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未亡人魔王ボンキュボンの城  作者: 仲山凜太郎
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【第29話 出すんだ光線技!!】

 魔王城居住区にある寮の屋根裏部屋。そこに住むメイドのメイ・ドーデスは最近、日課となっていることがある。

「メイドビームっ!」

 腕を十字に組んでまっすぐ突き出す……が、何も起こらない。口を大きく開けて気合いと共に息を吐く……それだけである。

「出ないなぁ……ビーム。熱線も」

 ここ最近、魔王城で物騒な事件が何度も起きている。彼女自身チェーンソーで首を切られかけたことがある。幸いにも大きな被害はないが、これまでなかったからと言って、今後もないとは限らない。そのためにも彼女自身、口から熱線とか目からビームのような特殊能力がほしいのだ。実際、彼女は城主である魔王ボンキュボンに働きたいとお願いする際、それらができるように頑張ると宣言している。

「ビームを撃てるように、あたしはなる!」

 今日も両手を高々と上げ、宣言する彼女だった。


 夕暮れ時の魔王城正門。開場時間の終わりを告げる鐘が鳴り終えるとメイは野菜人、果実人たちと共に掃除を始める。「開城中」の立て看板をしまうべく持ち上げようとするのを

「メイちゃん。中に勇者さん達がまだいるから、出てくるまで待ってて」

 腕貫をつけた事務の果実人に言われて立て看板を下ろす。

「あの人達も頑張ってますねぇ」

 時々勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者オカマの勇者パーティがやってきては魔王ボンキュボンたち返り討ちにされて帰って行く。当初は城の魔物を手当たり次第に攻撃していた彼らだが、今は基本的にボンキュボンとの一騎討ち。それだけに周りも気楽に彼らを迎えている。

「勇者辞めてここに就職すれば良いのに。魔王様やピー隊長が強すぎるだけで、あの人達も結構強いんだから」

 果実人の言葉にみながうんうんと頷く。

 そこへ「メイ!」と聞き覚えのある声がした。そちらを向くと、貧相な顔をした痩せぎすな中年男が駆け寄って来る。

「お父さん⁈」

 父の登場に困惑の表情でメイは後ずさった。それに野菜人達は小首をかしげる。父との再会にしては、メイはあまりうれしそうじゃない。

「お前が誘拐され、魔王城で働かされていると聞いて心配していたんだぞ」

 父コレナンテ・ドーデスの差し出した手をメイははねのけ

「誘拐されたんじゃありません。あたしは自分の意思でここに就職したんです!」

 睨み付ける彼女と困惑するドーデスの姿に野菜人や果実人は、どうしようかと困惑する。

「あまりわがままを言うもんじゃないわよ。借金男の脱走娘が」

 含み笑いをしながら新たにやってきたのは屈強な男や魔法使い達を従えたヤナヤツ商会の令嬢ビューティだった。

「私の店を木っ端みじんにしてくれたお礼に来たわ。ちなみに、修繕費はお前の父親の借金に上乗せしておいたから」

 さすがに不味い雰囲気と感じ取ったのか、野菜人達がメイを守るようにホウキやちり取りを構えて並ぶ。

「邪魔よ、食材の化け物」

 ピューティが手を上げると、控えていた魔法使いが杖をかざす。

 正門前で派手な爆発が起きた。


 正門から離れた森の中、髪が乱れ、服が汚れたメイはビューティたちの仲間に囲まれ、父と対面していた。

「メイ。ワガママ言わずに元の職場に戻れ。子供は親の言うことを聞くものだぞ。それに、お前が戻らないと借金が返せないんだ」

 哀願する父の姿に、メイは情けなさ満載の表情を向ける。

「お父さんが真面目に働けば良いんでしょ。早くあたしをお城に帰して!」

「毎日ちゃんと働いているぞ。ギャンブラーとしてきちんとカジノ通いをしている」

「それは働いているとは言わない! お母さんが死んだのもそれが原因じゃない」

「お父さんは悪くない。悪いのは運だ! 運が悪いんだ!! どうしてそれがわからない」

 痩せ細った体でそう語る目は実に澄んでいる。自分の考えに一抹の疑問も持っていないのだ。

「ぐだぐだ言わずに戻りなさい。あんたには新しい職場を用意してあるわ。楽しい趣味の男がいっぱいいるね」

 ビューティの言葉にメイは真っ青になった。そこへ

「メイちゃ~~ん!」

 体のあちこちを焦がした野菜人や果実人たちが駆けてくる。

「お前たち、メイちゃんは渡さないぞ」

 折れたホウキと壊れたちり取りを構えて、先ほどのように彼女を守る壁となる。体はボロだが心は硬い。

「食えない食材に意味は無い! 今度こそ潰して生ゴミにしておやり」

 ビューティの命を受け、配下の者達が一斉に襲いかかる。乱戦が始まった。野菜人たちは魔物ではあるが戦闘力はあまり高くない。しかも先ほどの攻撃を受けみな負傷している。威勢だけは良いが殴られ蹴られ踏み潰され、まとめて魔法で吹っ飛ばされる。

