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もう全部俺一人でいいんじゃないか? ~人々にギフトを与える能力に目覚めた俺は、仲間を集めて魔王を倒すのが使命らしいけど、そんなことはどうでもいいので裏切った奴等に復讐していく~  作者: 御堂ユラギ
第六章 殲滅のウインスランド~だが俺も当事者だった~

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第46話 剣神衝突

『―――クラス4―――プレゲトーン』



「ようやく出てきたか。今度こそ本気ってことでいいかな?」

「フフッ。面白いですね貴方達。どういうわけかいきなり強くなっている。何をしたんです?」

「これから死にゆく君達が知る必要あるかい?」

「確かに。僕等がやることは質問することじゃない。殺し合うことだけです!」


 ここに来て部隊の進行速度は停滞していた。迂闊に前へ進むことが出来ない。それはこの作戦が佳境に入った事を意味していた。立ちはだかる敵、ニギ・マギはニヤリと笑うとプレゲトーンを手に取る。


「この槍を手にした以上、リドラのようにはいきませんよ。マツカゼ!」

「分かっている」


 その男は言葉少なげに頷くと、迂回するようにサイドに回り責め立てる。


「僕だってSランクだ。借りは返させてもらうよ。さぁ、再戦と行こうか!」


 右足に力を入れて踏み込む。その圧で床に亀裂が入った。既に30人近く倒している。残りは半分もいないはずだ。だが、残っているのはいずれも強敵ばかりだろう。ここから先には生きるか死ぬかの戦いになる。


(【剣神】の力、どれほどのものか……信じるぞクレイス!)


 女神の代行者など最初は詐欺師だと思っていた。ただの大法螺吹き。信じるに値しない虚言のはずだった。Sランクのグリッドにとって、その強さとは自分の理解の範疇にあるものでしかないと考えていた。だが今となってはその認識は完全に覆っている。自分達が苦戦していた相手をこともなげに一蹴していた姿。相手のことを敵と認識していたかどうかすら怪しい。


 なにより、今自分に宿っているこの力はなんだ。こんなものを誰彼構わず付与するなどいう破綻した倫理観。あれはもう逆らって良い相手ではない。関わることすらリスクになり得る。あの得体の知れない男と比べれば、目の前の相手の方が余程やり易い。そんな男が勝てると言ったのだ。ならそれは勝てるのだろう。その言葉を疑うことすら必要ない逸脱者。疑念も疑惑も無意味だ。勝てるという確信だけがあればいい。


「ニーナとククリはそっちの奴を抑えろ。僕はコイツをやる」

「貴方に出来ますか――ね!」


 ニギによる神速の一撃。あまりの疾さに回避しきれず装備を掠める。たったそれだけで衝撃が全身を襲う。まずもってただの槍ではない。一撃でも当たればそれで人体が破壊されるだろう。


「……クッ! だが、まだまだこれくらいで――!」


 グリッドは覚悟を決めてニギに向かって飛び込む。縦横無尽に振るうグリッドの剣をニギは鍔迫り合いのような形で器用に槍を使って捌いていく。


「あぁ……堪らない! 早く、早く見せてください! その顔が絶望で歪むところを! 真っ赤な血で染まり、這いつくばって死んでいくところを!」

「生憎、僕は狂人に付き合う気はないんだよ!」


 剣と槍。どちらが強いのか、数合だった打ち合いは数十、数百へと連なり加速していく。甲高ない剣戟音が火花が飛び散る。




「お前さん達の相手は儂がしてやろう」


 ゆらりと現れたその老人はまるでこの場には似つかわしくない相貌をしていた。しかし、今にも獲物に喰らい尽くさんとギラギラと輝くその瞳が、老人こそがこの場の主役なのだと物語っていた。


「我々としては勘弁してもらいたいんだがね」

「いや待てミゲル。あの男の顔、何処かで……」

「なんだいハイデル君の知り合いかい?」

「いや、違う。だが見覚えがある……。アンタ、誰だ?」


 真っ黒に染まった法衣のような服の袖から、1本の短剣を取り出す。冷たい刃物の感触を愛おしむように、その老人は手で撫でる。


「儂の顔に見覚えがあるとは働き者だのう。仕事熱心なそちらに免じて名前を教えてやろう。儂はシャックウ。シャックウ・フロイド」


「馬鹿なシャックウだと!? 貴様生きていたのか?」

「20年も前に行方不明になっていた稀代の殺人鬼とこんなところでご対面とは、全く運が悪いのか良いのか分からないね」


 ギルド職員であれば、その名前は聞き及んでいるだろう。ギルドには膨大な情報が集まるが、その中でも犯罪者の情報は特に優先される。知識として頭に入れておくべき必須項目とも言えた。


「ご老人、足腰が辛いんじゃないかい? 大人しくしてては如何かな?」

「心配はいらぬよ。むしろ今が全盛期なのでな――」


 目の前の老人が陽炎のように姿を消す。ざわりと、ハイデルは首筋に悪寒を感じて、咄嗟に横に飛んだ。すると、まるでそれを待っていたかのように後ろから斬撃が襲ってくる。


「おい、ジジイ! てめぇ、その動き。どうなってやがる!?」

「ふむ、どうやら少しは楽しませてくれそうだのう」


 ハイデルとミゲルは警戒を強める。明らかに老人の動きではない。老練、老獪といったその種の言葉は当て嵌まらない。年齢という物理的な限界から外れた理外の動き。訓練や技量でどうにかなるものではない。


