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もう全部俺一人でいいんじゃないか? ~人々にギフトを与える能力に目覚めた俺は、仲間を集めて魔王を倒すのが使命らしいけど、そんなことはどうでもいいので裏切った奴等に復讐していく~  作者: 御堂ユラギ
第二章 革命の王国編~だが俺はどうでもよかった~

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第29話 無責任クソ野郎

「クレイス様、ミラからの伝言です。【王紋】を持つ王族5人を全員王宮に集めたと」


 緊張した面持ちのスレイン。その表情は強張っている。

 この国にとって、今日という一日がどういう日になるのかを考えればそれも仕方ないことだろう。


 だが、それはこの国に住まう者達が決めるべき選択だ。


「そろそろ帰っていいか?」

「ふふっ。もう少しだけお付き合いください」


 自らの緊張を解きほぐすように、少女はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。




◇◇◇




「折角だし、派手な方が良いだろ?」


 景気づけとばかりに、王宮の城壁を魔法で吹き飛ばす。

 加減したつもりだったが、想定外に大きな穴が開いてしまい、クレイスは若干反省していた。修理が大変そうだ。ごめんスレイン……。


 ついでに面白半分で付与していた【花火職人】のギフトで作った打ち上げ花火も上げておく。お祭り気分の賑やかしにはちょうどいいだろう。完全に傍観者目線のクレイスにとっては緊張感など欠片もない。


 突如として始まった大騒動に慌ただしくなる王宮内を突っ切り、スレインと共にそのまま一気に王族達の集まるフロアに踏み込んだ。


「なんだ、なにが起こっている!? それにお前は――!?」


「ふーん、アンタがポポロギンス? ……悪い顔してるね」


 誰も事態を呑み込めないまま喧騒が続く。

 収拾を図ろうと小太りのその男は渋面を作ると、周囲に指示を出すが、どうにも動きが鈍い。


「近衛兵を呼べ! このような所にまで不審者の侵入を許すなど、騎士団は何をやっている!」

「まったく、この国の兵士達はいつからこんなに無能ばかり集まるようになったんだい? 死罪にされたくなかったら早く対応を――」


 しかし、騎士団はその指示を聞いても積極的な動きを見せない。

 それどころか、まるで何かが起こることを知っているかのような――


 と、そこで王族達と並んでいたミラが対峙し声を荒らげる。


「王よ、この御方こそ【天の聖杯】クレイス様である。不敬な発言は控えなさい」

「父上、本日は一つ重要なお話をせねばなりませぬ」


 何か決定的な事態が起こりつつある、ポポロギンス達はようやくそれを察した。

 スレインも前に出るが、王の視線はクレイスから離れない。


「御使いだと!? お前はエクラリウスにいるはずでは――何故ダーストンにいる!?」

「ただの観光だ」


 いい加減な返答を返すと、目に見えてポポロギンスの顔色が憤怒に染まる。 


「まさかスレイン、君が連れてきたのか!? なにを企んでいる?」


 ポポロギンスだけではなく、ヒュリオットや他の王族達も動揺を隠せていない。


「クレイス様は父上の愚かな対応にお怒りです」


 一瞬にして真っ赤だったポポロギンスの顔色が悪くなる。


「儂はまだ何もしておらんぞ!」

「クレイス様に刺客を差し向けようななどと愚かな企みを持つからです!」


 ポポロギンスがサッと目を逸らすが、その沈黙が雄弁に物語っていた。


「内輪揉めはどうでもいい。それよりポポロギンスとかいったか。お前、俺の命を狙っているらしいな」

「き、貴様、その口の聞き方はなんだ!? 儂はこの国の国王ポポロギンス・ダーストンだぞ! 不敬罪で――がぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 面倒になったのでとりあえず殴り飛ばした。