「ごめんメイちゃん、強くなくて……」

 かろうじてそれだけ言って焦げた体を突っ伏す果実人を前に、メイはビューティや父に向き直ると強い意志で睨み付けた。

「反抗的な目ね。弱いくせに逆らうのが悪いのよ。それに魔物に人権はないわ。殴ろうが蹴ろうが殺そうが、罪にはならない」

 見下しながらの言葉にメイの体にふつふつと怒りが湧いてくる。体がぷるぷる震えだし、力が自分の中心に集まってくるのがわかる。

(今なら……)

 メイは静かに両腕を十字に組んだ。体の中の力を腕に集める。

「出ろ……メイちゃんビーム!」

 力強い叫びと共に腕から虹色の光線が……出るわけなかった。

「……どうして出ないのぉ」

 涙目の彼女に、ビューティたちが腹を抱えて笑い出す。

「何かと思ったら。あんたいくつよ。人間がビームなんて出せるわけないでしょ。魔法ならともかく」

「つまんねぇギャグなんて止めてさっさと来い」

 屈強な男が歩いてきてメイを捕まえようとしたとき、つむじ風のように飛び込んできた猫型獣人がそいつに跳び蹴りを見舞う。10メートル以上吹っ飛んだ男は大木に激突して気絶した。

「せっかく気持ちよく仕事をさぼっていたのに、余計な物事起こさないでください」

 グースカ・ピーだ。続いてさすまたと革鎧で武装した魔王城警備隊が現れ、メイや倒れた野菜人、果実人たちを守ってさすまたを構える。

「新手が来ても同じ事、やっておしまい!」

 同じ事にはならなかった。野菜人、果実人でも一般の従業員と警備隊とは使命感も戦闘レベルも違う。たちどころにビューティたちの部下を打ち倒し、魔法使いも魔法を使う間もなくピーにぶっ飛ばされた。

 残ったのはビューティとドーデスの2人だけ。さらにボンキュボンも医療班を引き連れて来て、

「メイを連れ戻したいらしいが。本人が首を横に振っている以上。見逃すわけにはいかんな」

 白衣姿の魔物達が傷ついた野菜人、果実人達を診るのを横目に、メイとの雇用契約書をビューティたちにつきつけ、いつにない強い口調で

「この通り、彼女は既に雇用契約を結んでいる。それでも連れ戻すと言うなら、こちらもお前達を誘拐犯として対応する。わかったな!」

「メイは私の娘だぞ! 親が魔物に拉致された子供を取り戻しに来ることのどこが悪い?!」

「子供はいつか親から離れるものだ。お前も親なら我が子の独り立ちを受け入れたらどうだ」

「そんな……私の借金は……。だったら魔王、お前が私の借金を肩代わりしろ」

 堂々と言い切る父の姿に、メイは情けなさで泣きそうになる。

「断る。自分の借金はすべて自分で背負え……とまで言う気はないが、お前は肩代わりする気になれない人間だ。私が定食屋のおかみだった頃、ギャンブルで家族を泣かせていた常連はいたが、子供の給食費を使い込んでも家族を売り飛ばしはしなかったぞ」

「こっちだってね。職場から逃げ出した奴を野放しにしてたら、他の連中に示しがつかないんだよ」

 ビューティの強気な言葉に

「お前のメンツのために我が城の従業員を差し出すつもりはない。遠慮はいらん。人手を集めて城に攻め込んでこい」

 周囲の野菜人や果実人達が一斉にさすまたを構える。

「ただし、こちらもそれ相応の戦力で迎え撃つ。覚悟しろ」

 森の中から獣人や吸血鬼、アンデッドたちが、森の木の上から巨人やゴーレムが顔を見せる。空をティンキーや回転ジェットのエリザベスなど空を飛ぶ魔物達が縦横無尽に飛び回る。