「どうやらこいつはこれまでの相手とは別格のようだな。覚悟を決めろミゲル」

「嫌だなぁ……。怪我したってマリアちゃんがいるとは言え、痛いものは痛いんだよ?」

「俺だって願い下げだ! だが、今はマリアを動かせない。致命傷を受けて回復出来るのはマリアだけだからな」

「どのみちクレイス君が言っていた以上、オーランドの相手はマリアちゃんしか出来なそうだしね。ここは久しぶりに【センチネル】復活と行きますか」

「終わったら即解散だぞ」

「辛いねぇ。少しは懐かしむとかないのかいハイデル君?」

「いつまでも俺達みたいなのがはしゃいでるわけにはいかないんだよ。そこのジジイと違ってな」


 かつてハイデルとミゲルが組んでいたSランクパーティー【センチネル】。あらゆる異常を見逃さないとして現在の冒険者ギルドという組織を近代化させた中興の祖とも言える伝説的なパーティーとして知られていた。


「年を取るのは嫌なもんじゃ。薄れるかと思っていた殺意は日に日に増すばかりでのう。儂は寿命で死ぬまでに後何人殺せるのかそんなことばかり考えて悲観しておった。折角の機会だ。楽しませてくれよ若いの」

「俺達もそんな年じゃない。こっちは老後の楽しみで人殺しをやるようなジジイと違って暇じゃないんだよ!」

「ハイデル君、左だ! 迷惑なご老人はここらで退場してもらおうじゃないか!」


 ハイデルとミゲル、2人は絶妙なコンビネーションでシャックウを攻め立てる。しかし、シャックウは下卑た笑みを浮かべながら、四方からの攻撃をまるで見えているかのように鮮やかに対処していく。


「こんなものでは当主様の出番はなさそうかのう」

「まだ見限るには早いんじゃないかい? 【臘月】」


 シャックウが繰り出した一撃をミゲルが姿勢を極限まで低くして回避する。そのまま上半身を捻り思い切り剣を振りぬいた。シャックウの手にしていた短刀がへし折れる。


「ほう?」

「関心している場合か! 【暁闇】」


 ハイデルはミゲルに呼応するようにシャックウの背後に回り込み、思い切り剣を振り下ろす。上下からの最速の一撃。どちから一方でも防ごうと受け止めれば、その隙にもう一方が致命傷を与える。長年歩んできたコンビだからこその洗練された一撃。


「なるほど、面白いではないか!」


 シャックウは即座に別の短刀を取り出すと、全力でミゲルの身体を蹴り飛ばした。


「がぁぁっ!?」

「ミゲル!?」


「お主達は2人で1人というのか。愉快な戦いをする。ならばどちらか1人をさっさと殺してしまえば、他に打つ手はあるのかな?」


 シャックウは泰然自若としたまま酷薄な笑みを顔に張り付けている。


「クソ! 御使いの野郎、本当に勝てるんだろうな!?」

「……ハァハァ。おかしいな。今の方が強いはずなんだけど。それでも及ばないってことは、もっとご老人は強いってことかい? これはもうクレイス君が帰ってくるまで時間稼ぎでもしようか」

「あの野郎、このままだとこっちの方がジリ貧になるぞ――って、危ねぇ!?」


 スルリと懐に飛び込まれる。静謐な一撃。予備動作だけではない、呼吸や動悸さえもまるで消してしまったのような静寂の境地から放たれる自然な死の到来。


「ハイデル君!? 困ったなぁ。【剣神】じゃなきゃ死んでたねこれは。クレイス君の言う通りなら勝てるはずだけど、何か思いつかない?」

「少しだけ時間を稼げ」

「それ駄目な奴じゃん。俺死んじゃうやつじゃん」

「死なせねぇよ馬鹿」

「全く、労災は下りないんだから、本当に少しだけにしてくれよ」


 遠方からグリッドやハイデル、ミゲル達の様子を無力感に苛まれながらマリアは見ていた。強化された視力は各々の動きを捉えて離さない。戦況は膠着している。しかし些細なことで傾くことになりそうだ。それがどちらに味方するかは分からないが。


 マリアは温存されていた。オーランドの相手をクレイスが指示したこともそうだが、【聖女】の力が使えるのもマリアだけだった。負傷した者達の回復は帯同している神官達やポーションでも出来るが、致命傷を癒す事は、この場にいる者ではマリアにしか出来ない。迂闊に動けない状況だった。


 マリアは憤りを感じていた。クレイスならこんな風に誰かを危険に合わせるような事などせずとも一人で解決出来ているはずだ。圧倒して一瞬で終わっているだろう。それを労力とさえ思わないかもしれない。あの男の力は人間とは隔絶している。にも関わらず何故自分達がこのような真似をしなければならないのか。もう全部クレイスが1人でやればいい。


 それが何処が理不尽な怒りであることをマリアも理解しているが、目の前の現実が焦燥感を募らせていく。


「どうして私が【剣神】オーランドの相手なんて……」


 誰も傷つかないようにと祈りながら、その呟きは闇の中へと溶けていった。

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