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もう全部俺一人でいいんじゃないか? ~人々にギフトを与える能力に目覚めた俺は、仲間を集めて魔王を倒すのが使命らしいけど、そんなことはどうでもいいので裏切った奴等に復讐していく~  作者: 御堂ユラギ
第六章 殲滅のウインスランド~だが俺も当事者だった~

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第43話 剣神談義

「【剣神】マリア・シエン。フフ、面白いではないか……」


 オーランドは歓喜の笑みを浮かべていた。これぞ待ち望んでいた展開だ。更なる力を求めた理由とはなんだったのか。並び立つ者さえいない孤独の果てに、それでもより強大な力を求めたのは、無様に勝てぬと分かっていても抗う者達と対峙する為だった。


「クレイスがまさかあのようにことになっているとは……」

「あの出来損ないにも相応の価値があったということだ」


 眼前にはリドラ・エンデバーの首が無造作に転がっていた。むざむざと殺された惨めな敗北者。だが、彼等には次は自分がこうなるという不安や心配など一切ない。あるのは闘争本能。相手を殺したい、蹂躙したいという渇望だけだった。力を望まぬ愚か者達を殺害し、帝国に背を向け、皇帝を殺害したことなど最早どうでも良かった。次なる敵、次なる相手。自らの渇きを癒してくれる餌。それだけを彼らは求めていた。


「【剣神】の境地に至ったは良いが、剣を振る相手もいないのではな」

「いやはや全く。しかし、奴等がご当主の前まで辿り着けるとは到底思えんがのう」


 しわがれた声が響いた。しかしその老人が決して見掛け通りではないことをこの場の誰もが知っている。殺人鬼シャックウ・フロイド。大量殺人の犯人として大陸全土に指名手配されていたその男はいつしかカラマリスに流れ着いた。男は驚愕しむせび泣いた。これまで自らを最強だと思っていたその男は、島内の誰にも勝てなかった。己の無力を知り、しかし強さにはまだ先があると知り、その男はのめり込んだ。


 あれから幾星霜。数十年の研鑽、加齢と共に低下していく肉体のパフォーマンスに合わせて最適化し続けて来た殺人術。しかし、それを試す相手がいない。絶望に打ちひしがれていたが、あるとき、ひょんなことから光が差し込む。男は二つ返事でその言葉に頷いた。そして受け入れた力により、今のシャックウ・フロイドの肉体は全盛期を遥かに上回るパフォーマンスを有していた。


「ニギよ、まさかやられたまま終わるわけではあるまいな?」

「当然ですよシャックウ老。堂々と対立を宣言したんだ。むしろ、やり易くなったくらいです」


 クレイスの顔が恐怖に歪むの想像すると興奮が止まらない。無力さに打ち震えていた当時のクレイスを思い出す。リドラやニギにとってはストレス解消の道具でしかなかった。クレイスという男にはその程度の価値しかない。少し強くなった程度で調子づいているのを見ると笑いが止まらない。依然としてニギはその程度の認識しか持っていなかった。


「【剣神】の剣がどれほどのものか。まさか【剣神】と相まみえる日が来るとはな……」


 現代に蘇った【剣神】。しかしオーランドは不満を抱いていた。自らが【剣神】に至った今だからこそ、その力を知りたかった。その強さは如何ほどのものなのか、伝説に謳われるその剣。最高峰の極致へと辿り着いた力。身を以て体験しなければ意味がない。気づけば、それは強い憧憬となり、まるで子供の頃に戻ったかのように際限なく期待が膨らんでいくのを自覚する。


「簡単に死んでくれるなよ。【剣神】マリア・シエン」


 自らの勝利を露ほども疑わず、ウインスランドの者達は心地良い殺人衝動に身を委ねる。息苦しくなるような殺気が空間に充満していく中で彼らは愉快そうに笑っていた。



 だが、彼らは何も知らない。自分達の下に200人もの【剣神】が向かっていることなど。【剣神】などその程度の価値しかないことを、そんなことは誰一人知らないのだった。




◇◇◇




「私の顔……これが? ありえない! こんな貌私じゃない! ああああああああああああああああ!」


 マーリー・クリエールは鏡を叩き割った。これで何枚目だろうか。朝起きれば全てが元に戻っているのではないかと淡い期待を抱き、そしてその期待は脆くも崩れ去る。鏡に映った醜い相貌。それが自分であることなど信じられない、信じたくもない。鏡を割った拳には傷一つ付かず、黒ずんだ腕はとても人間のものではなかった。


 本人達は気づいていないが、ギフトを書き換えた際に行われた核の注入によって、身体に著しい影響が出ている者も多く現れていた。そしてそれはより女性に大きく作用した。副作用によってホルモンバランスに異常をきたし、その結果、かつての美貌は失われ、マーリー・クリエールは全く別人とでも言うべき姿に変貌していた。硬質化する肌、喉は潰れしゃがれた醜い声、自慢の髪は抜け落ちボロボロとなっている。


 オーランド達はそれらの異変など気にもしない程に力に憑りつかれている。妄執に支配されている彼等にとってはこの程度の異常など取るに足らない犠牲としか考えていないだろう。しかし、女性であるマーリー・クリエールにとっては、それは許し難いものだった。


 マーリー・クリエールは生きる為にそう選択せざるを得なかっただけだ。相手もいないのにこれ以上の力を求めて何になるのか、本能が増幅され殺人衝動に駆られる今になっても、頭のどこかでその不毛さに疑念を抱き続けている。


 マーリー・クリエールは必死になって探していた。この地獄から抜け出す方法を。その為ならば得た力など捨て去っても良かった。そもそも最初から望んですらいなかった。ましてやこんなことになってしまうなら――――


「ぐぅぅ! はぁはぁ……クソクソクソ!」


 増幅された理性と本能がせめぎ合う。力など捨て去りたい、力を振るって他者を蹂躙したい。どちらも等しく自分だった。その相反する感情は確実に心を蝕んでいた。


 しかし、マーリー・クリエールは比較的強く理性を残していた。


 その為、彼女は一つの可能性を見つけ出す。あの男なら何とか出来るのではないかと。外になど一切目を向けなくなったウインスランドの者達が見逃していた、あの男。


 だが、その男の力を借りることなど出来はしない。出来るはずもなかった。今更頭を下げたところでその男が許すだろうか。自分に力を貸してくれるだろうか。ありえない。そんな都合の良いことなど起きはしない。あの日、最後に見たその男の目に宿っていたのは失望と諦観。そしてそんな目を向けるその男を自分は嘲笑ったのだ。


 かつて自らが嘲笑し裏切り傷つけた元婚約者。


「クレイス・ウインスランド、貴方を裏切らなければ私は……!」


 ドス黒く広がっていく本能に理性が支配されようとしていた。もう時間は残されていない。しかし、あの男に縋るしか自分に出来る事はない。ヨロヨロとマーリー・クリエールは動き出す。僅かな可能性を求めて。あの男の下へと。

書籍化が決まり、改稿作業などで更新ペースがゆっくりになります。ご了承ください

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