 周りに集まっている他の王族、宰相、貴族など一様に顔面蒼白になっている。


「お前達の話を聞く気はない。俺が一方的に喋るだけだ」

「神託である。心して聞くがよい」


「さっさと用件だけ話すが、お前らが俺の命を狙うなんて馬鹿げたことをしたおかげで、俺はこんなところまで来るハメになった。ムカついたし巻き込んだ罰として、お前らが持つ【王紋】のギフトを剥奪する。これから王族としていられるかどうかはこれまでの行い次第だな。ま、頑張って」


 べらべらと通告するが、これといって別に反論を求めているわけではない。

 言葉通りそれはただ一方的な通告に過ぎなかった。


「何を言ってる貴様!? そのようなことが出来るわけ――」



「     【Deprive】     」



「な、何を――」

「これでこの場にいる全員の【王紋】を剥奪した。呆気ない最後だったな」


 まるでなんの感慨もなく、あまりにもあっさりとそれは達成された。

 この国を苦しめ続けてきた呪いの解除、それはいとも簡単に成された。


 慌ててポポロギンス達が左手首を確認するが、確かにそこにあるはずの【王紋】は消失していた。まるで何でもないことのように話すクレイスに憎悪を視線を向けるが、どうにもならない。


「ばばば、馬鹿な!? 貴様のギフトはギフトを授けるものではなかったのか!?」

「与えるだけだと逆に不便だろうが。お前達が俺にちょっかいを掛けてこなければ別にどうでもよかったんだが、これもお仕置きだと思ってくれ」

「頼む、それだけは止めてくれ! クレイス殿、儂が悪かった! 金なら幾らでも用意する! 女でも地位でも何でも差し出そう! 何でも言う事を聞く! だから【王紋】だけは、それを奪うことだけは止めてくれ!」

「ク、クレイス様、私は貴方こそが御使いだと信じておりました! 反抗的な態度を取ってしまい申し訳ありません! 我らにチャンスを、今一度チャンスを【王紋】をお授けください!」


「ダメだぞ♡」


 クレイスは可愛く告げてみる。ほんの冗談だったが、それはこの場においてあまりにも悪ふざけがすぎていた。遊び半分観光気分のクレイスと周囲の者達では温度差がありすぎる。


 先程までの高圧的な態度が嘘のように涙を流しながら懇願するポポロギンスやヒュリオット達を冷たい視線で見つめながら、ミラが最後通牒を投げつける。


「ポポロギンス国王、【王紋】が失われた今、貴方は果たして王なのか? 教会はクレイス様により【王紋】を剥奪されたような愚者をこの国の王とは認めない」


「いい加減なことを言うなエセ聖女め! 代々この国はダーストンが治めてきたのだ! 王不在で誰が舵を取るというのだ!」


 長らく続いてきた統治体制が覆されようとしている。ポポロギンスも、【王紋】の剥奪が何を意味するのか瞬時に理解していた。


「国民が決めれば良いではないですか! この国にはもう腐敗と堕落、災禍を招くだけのギフトが決めた絶対君主は要らぬのです!」


 高らかにスレインが理想を掲げる。

 ギフトが祀り上げる呪われた王。その呪縛から解き放たれ、ダーストンという国は未来へ踏み出すのだと、スレインは滔々と演説をふるう。


「なお、この模様は教会が所持する水晶の力を使い王国の24か所でライブビューイング中継が行われている。それも無料配信だ、太っ腹だろう。当然リアルタイム以外でも視聴可能な優れもので録画録音も自由ときている。あぁ、なに回線の負担を気にする必要はない。教会の自腹だからな」


 いつの間にそこまで準備を進めていたのか、あまりにも手際が良い。


「さて、今一度考えよポポロギンス国王。果たして国民は、貴方を再び王として選ぶだろうか?」


 淡々と告げるミラの口調には断罪の響きが込められていた。

 クレイスは良く知らないが、それほどまでにこの国の現状は酷かったのだろう。それが解放される日が来たのだ。良く知らないが。


 騎士団が依然として動きを見せない中、キキロロ達は王族達の拘束を始めていた。最初から入念に準備がしてあったのだろう。王族達はまるで人心の掌握が出来ておらず助ける者達もいない。どのみちクレイスが何かをしなくても、この国はいずれ限界に達して謀反が起こっていたと思わせるものがあった。