 いつの間にか2人は何百体もの魔物達に囲まれていた。そこへ巨大な影が彼女たちを覆う。

「この間の奴らなの……メイちゃんを泣かせた人間は」

 ドラガンの巨体が2人に影を落としていた。夕日の逆光の中、光る真っ赤な目。表情が見えないせいでめちゃくちゃ怖い。

 さすがのビューティも顔を引きつらせ後ずさる。

 そこへ勇者パーティが「待った待った待った」と駆け寄り、ビューティたちを背にボンキュボン達の前に立ちはだかった。

「すでにこの場での決着はついた。ここは素直に引き下がらせるから、お前達も引け」

「ちょっ、ちょっと。まだ負けたわけじゃないわよ。あんたたちも勇者ならこいつらを!」

 声を荒げるビューティだが、振り返った勇者達の姿を見て言葉に詰まる。勇者パーティはそろってボロボロにされていた。

「し、仕方がないわね。お前が逃げたことによって生じる違約金その他は、お前の父親に請求するわ。不憫と思うなら私たちの元に戻る事ね」

 真っ青になるドーデスを無視して早足で逃げていくビューティたち。勇者達も続いて「また来るぞ。次こそお前を倒してやる!」と捨て台詞を残して乗合馬車の停留所の方へ走っていった。


 城内医務室。医療班の手当を受けていた野菜人、果実人達が手当を受けながら

「メイちゃん。人間がビームを撃とうとしても無理だよ」

「でも、魔法で火や稲妻を出したりは出来ますよ。だったらビームだって撃てるんじゃないですか?」

「魔法という技術が生み出す現象と肉体に備わった能力とを一緒にされてもな」

 医師のブランク・ジャンクが肩をすくめる。

「お城に勤めるだけでビームが撃てるようになるなら、僕たちなんかとっくに撃てるようになっているよ。お爺ちゃんのお婆ちゃんのお爺ちゃんのお婆ちゃんよりずっと前の代からお城にいるんだから」

「やってみようか。野菜光線!」

 玉葱の野菜人が、さきほどのメイと同じポーズで両手に力を入れる。途端、ぴるるるるるとちょっと情けない効果音とと共に野菜人の手から光線が出て、医務室の壁に当たってショボい爆発をした。

「え?」

 一同が固まった。ジャンクでさえ目を点にしている。

 無言で別の野菜人が同じように腕を組んで「ベジタブル・フラッシュ!」と突き出すと、同じように光線が出て壁に命中する。

「……出たね、ビーム。威力ショボいけど」

 今度は果実人が「果物ビーム!」と同じようにすると、やはり光線が出た。当たった壁には相変わらず焦げ跡ひとつない。

「出た……やっぱり威力ショボいけど」

 メイが真似してビームを撃とうとするが、こっちは出なかった。


 魔王城の庭の隅。野菜人や果実人達が集まっては即席の的めがけてビームを撃って楽しんでいる。発射ポーズやビームの色などはそれぞれ違うが、共通しているのは威力がショボいことだった。

「まさか、本当にビームを撃てるとは」

 キンさんの報告を受けても半信半疑だったボンキュボンだが、目の当たりにしては信じざるを得ない。

 ジャンクがカルテを見ながら

「彼らの体を検査しましたが、以前と何ら変わりありません。なので、数世代前からビームを撃てるようになっていたと思われます」

「しかし、なぜ彼らは今までそのことを知らなかった?」

「原因は魔王様ではないかと」キンさんが言いづらそうに「以前、畑でかぶが魔物化したことがありました。あの時の仮説が正しかったならば、魔王様の魔力を長年浴び続けていたため、彼らはビームを撃てるようになったと考えられます。問い合わせましたが、他の魔王城にいる野菜人、果実人でビームを撃てるものはいないそうです。ですから彼らも自分がビームを撃てることに気がつかなかったのだと」

「まいったな」

 ボンキュボンが仕方がないとビームで遊んでいる野菜人、果実人に

「お前達、危険なとき以外にビームを生き物に向けて撃つな。わかったな」

 胸を張っての命令に『はーい!』と野菜人、果実人達の元気の良い返事が返ってきた。


 そして今日もメイは部屋でビームの練習をしている。今日もビームは出てこない。


(おわり)

 今回はパワーアップ編。よくあるキャラが新技を習得する話です。ちょっと習得するキャラが違うような気もしますが。ヒーローもので、主人公や敵怪人はそのままで下っ端戦闘員が(最初以外役に立たない)新技を会得する感じですか。

 ちなみに野菜人、果実人達のビーム。威力としては私は銀玉鉄砲ぐらいをイメージしています。いや、最近の読者に銀玉鉄砲では伝わらないか。海辺で水着の子供達が遊ぶビニール製のボール。あれが当たるぐらいです。よほど当たるタイミングと場所が悪くない限りは「何か当たった」ぐらいにしか相手に伝わりません。

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