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未亡人魔王ボンキュボンの城  作者: 仲山凜太郎
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【第30話 お母さんと呼ばれたい】

 魔王城中庭。魔王ボンキュボンが軽く突き出した手のひらから生じた衝撃波を受け、勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者オカマの勇者パーティがまとめて吹っ飛び外壁にたたきつけられた。

 そのまま5人はそろって痙攣、白目をむいて気絶する。

 白衣をまとい、赤十字マークの入ったナースキャップをつけた医療班の野菜人や果実人達が勇者達の様子を調べ、両手ででっかく✕印を作る。

「ドクターストップです」

 医療班に担架で運ばれる勇者達を見て、ボンキュボンは苦虫をかみつぶしたように顔をしかめる。

「この程度の衝撃波なら堪えきれると思ったのだがな。まったく、いつになったら本気モードで戦えるのか」

「この程度って?」

 答えるかわりにボンキュボンが夕暮れの空に向かって先ほどと同じ衝撃波を放つ。上空に浮かんでいた入道雲が爆発するように四散した。

 それを見た医療班達が静かに視線を勇者達に下ろす。

「……アレを食らって死なないだけでもすごいよね」

「初期の頃の勇者さん達なら即死」

 皆がうなずき合う。少なくとも勇者達がレベルアップしているのは確からしい。


 夜。魔王城医務室のベッドで横になっている勇者たちを、ボンキュボンは静かに見下ろしていた。一同は意識を取り戻したものの帰りの乗合馬車には間に合わず、ダメージも抜けきれないことからそのまま魔王城に一泊することにした。

 気をつけの姿勢で眠る賢者、毛布にくるまり丸まっている魔法使い、やたら寝相の悪い戦士2に小さく寝言で歌っている戦士などを横目に、ボンキュボンは静かに勇者を見下ろす。

 その目は魔王らしからぬ優しさに溢れていた。

(もしも私があの人の子供を産んでいれば、これぐらいの年頃か)

 他のパーティメンバーに目を向け

(昔は小生意気な奴らが嫌いだったが、今はそんな態度が可愛く思える)

 ボンキュボンは静かに目を閉じ

「勝手にモノローグをつけるな」

 照れくさそうに野菜人果実人とメイドのメイが入り口の陰から出てきた。

「バレました? でも、魔王様、勇者さん達は自分を殺そうとする敵なのに妙に優しいから」

 果実人の言葉に、他の野菜人やメイも何度も小さく頷いた。

「力の差がありすぎると敵対心も薄れるものだ。それと断っておくが、私とあの人の間に子供が出来たとしてもその子が人間の寿命で生きるのならば、とっくに死んでいる。生きているとすれば孫、ひ孫、玄孫(やしゃご)来孫(らいそん)昆孫(こんそん)仍孫(じょうそん)雲孫(うんそん)……あたりか、もうちょい先か」

「僕たちなら『先祖』『子孫』っていうレベルだよね」

 野菜人達が頷き合う。

 勇者がかるく呻きながらうっすらと目を開けた。

「起こしてしまったか。無理せずもう少し休め」

 言いながらボンキュボンが布団を直すと、勇者は軽く微笑み

「……ありがと……お母さん……」

 つぶやくように口にすると寝返りを打ち、また目を閉じた。

「勇者さん、寝ぼけてますね。魔王様をお母さんだなんて」

 微笑むメイの前で、ボンキュボンは

「お母さん……お母さん……」

 真っ赤になって身悶えた。

「あの……魔王様?」

「寝ぼけてとはいえ、私を母と思うとは……子は産まなくとも母性はにじみ出るものだな。母乳は出ないが」

 にたにた笑いながら身悶えるボンキュボンに、メイ達は一歩引いた。


 夜、ボンキュボンは寝床の中で身悶えていた。寝ようとは思うのだが、勇者の「お母さん」という言葉が頭の中で反響する。それが心地よい快楽となって眠りを妨げる。ついつい勇者が自分の子供となり、自身が母となる日々を想像してしまう。

