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第13話 あっけない真実、取り返しのつかない結末

「そんな! タイラントウルフの群れが!?」


 ギルドに帰ってきたロンド達は調査結果を報告していた。

 事態はかなり深刻であり、ギルド内は大騒動になっている。


 ギルド職員達だけではなく、他のハンター達も固唾を飲んでその報告を聞いていた。

 緊急事態であり、いずれ近いうちにハンター達にも招集が掛かるのは明らかな事態だからだ。


 急いで討伐隊を編成しなければ、甚大な被害を及ぼす結果になる。


「今すぐ、他のギルドにも応援要請を出して。それとアンドラ大森林の詳細な地図と手の空いているハンターに連絡をお願い! 騎士団にも急いで報告を――」

「は、はい!」


 テキパキと部下に指示を出していくマイナを尻目に、ギルドマスターのローレンスが重い口を開いた。


「それで、クレイスは攻撃を受けて動けない自分を囮にして、君達を逃がしたというのか?」

「脚を怪我して逃げられないと悟ったんだろう。自分が囮になるから逃げろと俺の背中を押したんです。アイツは良いヤツだったのに! クソ!」


 ロンド渾身の演技だった。

 ことここにくると、現れた魔物がタイラントウルフであることが功を奏した。


 フォレストウルフであれば、クレイスを連れて逃げ切れたのでないかという疑念を持たれる恐れもあるかもしれないが、討伐ランクAのタイラントウルフの群れならばそうはいかない。


 大規模な討伐隊を組んだとしても犠牲を出さずにはいられない相手だからだ。

 内心でロンドはほくそ笑んだ。


「生き残ったのが君たちだったのが不幸中の幸いということか」

「……どういう……こと?」

 

 虚ろな目をしたヒノカが呟く。


「クレイスのことは私だって無念に思っているよ。だが、君たちは選ばれしギフトの持ち主だということを分かって欲しい。クレイスとは違うんだ」

「クレイスは立派だったんです。アイツは俺達を生かすために……!」

「分かった。今日はもう遅い。ゆっくり休んでくれ。とりあえず詳しい報告や対策は明日から本格的に始めよう」


 生気を失った目で座り込んでいるヒノカに指示が一段落したマイナが声を掛ける。


「残念でしたね、クレイスさん」

「…………」


 ヒノカの憔悴は深刻だった。

 その姿をマイナは放っておけず、優しく声を掛ける。


「折角、クレイスさんと想いが通じ合ったばかりだったのに……。こんな結末、酷すぎませんか」

「……なに……を……言っている……の?」


 初めてヒノカが反応らしい反応を返す。

 まるで知らないという反応に疑問を抱きつつ、マイナは続ける。


「あの……ヒノカさん。クレイスさんから受け取りませんでしたか? クレイスさんは貴方に渡すために黒蘭宝珠を取りに行っていたんです」


 ヒノカの目が見開かれた。


「ニウラさんはザックラブ出身で、それを知ったクレイスさんはニウラさんに頼んで同行してもらったんです。帰ってきたクレイスさんは、貴方の誕生日に渡すと仰っていたのですが……」


 それは、聞いてはならない真実だった。

 いや、聞くべきではなかった。急いで耳を塞ぐべきだった。


 おかしいと思っていた。クレイスは浮気なんてするはずがない。

 そもそもクレイスはあんな大通りで誰かと抱き合うような性格ではなかった。


 ショックで頭の中が真っ白になっていたが、ひとたび思い出してしまえば、違和感がある。クレイスはニウラと抱き合っていたように見えたが、それは単にニウラを支えていただけのような気もしなくはない。


 それはその程度のことにすぎない、すぐにでも解けるはずの些細な勘違い。

 

 それなのに――


 そんなことにも気づかない程、ヒノカはその光景から目を背け続けていた。

 クレイスの方を見ようとしなかった。


 もう取り返しがつかない。


 ありえない幻想に怯え、現実逃避をしていた結果がクレイスの死だとすれば、それはあまりにも残酷すぎる結末だった。


 その様子に気づいたのか、ロンドが近寄ってくる。


「マイナ、ヒノカはクレイスのことでショックを受けてるんだ。余計なことを言うな!」

「そ、そうでしたね! ごめんなさいヒノカさん」


 慌ててマイナが謝罪する。


「ヒノカ、クレイスは良いヤツだった。だが、お前を裏切っていたんだ。いい加減前を向け。お前には俺がいる。俺がヒノカを慰めてやる」


 ロンドがヒノカの肩を抱こうと手を伸ばした。

 下卑た笑みが浮かんでいることを、ロンド以外誰も知らない。

 

 ――その瞬間、ロンドの顔面にヒノカの拳が突き刺さっていた。


「ぶげっ!」


 醜い声を挙げてロンドが吹き飛んだ。

 何事かと、ギルド中の視線がヒノカに集まる。


 それにも構わず、ヒノカは叫んだ。


「クレイスは最初から何も裏切ってなかった! なのに裏切ったのは私で……ただ恐くてクレイスを拒絶して……クレイスを守る為の剣でクレイスを傷つけた! それでクレイスを見捨て……いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」


 半狂乱に泣き叫ぶ。


「ロンド、お前は許さない! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス! 殺してやる! 今すぐにお前を殺して私も死ぬ!」

 

 剣聖ヒノカの殺意がギルドを支配する。

 呼吸さえも困難になるほど濃厚に満ちる死の匂い。

 

「ひぃ! や、止めろヒノカ……落ち着け!」

「ヒノカさん駄目です! ギルド内で殺傷沙汰を起こせば冒険者資格も剥奪になります!」

「そんなものがなんだっていうの!? クレイスはもういないのよ! そんな世界に意味なんてない!」

「ヒノカさん駄目です! クレイスさんの遺志を無駄にしては駄目なんです!」


 マイナが泣きながら叫んだ。

 ギルド内は修羅場と化していた。


 ロンドの表情が幽鬼でも見たような驚愕に染まる。

 ヒノカの剣幕に怯えていたロンドだったが、いつしか視線はヒノカから外れていた。

 ロンドが見ていたのは、ギルドの入り口だった。






「――誰の遺志がなんだって?」






 そこにいたのはクレイスだった。

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