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もう全部俺一人でいいんじゃないか? ~人々にギフトを与える能力に目覚めた俺は、仲間を集めて魔王を倒すのが使命らしいけど、そんなことはどうでもいいので裏切った奴等に復讐していく~  作者: 御堂ユラギ
第六章 殲滅のウインスランド~だが俺も当事者だった~

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第48話 剣神ざまぁ

「この血の滾りを、この俺をもっと高みへと導け! 弐の型【翆玲】」


 大理石を軽々と斬り裂いていく。突如、これまで剛剣を振るっていたオーランドの動きが流麗なものに変化する。流れるような、包み込むような波状攻撃が襲ってくる。


 私はそれを冷静に受け流す。何処までも冷静に、機械的に作業として処理していく。剣を振るいながら、命を戦場に晒しながら、目の前の相手と対峙しながら、私はまるで、そんな自分を外から見ているかのように客観的に捉えていた。



「あははははは」



 笑ってしまう。これが笑わずにいられますか。いったい私は何をやってるんでしょうか。なんとも奇妙なこの状況。面白くて仕方がない!


「そうだ、貴様の本気を俺に見せてみろ! 参の型【迅雷】」


 雷光のように一瞬でオーランドの身体が消える。その刹那、その剣は私を殺そうと眼前に迫っていた。しかし、それさえも私はあしらっていく。まだまだこんなものじゃないでしょう? それで終わりなんですか? そんな視線をオーランドに送りながら、何処までも捌き続ける。


 まったくどうしてこんなことになったのか、何故こんなところにいるのだろうか。1週間前の私は何をしていたんだっけ。そうだ、確か私は各地のギルド支部から要請された予算の調整をしていた。発生する危険の頻度、魔物の脅威度、抱えているハンターの数、討伐件数、それらを総合的に判断して予算を割り振っていく。


 ギルドの予算は都市に多く配分されるかというと、そういうわけでもない。持ち込まれるクエストの数こそ人口が多い都市部の方が増える傾向にあるが、都市はその分、危険地帯から離れた場所にあり戦力も整っている。余程の事態でも起きなければ、そこまでの危険はない。一方で、辺境の街程、危険度は高くなる。魔物と遭遇する確立も必然的に上がり、治安の維持する騎士団の目も届き難くなる。そんな事情を勘案しながら、今年度の予算を割り振っていくのだ。


 それがなんだ。今ではこんなところで【剣神】として剣を振るっている。先週、家に帰って暢気にアイスを食べていた私には到底思いも付かないこの状況。こんなのもう笑うしかないだろう。


 忘れていたはずの記憶が蘇る。かつてどうにもならないと諦めた希望。私はこの【剣神】同士の馬鹿げた殺し合いの中、子供の頃を思い出していた。


 そういえば、私も昔は冒険者になりたかった。そんな夢を持っていた。純粋で真っ直ぐ、冒険者に憧れていた子供の頃。でも、その夢は呆気なく散る。6歳とき、洗礼の儀で授かった私のギフトは冒険者に向いたものではなかった。思えば、たったそんなことで私の夢は潰えてしまったんだ。


 もう忘れたと思っていた。完全に諦めたつもりだった。でも、何処か私の中にまだその気持ちが残っていたのだろうか。私はギルドの事務職員として、冒険者ギルドで働くことになった。今思えば、少しでもかつて憧れていた冒険者というものに関わりたかったのかもしれない。これは私の未練だ。捨てきれない願望だ。


「肆の型【灰絶】」


 オーランドが何かを言ってる。もうどうでも良かった。オーランドが何をしようと、そんなものは何でもない。強い。きっとオーランドは誰よりも強いのだろう。あのリドラやニギと名乗っていた者達よりも遥か高みに登り詰めている絶対的強者。疾さ、威力、どれを取っても比類なき力、極限の誇り。