「『お母さん』……なんて素敵な響きだ……『お母さん』……『お母さん』……むふ、むふ、むふふふふふふふ」

 含み笑いは部屋から溢れ、城内を清流のように流れ広がり、夜型の魔物達に気持ち悪がられた。


 朝。勇者達は起きると同時に全身の激痛に悲鳴を上げた。昨日のダメージがまだ残っているのだ。

「いてててて、みんな大丈夫か?」

「生きてるよ」戦士2が起き上がり周囲の仲間達の様子を見回り、部屋の隅に自分たちの装備が並んで置いてあるのを見る。

「なんか今回もあっさり負けちゃったわね。なんか癪だわ」

「とにかくみんな起きろ。食堂で朝飯食ったら一旦町に戻るぞ」

 勇者が言った途端

「起きたのか? 朝ご飯作ったから食べていけ」

 朝食をのせたワゴンを押して入ってきたボンキュボンを見て勇者達が驚いた。いつもの貝殻ビキニにスケスケ衣装ではない。白い割烹着姿で、髪は後ろに束ね翼も尾羽も小さく畳んでいる。ワゴンの食事も炊きたてご飯に焼き魚、味噌スープからトースト、卵とハム料理、コーンスープ、中華粥にシリアルと定番の料理がそろっている。ワゴン一台では足りないので、メイや野菜人・果実人達も手伝っている。

「ちょっ、ちょっと何よあんた。どういうつもり?」

 慌てて魔法使いが身構える。

「見ての通り朝ご飯を持ってきた。朝食は大事だ。しっかり食べねば私を倒せんぞ。みんな私の手料理だ。この漬物も私が漬けたんだ」

 にっこり笑うボンキュボンに、勇者達はぞっとして後ずさる。

「何を企んでいる?!」

「企むなんて……でも、できれば」頬を染め勇者を見「もう一度、私を『お母さん』と呼んではくれないか」

「は?! 何、馬鹿なことを言っているんだ」

 勇者の目が点になり、気持ち悪そうに身を震わせる。

「覚えていませんか」メイが言いづらそうに「勇者さん、昨夜寝ぼけて魔王様のことをお母さんって呼んだんです」

 戦士たちパーティメンバーがそろって勇者から飛び退いた。

「魔王をお母さんって……やだ、気持ち悪い」魔法使いがドン引きし

「寝ぼけるにしても言ったら駄目なセリフだぞ」戦士が身構え

「お前、そういう趣味だったのか?」戦士2が目を丸くし

「あんたのお母さんって、ボンキュボンに似てるの?」賢者が妙に楽しげに身をくねらせる。

「違う、違う! 覚えてない。本当にそんなこと言ったのか?!」

「はい。ハッキリ聞きました」

 メイの言葉に野菜人達が「僕も聞いた」と手を上げ、勇者が真っ青になる。

「遠慮はいらん。私のことを本当のお母さんと思って」

「思えるかーっ!」

 たまらず逃げ出した勇者をボンキュボンが追いかける。

「どうするのよ?」

「とりあえず、飯食うか」戦士が漬物をつまんで口にした「あ、うまい」


 城内では勇者とボンキュボンの追いかけっこが繰り広げられていた。

「何を照れている。ただ私は『お母さん』と呼んで欲しいだけだ。『母ちゃん』でも『ママ』『母上』『おふくろ』でも良いぞ」

「照れていない! 気持ち悪がっているだけだ!」

「反抗期という奴か。いいなぁ、1度反抗期の息子に『うるせぇ、クソババア』とか邪険にされてみたいと思っていたんだ」

「思うなぁ!」

 必死に逃げる勇者だが、ボンキュボンは城内を知り尽くしている上、神出鬼没。床から壁から天井から生えるように姿を現しては「お母さんだよ」と迫ってくる。現れる度になんだか目つきが怪しくなってくる。

「ここなら!」

 と男子トイレの個室に逃げ込む勇者だが、その目の前で閉じていた便器の蓋が開き

「そんなに逃げないで」

 と髪を濡らしたボンキュボンが這い出るように便器の中から出てくる。血走った目が病的なまでに見開き、かなり怖い。

「場所を考えろーっ!」

 たまらず勇者は男子トイレを飛びだした。


 中庭で繰り広げられる勇者とボンキュボンの追いかけっこを、半ばあきれ顔でパーティメンバーが城のテラスから見下ろしている。

「ちょっと、助けなくて良いの? ボンキュボンの目、完全にイッちゃってるよ」

 戦士2があきれ顔で他の面子に問いかけるが、彼女も動く気配はない。

「俺達がボンキュボンを止められると思うか?」

「それに、少なくとも勇者に危害を加えることはなさそうよ。母の愛ねぇ」

 賢女の言葉に魔法使いがむくれるが、彼女も戦士2同様動かない。

「けど、ボンキュボンもそんなに子供が欲しかったのなら、王様の愛人になれば良いのよ。いくらでも子種を仕込んでくれるわ」

 その時だった。まるで魔法使いの言葉を持っていたかのようなタイミングで

「ボンキュボンよ。お前の望みは予が叶えよう!」

 カクーノ国王タクロース17世がその姿を現した。しかも、おしゃぶりによだれかけ、おしめという赤ちゃんスタイルで!