 ミラ達が求めていたのは文字通りラストピース、大義名分だけだったようだ。

 

 ここからはもう自分の出番ではない。

 そう判断したクレイスが帰ろうと踵を返すと、おもむろに笑声が飛び込んできた。


「カカカカ! まさか殺しに行く前にノコノコやって来るとは、御使いとやらは随分とせっかちだのう」

「夜叉! これまで何をしておったのだ!? 今すぐそいつを殺せ!」


 一転、強気になった情緒不安定なポポロギンスが叫ぶ。


「やれやれ、旦那もせっかちで困る」

「早くやれ! 王に楯突く反逆者を始末するのだ!」


 夜叉と呼ばれたその男は中肉中背、頭を丸めており、その風貌はまるで修行僧のように見えた。しかし、決して単なる修行僧ではないだろう。尋常ではない覇気を纏っている。


「なるほど、アンタが俺を殺そうとしていた奴か」

「カカカカ! 如何にも。某こそ【拳聖】の夜叉。いやはや、飛んで火にいるなんとやらというところか」

「それはお前じゃないか?」


 夜叉と呼ばれた男の視線が一段と鋭さを増す。


「某はこう見えても王国最強を授かっておる。幾ら御使いとて――」

「己惚れるなおっさん。どう見えようが勝手だが、お前が俺を殺しに来ていたら俺はお前を殺している。お前の人生、鍛錬、培ってきた全てを一瞬で無駄に散らすことは造作もない。が、わざわざ手を出す前に来てやったんだ。お前たちのゴタゴタに俺を巻き込もうとするな。この意味が分かるな?」

 

 あまりにも傲慢としか言えないクレイスの言葉に夜叉が微かに恐怖を滲ませる。

 夜叉の目の前に対峙する男、それはまさに超越者だった。


「カカカカ! なるほどなるほど。これは手厳しい。して御使い。どのようにここまで来た? 主はまだエクラリウスにいるはずではないか」

「『転移』を使った」

「ほう、そのような便利な力があるのか?」


 既視感のある問答に同じく既視感のある答えを返す。


「【禁忌魔法】だ」

「なんでもありではないか。主は恐ろしいな。やはりその力、某の及ぶところではないのか……?」

「賢くて助かる。ついでに言えば【拳聖】も量産品だぞ? 幾らでも付与出来るしな」

「自信をなくすのう……」


 しょんぼりと項垂れる夜叉だが、先程までと違いその身を纏う覇気は霧散している。完全に争う気がなくなったのだろう。


 完全無欠の説明である禁忌魔法はここでも有効だった。厳密には色々細かいところはあるのだが、説明が面倒くさいものは全て【禁忌魔法】といっておけばだいたいどうとでもなる。どうせクレイスしか使えないのだから説明も検証も必要ない。


「旦那、こいつは無理ですぜ。戦う事に躊躇はないが、勝つとか負けるとかそういう話じゃない。最初から勝てない相手に無駄に挑んで死ぬのは勘弁でさぁ」

「な、なにを言ってる夜叉!? お前はそれでも王国の戦士か!」

「某はこれからの王国に期待することにしましょう」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 あっさりと夜叉はポポロギンスを見限った。

 それでも王国に尽くそうという気概が残っている辺り、愛国心はあるのだろう。


「あとは勝手にそっちでやってくれる?」


 既に自分の出番は終わっている。好き放題に場を荒らすだけ荒らして、混沌の渦に叩き込んだらお役御免だ。スレインやミラ達の視線が何かを訴えかけているが、これ以上何かをするつもりもない。


「よし、帰るか」


 全てを投げっ放しにして、ひたすら無責任にそれだけ呟くと、クレイスは再び転移を使いダーストン王国を後にした。

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