「だから、貴方は弱いんです。オーランドさん!」


 一瞬の隙。存在しないその隙を無理矢理こじ開けて、剣を振るう。私の華奢な身体から繰り出されたその一撃は、オーランドの巨躯を簡単に吹き飛ばした。


「ぐぁぁぁあ!」


 なんで諦めたんだろう。どうして愚直に夢を追いかけなかったんだろう。たかだか、こんな私が【剣神】になってしまうような、そんな途方もなく馬鹿らしいギフトの力がなかったからって、それが私を否定する理由にはならないのに。ギフトに恵まれなかったからといって、それが何だと言うのか、ギフトに恵まれても、こんなことしか出来ないオーランドのような人間がいるのに。


 あぁ、そうだ。私の人生を決めるのは私だ。ギフトじゃないんだ。こんな力がなくたって、私は、人間はもっと自由に生きられるはずなんだ。私はギフトの奴隷じゃない。


「この俺にここまで抗うとは……」

「そんな程度ですか? あまりにも弱すぎますよオーランドさん。ガッカリしました。知ってます? 私は最近まで剣を握った事もなかったんです。貴方はきっと幼少の頃から研鑽を積んできたんですよね? それなのに、そんな私にやられっぱなしで良いんですか?」

「貴様……!」


 ギリッと、ハッキリと聞こえるほど、大きな歯軋りが鳴る。奥歯が砕けたのか、オーランドはそれを吐き出した。


「何が【剣神】ですかくだらない。そんな力に無様に頼って、驕って、結局貴方は私みたいな事務職員の素人相手にも勝てずに跪いている。なんて憐れで惨めで可哀想……」


「マリア・シエン。その目を止めろぉぉぉぉぉぉお!」


 負けるはずがなかった。僅かな迷い油断が私の命を奪うそんな状況でも、目の前の相手に負けるなどとは到底思えなかった。ギフトに従属している男に、人生をギフトに依存した男に、今の私が負けるはずがない。


 後方で爆笑している気配を感じる。


(なんだ、やっぱり来てくれたんじゃないですかクレイスさん)


 得も言われぬ安心感。きっと彼は面白おかしくこの状況を見守っているのだろう。彼は私が負けるなどとは微塵も考えていないはずだ。最初からそう言っていた。万事解決なのだと。まったくもってその通りだ。私が気付くだけだった。ギフトの意味に。


 私が戦おうとしなかったからギフトが答えなかっただけだ。覚悟を決めて、一歩踏み出せば答えてくれる。私はギフトに従属しない。こんな力に溺れない。私が主なのだから。私が自分の意思で力を使うのだから。


「こんなものではないでしょう? それで終わりなんですか? 笑わせないでください! 貴方は戦う事しか出来ないのに、他に何が出来るんです? オーランドさん、貴方に会計処理は出来ますか? 決算書は読めるんですか? 法務は? 経理は? お茶はちゃんと汲めますか?」


「黙れ! もう終わりだ! お前はここで殺す。伍の型【雪月】」

「貴方には何も出来ない。私を殺すことも。その剣を極めることも。【剣神】なんて、ちっぽけでくだらない力に縋って、時間を浪費して。命を無駄にして、虚しい人生ご苦労様です!」

「俺を馬鹿にするなぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」


 正面からぶつかる剣と剣。火花が飛び散り焦げ臭い匂いが鼻につく。オーランドの目は血走っていた。口角から泡を飛ばし正気かどうかも分からない。殺したいという殺意だけに従うように、私の命を奪おうと剣を振るい続ける。


「良い歳して恥ずかしくないんですか? 【剣神】なんて力にはしゃいで、こんな大事件を引き起こして。なのに小娘の私にも勝てないなんて、貴方、生きている価値あります?」

