いよいよコイツを使う日が来たかもしれねぇ)


 それはロンドが、いざというときの為に用意しておいて仕込みの一つだった。

 腰布の中に入れて、いつでも取り出せるようにしてある小瓶にそっと触れる。

 

 歩くのに邪魔な草を剣で刈りながら、タイミングを伺う。

 もうすぐ休憩が必要になる。

 

 見張りの当番をあの2人に任せよう。

 あの様子だと張り詰めた緊張の糸が切れるかもしれない。

 

 決行するのは、今夜だ。

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