 瞬間、勇者パーティの顔が引きつりそのまま石化する! もとい、石化したかのように固まった。

「ばぶーっ ママ~っ、おっぱいちょーだい!」

 赤ん坊とはかけ離れたお下劣な目でタクロース17世はボンキュボンにむかってジャンプ! そのまま彼女の豊満な胸にめがけて跳んでいく。

 その顔を見た瞬間、ボンキュボンの頭の中で「ぷつん」という音がした。

 本能的にボンキュボンはタクロース17世めがけて掌を突き出す。本能に引き出された嫌悪感からの猛烈な衝撃波が彼を直撃! そのまま城の外壁に叩きつけ、壁もろとも彼の肉体を完全に破壊した。

 壁の破片と一緒に血のついた肉片と元は服だった切れ端が舞い落ちていく。カクーノ国国王、サン・タクロース17世。即死。

 壊れた外壁の破片が降り注ぐ中、ボンキュボンははたと気がついた。

「はっ、私は何をしていたんだ?!」

 その目はいつものボンキュボンの目に戻っていた。


「すまん。あまりの嬉しさに我を忘れてしまった。許してくれ」

 タクロース17世のバラバラになった肉片、もとい遺体を入れた棺桶を乗せた台車を前にした勇者パーティたちにボンキュボンは頭を下げた。

「まぁ、蘇生代も出してもらったし、王様も少しは懲りたでしょう」

 蘇生代の入った袋を手に魔法使いがため息をついた。自国の王を目の前で殺されたのに怒りより呆れの方が大きいのは、やはり殺される原因となったあのスタイルが頭から離れないせいだろう。夢に出そうだ。

「本来なら私が責任を持って蘇生するところだが……すまん、どれだけ罵倒されようとも、こいつだけは蘇生する気にならんのだ」

 拳を振るわせ棺桶から目をそらす。勇者達もその気持ちはわからないでも無かった。

「それにしても、そんなに子供が欲しいのならどっかから養子でももらったら」

 賢女の言葉に、ボンキュボンは「養子……」とつぶやきつつ勇者を見つめ、はたと手を打った。

「何だよ、『その手があった』っぽい反応は?! とにかく、俺達は王を蘇生するために城に戻る。追っ手なんかかけるなよ」

「見送りなら良いか?」

「見送りもいらん!」勇者は呆れるように棺桶の台車をひっぱり「それじゃあな、母さん」

 言った途端、しまった! という表情になる。言われたボンキュボンも目を輝かせ

「キンさん、養子縁組の書類を揃えてくれ、魔王達へとの人間世界用」

「揃えるなぁ!」

「逃げろーっ!」

 棺桶を乗せた台車を引っ張り、勇者パーティは一目散に逃げ出した。


(おわり)


 ボンキュボンが壊れる話。壊れたボンキュボンは書いてて結構楽しかった。主人公の恋愛がらみというのはよくありますが、ボンキュボンは未だ亡き連れ合いにベタ惚れ状態なので、他の男になびきかける空気にすらなりません。ただ、子供が出来なかったことは彼女にとって心残りとして今でも引きずっていますので、今後「お母さん」は勇者にとってボンキュボン攻略のキーワードになる……かも知れません。

 そして今回、ボンキュボンがハッキリと人を殺す話でもあります。この世界では死んでも蘇生できますが、生き返ると生前に比べて体力、生命力が大きく落ち、作中では「レベルが下がる」と表現しています。どの程度落ちるかは死んだ時の年齢、生命力の状態次第。22話のように肉体の損傷がほとんど無く、死んですぐ蘇生したならばレベルはほとんど下がりませんが、肉体の損傷が激しいとレベル1で蘇生します。今回のタクロース17世や3話で灰になった勇者などはレベル1からのやり直し組です。勇者やタクロース17世はまだ若いから蘇生してのやり直しがききますが、高齢者だと蘇生に耐えきれず、生き返った途端に老衰で死亡。そうでなくても数年がかりのリハビリが必要なんてこともあります。


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