「お前は、その四肢を引き裂いて、バラバラに切り刻んで打ち捨ててやる!」

「出来もしないことを言わないでください!」


 私は剣をオーランドの右肩に突き刺した。


「ぐぅぅ!? ありえぬ、何が起こっている? 何故だ俺は【剣神】のはずだ!?」

「貴方はそんなことにも気づかない」

「まだだ。まだこんなもので終わるわけにはいかない。俺は【剣神】オーランド・ウインスランド。負けるはずがない」


 オーランドは剣を床に突き刺しなんとか身体を支える。



「―――クラス10―――絶刀・神武―――」



 オーランドが血のまみれた右手を掲げると、途方もなく巨大な門が上空に現れる。


「俺をコケにしたその罪、死をもって償え!」


「お前らのそのつまらん大道芸にも飽きたな」


 ふと、背後からこの戦場に似つかわしくない本当にどうでも良さそうな声が響いた。


「マリア、その剣はただの剣じゃない。お前の魔力を込めてみろ。お前の力ならあんなオモチャに負けることはない。負けたら折檻するからな」

「そういうことは先に言ってくれます!?」


 まったく、どうしてあの男はいつだって私を困らせる。目の前で対峙するオーランドなど、まるで取るに足らない程に。


「わわっ!? なんか光りましたよクレイスさん!?」

「格好良いかなと思って入れてみた演出だが、特に意味はない」

「おいこらてめぇクレイス!?」

「弟子にもついに反抗期が来たか」

「あなたの所為ですからね!」


 なんだかんだ言いながら決して私を見捨てない。認めたくありませんが、今は師匠だと思っておくことにしましょう。


「クレイス、追放された無能なガキが! 貴様も一緒に殺してやる!」

「そういうことはマリアを倒してから言え」

「こっちに丸投げしてきた!?」

「次は貴様の番だ!」

「あぁ、もう! クレイスさんの馬鹿!」


 オーランドが新たに手にしたその剣は、先程までとは全てが異なっていた。神器。神なる存在が使う武器。現世に存在するはずのない虚像の刀。


 でも、こっちだって――! 柄を握る手に力が入る。神の御使いが鍛えた剣だ。神格なら同程度だろう。なにか意味もなく光り輝いているが、きっと何か効果があると信じたい。恨みがましい念をクレイスに送りながら、私はオーランドの攻撃を掻い潜る。


「もういいでしょう。オーランドさん、残念ながら貴方はその程度です。私にも決して勝てない雑魚。【剣神】なんて、随分と底の知れた力でしたね!」


 先程、突き刺した右肩の傷に、寸分違わず剣を突き刺し、今度は一気に下まで振り下ろした。


「俺の、俺の腕がぁぁぁぁぁああああああああああ!?」


 さしたる抵抗もなく、右肩から先が床に落ちた。利き腕を失えば、これ以上、戦う事は出来ない。【剣神】オーランドはもう死んだ。


「良くやったマリア。あとでモナカをやろう」

「それ、私があげたやつじゃないですか」


 じっとりした視線をクレイスに向けながら、私は全てが終わったことを理解する。



「     【Deprive】     」



「オーランド、お前のギフトを剥奪した。これでお前はもう【剣神】でも【剣聖】でもないただの老人だ。帝国法に則って罪を償え」


「な、なに……!?」


「ま、罪を償うって言っても事情聴取後、死罪になるだけだろうけど」

「ったく、この騒動もようやくこれで終わりか。この歳になると前線に立つのはしんどいぜ」


 ハイデルとミゲルもこちらに向かってきていた。全員無事だったんだ。無事だとは思っていたが、その姿を見て、ようやくホッと安心する。


 私はオーランドの下に近づいていく。茫然自失のオーランドにもう何かをする力はないだろう。オーランドの耳元でそっと囁く。


「オーランドさん――」











「ざまぁ」











「あぁ……あ……あ……っ……あぁ」


 目の焦点が合っていない。何を考えているのか、何も考えられていないのか分からない。ただ、これで本当に終わったのだ。


「……えっ?」


 安堵した束の間。

 突如、地鳴りのような音と共に、周囲一帯が吹き飛んだ。

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