第18話 ミロロロロロ・イスラフィール
「む、誰ですの? 私の名前はミロロロロロ・イスラフィールです。次に名前を間違えたら、ぶっ殺しますわよ!」
一瞬、不機嫌な表情になったミロロロロロだが、すぐに満面の笑みに戻る。
剣呑な言葉とは裏腹に、その笑みは、少女のようにも大人の女性のようにも見え、温かな慈愛に満ちていた。
ローレンスが眼前の聖女について知っていることは少ない。
【聖女】というギフトを授かっていること、まだ成人していないこと、概ねその程度の情報しか持っていない。一方、わざわざこのような場所までやってきた聖女が、こちらについて何の情報も持たずにやってきたとも思えなかった。
「こほん。こちらのギルドにクレイス様がいると聞いております。今すぐにお会いしたいのです。どちらにおられるのでしょうか?」
(またクレイスか……!)
内心でローレンスは毒づく。怒涛のように、あまりにも事態が重なりすぎてキャパシティをオーバーしているが対応しないわけにはいかない。ましてや相手は、あの聖女である。
渋面のまま、ローレンスが前に出る。
「私はこのブランデンのギルドマスター、ローレンスです。聖女様、本日はクレイスにどのようなご用件でしょうか?」
「それはクレイス様に直接お話し致しますわ。大至急取り次いで頂きたいのです」
ギルド内の誰もが困惑の色を隠せなかった。
クレイスなら今さっき、敵対宣言をして出ていったばかりだなどと言い出せるような相手ではなかった。ミロロロロロ本人こそニコニコと笑顔を浮かべているが、後ろに控えている帝国騎士達の表情は一様に厳しく、張り詰めた緊張感が漂っている。
「あの……クレイスは……今はいないのです」
そして、嘘が通じる相手でもない。
「どうしてかしら? 依頼でも受けられていますの? でしたら、その依頼はただちに別の者に引き継いでください。必要経費は全て教会がお支払いします」
「な!?」
教会とは、聖アントアルーダ教会のことを指し、女神ミトラスを信仰する宗教である。聖アントアルーダ教が国教となっているのは、ギフトがミトラスの加護であるからであり、およそギフトの恩恵を受ける人間種族にとって、ミトラスの加護とは、この世界における明確な神の実存性そのものだった。
神は存在している。
決して存在しないはずの架空の象徴ではなく、確かに神はそこにいる。その証明こそがギフトであり、ときに【聖女】にもたらされる神託だった。
大陸には主流の4つの宗派があるが、いずれにしてもそれら全てがミトラスを女神とする聖アントアルーダ教の分派にすぎず、細かな差異はあれど対立しているわけではない。
宗教指導者として、その教会のトップに君臨しているのが【聖女】のギフトを授かる3人の女性達。
ミロロロロロ・イスラフィール
ミラ・サイトルパス
ドリルディア・ドライセン
眼前で微笑みを浮かべているミロロロロロ・イスラフィールこそ、教会のトップその人だった。
その聖アントアルーダ教会が、依頼の代行を指示してまでクレイスとの面会を求めるというのは尋常な事態ではないことを物語っていた。
「いやしかし……クレイスはクエストに行っているわけでは……」
「ハッキリしませんわね。何か不都合でもおありなのですか?」
と、ここでミロロロロロは、ようやくギルド内の澱んだ空気に気づいた。そしてそれは、何かクレイスに関係があることなのではないかと、直感を働かせる。
表情を引き締めると、ミロロロロロは声を上げた。
「全員このギルドから出ることを許しません! クレイス様について何があったのか正直に話しなさい。もし、この場で嘘を吐いた者は私の権限で罰します!」
馬鹿な!? 正気なのかこの女!?
信じられないものを見るような視線がミロロロロロに向けられる。
気が狂っているのだろうか?
しかし、ミロロロロロの瞳には理性の光が灯っている。
その目は本気だった。【聖女】はその権力も絶大である。
もし誰かが嘘を吐けば躊躇なく罪に問うだろう。
大陸で3人しかいない【聖女】は本来、国が厳重に囲っている。
国家同士の重要な会談に同行するなど、外交上にも極めて重要な存在である。
ミロロロロロの後ろに帝国騎士が10名以上も護衛として付いていることから考えても、この訪問がミロロロロロの単独行動ではなく、教会が承認し、その意思を反映した国事行為であることに疑いはない。
何故ならば通常【聖女】の行動は厳しく制限されており、このようなところにフラッと現れるはずのない人物だからだ。
ローレンスは、大きく息を吐きだすと、何があったのかを語り始めた。
最近登録したばかりなので、なろうの仕様をあまり理解していないのですが、星?ポイント?等、入れてくださっている方、ありがとうございます。レイアウトや各種設定など色々とご迷惑ご不便をお掛けしているかもしれません。




