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もう全部俺一人でいいんじゃないか? ~人々にギフトを与える能力に目覚めた俺は、仲間を集めて魔王を倒すのが使命らしいけど、そんなことはどうでもいいので裏切った奴等に復讐していく~  作者: 御堂ユラギ
第六章 殲滅のウインスランド~だが俺も当事者だった~

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第42話 剣神会議

「これどういうことマリアちゃん? 君いつの間に【剣神】になってたの?」

「まさか本当にマリアの双肩に帝国の未来が掛かっていたとは……言ってみるもんだな」


 中央ギルド本部ウインスランド対策室には重苦しい気配が漂っていた。とはいえ、ハイデルは呆れた表情を浮かべ、直属の上司であるミゲルは半笑いである。ぐったりしながらマリアは恨みがましい目を向ける。


「知りませんよ。あの人の考えることなんて理解不能です」


 【剣神】オーランドに対抗すべく、【剣神】マリアが名乗りを上げたという話は瞬く間に市中に出回っていた。無論その多くがマリアがただの事務職員であることなど知る由もない。


「ハイデル君、これは功を譲られたとみるべきかな?」

「間違いないだろうな。御使いと言えばほんの少し前にも王国で大暴れしていたばかりだ。それで今回の件まで奴が治めるようなことになれば、王国と帝国。2つの国家の上に立つ個人。そんなもん誰も逆らえやしねぇよ。奴もそれを分かっているとみえる」

「それでわざわざマリアちゃんを前面に立てたって? アハハ! 随分と面白い男じゃないか」

「冒険者ギルドに花を持たせてくれるらしい。有難い話だが情けなくもあるな」

「いやいやいや笑いごとじゃないですから! あの人絶対そんな大したこと考えてませんよ! 明らかに私で遊んでいるだけです!」


 大仰に否定するマリアを珍しそうにハイデルとミゲルが見ていた。その視線に居心地の悪さを感じて、マリアはたじろいでしまう。


「な、なんですか……?」

「マリアちゃんってさ、普段いつも冷静沈着って感じだったけど随分変わったね」

「お前、そんな感情豊かなタイプだったか?」

「これが冷静でいられますか! そんな微笑ましそうな表情で見るの止めてもらえます!?」

「やっぱりマリアちゃんをクレイス君に付けたのは正解だったか」

「これが若さってやつか。いいねー青春」

「はぁ!? もとは貴方達の所為でしょう! こんなことになってるんだから特別手当くらい出してくださいよ!」

「クレイス君に可愛がってもらいなさい」

「冒険者ギルドとかいうブラック企業め! 滅びろ!」


 ともあれ、ウインスランド対策室の空気も以前までとは大きく変わっていた。先の見えない泥沼に嵌っていた頃と違い、事態解決の兆しが見えた事で幾分雰囲気も和らいでいる。


「それにしてもクレイス君は集められるだけ人を集めろなんて言ってたけど、いったい何を考えているんだろう。敵はグリッド君やジョン君を圧倒するような相手なんだろう? 正直荷が重いよ」

「さぁな。だが、解決出来るのは奴しかいない。言う事を聞くしかないだろうよ。俺達も前に出て指揮をしろなんて言ってたが……って、そろそろ時間か。いくぞお前等」

「すみません、嫌な予感が治まらないのでこのまま早退して良いですか?」

「マリア、お前がこないと話にならんだろうが」

「嫌です! あの人絶対またなんかやらせるつもりだし、だいたいなんで私が【剣神】!?」

「そういいながら、しっかり動きやすい服装に着替えている辺り、マリアちゃんもなかなか乙女じゃないか。でもジャージはないんじゃない?」

「うるせー馬鹿!」

「これがあのマリアだとは……マジでいったい何があったんだお前に……」


 ずるずるとハイデルに引きずられながら、ウインスランド対策室のメンバーは広場に向かって歩き出した。




◇◇◇




「どうやら全員集まったようだな」


 一段高い台に乗り、クレイスは全体を見渡す。拡声魔石によって増幅された音声は最後列にまで届いている。広場には200人程度が集まっていた。ランク問わず招集された冒険者の他に壊滅した騎士団の生き残りなど多彩な顔触れとなっている。帝国の一大事に、魔道院からも多数の術者が参加していた。


 と、クレイスのもとにグリッドなど数人が近づいてくる。


「しかし、クレイス。どうするつもりだ? 俺達でも厳しかった相手だ。新人の冒険者や経験がない者では足手まといにしかならないだろう」

「あいつらめっちゃ強かったニャー。それにまだ大物も出てきてないのニャ」

「正直、もう相手にしたくないわ」

「クレイス殿、我ら騎士団が成す術もなく敗れた相手です。数を集めたところで対抗出来るとは思えません。何か策が――」


 不安げな表情の一同を見回しクレイスは軽薄な笑みを浮かべる。


「落ち着け。俺達にはマリアがいるじゃないか。心配無用だ」

「クレイスゥゥゥゥゥゥさぁぁぁぁぁん!?」


 顔面を引き攣らせたマリアに胸倉を捕まれブンブン振り回されるが些細なことだった。


「これだけ数がいればどうということはない。調べた限り相手は50人くらいだからな」

「ダーリン、あのレベルの相手が50人もいるというのは骨が折れるのではありませんか?」

「何を言ってるんだ。こっちは4倍だぞ4倍。負けるはずがない」

「しかし、クレイス君。個々の戦力はこちらが大きく劣る。どうするんだい?」

「こうするんだよ」



「    【Grant】    」



 クレイスがあっさり唱えたそれは、しかし恐るべきものだった。


「おめでとう! これで今日から君達全員【剣神】だ」

「は?」

「ステータスボードを確認してみろ」


 冒険者にとってステータスボードは何百何千回と確認するものである。数字の上限に一喜一憂し、加護やギフト、特性など見飽きる程に見てきたものでもある。だが、改めて確認するそれは見慣れたものから一変していた。


