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もう全部俺一人でいいんじゃないか? ~人々にギフトを与える能力に目覚めた俺は、仲間を集めて魔王を倒すのが使命らしいけど、そんなことはどうでもいいので裏切った奴等に復讐していく~  作者: 御堂ユラギ
第二章 革命の王国編~だが俺はどうでもよかった~

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第25話 憂国のダーストン王国

「馬鹿な!? その良く分からん小僧に儂が頭を下げろというのか!」


 ダーストン王国、14代目国王ポポロギンス・ダーストンは口角から泡を飛ばしながら目の前の少女を睨みつけた。が、その少女がただの少女ではないことは、この場にいる全員が知っている。


「小僧ではありません。クレイス様です。不敬な発言を続けるのであれば教会はこの国を支持しないとご理解ください」


 目の前の少女、【聖女】ミラ・サイトルパスは、ポポロギンスの剣幕に物怖じすることなく、冷然と言い放った。


「グッ……。しかし、そのような得体の知れぬ者をこの城に呼ぶなど……」

「学習能力がないのですかポポロギンス国王? 呼ぶのではなく貴方が出向くのです」


 身も蓋もない物言いにポポロギンスが激高する。


「ふざけるな! 御使いだかなんだか知らんが、そんなにご執心なら勝手にしろ!」

「陛下、お怒りをお静めください。【聖女】様も、此度のお話、誠に信じ難いものばかりでございます。少しばかりお時間を頂けないでしょうか?」

 

 宰相のフリッツが仲裁に入るが、ミラの結論は変わらない。

 といっても、ミラ個人の見解ではない。教会そのものの意向であり、ミラはそれを伝えているにすぎない。ポポロギンスやフリッツもそれを理解しているからこそ無下に出来ず、その提案に困惑するしかなかった。


「いずれにしても教会は既に恭順の意を示している。しかし、憶えておくがいい。その力は本物である。それがどういうことか分かるかポポロギンス国王?」

「なにが言いたい?」


 ギロリと眼光鋭く睨みつけるが、やはりミラはものともしない。


「【天の聖杯】はギフトを授けるギフト。さて、ポポロギンス国王、王家の正当性とは何なのか? 貴方は何故その地位に就くことが可能なのか考えたことはあるか?」

「我らダーストン王家は、代々【王紋】を受け継ぐ王の一族だ。それがなんだというのだ!」


 そこで初めて無表情だったミラが冷笑を浮かべる。


「ではポポロギンス国王、【王紋】とは何か?」

「初代ルクザール・ダーストンが授かったギフトである! この問答に何の意味が――!?」


 ようやくミラの言いたいことに気づいたポポロギンスの顔が真っ青になった。


「そう、【王紋】。つまりそれもギフトだポポロギンス国王。クレイス様を怒らせればどうなるのか、理解出来ない程に愚かでもないだろう」


 ポポロギンスは戦慄する。

 それは存在してはいけない可能性だった。


 このダーストン王国を根底から覆さんとする悪意。


「まさか、そんなことが出来るわけが――!?」

「ないと言えるのか? クレイス様の怒りを買い、ダーストン王家がこの国を統治する資格がないと判断されれば、王家以外の者に【王紋】を授けるかもしれない。そうなればダーストン王家の正当性は失われ崩壊する」


 ミラは玉座で唖然としているポポロギンスと、その周囲を囲む者達を睥睨しながら言葉を重ねる。


「今一度よく考えることだポポロギンス国王。もしクレイス様が新たな王を選定した場合、教会はその者を正当な統治者と認定するだろう。そしてそれに反対するなら、ダーストン王家こそが背教者となることを憶えておくがいい」


 そう言い残し、広間を出ていくミラの背中を忌々しく睨みつけながら、ポポロギンスは玉座に深く腰を落とした。


「……フリッツ、今の話、信憑性があるものだと思うか?」

「分かりませぬ。しかし、【天の聖杯】のギフトを持つ者が存在することは確認されております。それがもし本当に教会の言うような力を持っているのであれば或いは……」

「ありえぬ! そのようなことがあっていいはずがない!」


 ポポロギンスがこのように恐れるのには理由がある。

 ダーストンは国土の2割を砂漠が占める乾燥した痩せた大地だ。当然、農耕には適していない。その為、食糧難に陥りがちな傾向があり、他国から食料や家畜の飼育に必要な穀物を輸入している。それら必要物資の輸入額は国庫を大きく圧迫していた。


 それにより税金の引き上げが進み、庶民の生活は決して楽ではない。そうした状況にも関わらず、旧来的な一次産業重視の経済構造を続けてきたことで、その国力は著しく疲弊していた。帝国と王国、2大国家と呼ばれる両者だが、地理的条件の優位さでは帝国には遥かに及ばない。


 一方、ダーストン王家は、王族のみが継承する【王紋】によってその地位を絶対的なものとしている。故に支配階級という特権を脅かされることがないダーストンの王族は、おしなべて放漫、浪費傾向にあり、典型的な王族による国民への搾取構造が構築されていた。


 これまでなんとか国民の不平不満を抑圧し続けてきたが、新たに【王紋】を授かった者によってダーストン王家の正当性が揺らげば、国民はそれを歓迎するだろう。


「そのようなことは許されぬ……ダーストンは我が王家が支配する国……よそ者によって統治されるなど認められるものか!」

「では、いかがなさいますポポロギンス様?」

「芽は摘んでおかねばならぬ。『夜叉』を呼べ」

「――――!? では……?」


 酷薄な笑みを浮かべるポポロギンス。


「そのようなイレギュラーなど、この世界には必要はない」


 ポポロギンスは知らない。

 それが崩壊への序章であることを――




◇◇◇




「愚かな男だ。……急ぎなさいスレイン」


 計画はもう始まっている。

 今更ポポロギンスが事の重大性に気づいても遅い。


 後は、【天の聖杯】の協力が得られるかどうかに懸かっている。

 スレインは上手くやるだろうか、やらなければこの国は近く亡ぶだろう。

 

 ミラは、親友の姿を思い浮べながら、胸中で密かに祈りを捧げた。

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