「こ、これは……クレイス……お前これ……こ、こんなことやって……許されるのか!?」

「なに期間限定だ。ざっと100時間程度だから気にするな」


 広場のあちこちで絶句し、悲鳴とも似つかぬ絶叫が上がっていた。


「いいか、うっかり力を試してみようとか思うなよ。迂闊な行動で大惨事になるからな。壁とか軽く殴っただけで施設が倒壊するからやらないように」

「御使い。100時間ってことは4日間もあれば十分ってことか?」

「当然だ。そんなに時間を掛けるような相手じゃない。オーランドは【剣神】とか名乗っているみたいだが見ろ。【剣神】なんてそこら辺に幾らでもいるだろ。臆するような相手か?」

「それは……そうだが……しかし、これで勝てるのか?」

「オーランドの相手はマリアが務める。これで万事解決だ」

「何が解決なんですか!? それの何処が解決なんですか!? なんで私がそんな敵のボスと戦うみたいな話しになってるんですか!?」


 マリアにギュウギュウと首を絞められるが、ギフトによって強化されている肉体には何の影響もない。


「ハイデル、ミゲル、それとグリッド君。部隊の指揮は任せた。編成なんて気にしなくても特に問題にはならないだろうが、そこら辺の詳細を詰めたら強襲だ。そして、この部隊を率いるのはマリア、君だ」

「はぁ!? クレイスさん貴方ちょっといい加減にしてくれます?」

「いやだがしかし御使い、マリアにオーランドの相手が務まるのか? 相手はあのウインスランドの当主なんだろう?」

「おい、てめぇ。うちのマリアの実力を疑うってのか?」

「クレイス君、マリアちゃんはうちのなんだが……」

「あれ? 私の取り合いが起きてる?」

「聞き捨てなりませんわね!」


 何故かミロロロロロまで参戦して揉めているが、それを無視してクレイスはマリアに指示を出す。


「マリア、お前の実力を見せてやれ。手を前に出して『召喚』と言ってみろ」

「こ、こうですか? ……『召喚』!」


 すると、突然辺りが暗くなる。正午前、空には太陽が敢然と輝いていた。にも関わらずその光を何かが遮り、歪めていた。闇によって屈折する太陽光。マリアの前に50メートル四方の巨大な魔法陣が展開される。地鳴りのような地響きと共に、途方もない巨躯、ずぶりと、ゆっくり、だが確実にソレは魔法陣から現れた。


「ふむ、バハムートか。まぁまぁだな」

「ク、クレイスさん!? なんかヤバそうなのが出てきてますけど、どどどするんですかこれ!?」

 

 召喚によって現れたのは幻獣バハムートだった。鳴り響く高周波音。バハムートが甲高い咆哮を上げると同時に光熱波が空間を引き裂いた。凄まじい衝撃が周囲を襲う。その振動に立っていられた者はごく一部しかいない。吐き出された光熱波は地面を融解させ、そのまま遠方の山脈を消し飛ばした。


「よし、もう帰って良いぞ」

「キュウ」


 禍々しき姿に似合わない声を上げ、バハムートは魔法陣の中にすごすご戻っていく。


「どうだ。これがマリアの実力だ。文句ないだろ」

「何させてくれてるんですか! 違いますからね!? 私はただの事務職員でこんなこと出来ませんからね!? お茶汲みが仕事ですから!」

「マリアちゃん……君って……」

「マリア、エクラリウス帝国の未来は任せたぞ」

「なにその諦めたような眼!? そんな大切そうなことを私に振らないでください!」


 仲の良いギルド職員達を生暖かい目で見ていると、ミロロロロロが話しかけてくる。


「そういえばダーリン、前回接触したウインスランドの者達。微かですが魔族の気配がしました」

「なに?」

「私も若干ですが、そのように感じました。もしかすると彼等は何か魔族と繋がりがあるのかもしれません。もしくは彼等そのものが――」


 ミロロロロロにトトリートも同調を見せる。


「なんだアイツ等は魔族に魂を売って、こんな凶行に及んだのか?」

「詳しくは分かりませんが、何らかの事情があるのは間違いないかと」

「なるほどな。決まりだ。アイツ等に任せて俺達はそっちを探ろう」

「わかりましたわ!」

「トトリートもすまないが、もう少しだけ付き合ってくれ。さっさと片付けたら姉に会いに行こう」

「ありがとうございます! どのみち頼れるのはクレイス様しかおりません。気になさらないでください」


 会話を続けながら、クレイスは関心を引き戻す。


(魔族と繋がり? オーランドが【剣神】になっている事といい何があった? ……それに母さんは無事なのか?)


 とはいえ、考えたところで答えが出るわけでもない。直接問いただす必要があるだろう。その背景も探らねばならない。降って湧いた【剣神】の力に意気軒高な200人の姿を見ながら、クレイスは深く沈潜していた。

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