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未亡人魔王ボンキュボンの城  作者: 仲山凜太郎
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【第28話 暗黒剣士志願】

 その若者は漆黒の鎧に身を固め、黒き光沢の剣をかざし宣言する。

「俺は暗黒剣士。来るべき人間世界滅亡の先方となって働こう。だから魔王ボンキュボン、俺を雇え!」

 魔王城厨房。割烹着姿の魔族達が忙しく働く中、コロッケを作るためイモを潰している割烹着姿のボンキュボンは目の前の暗黒剣士に

「すまんな。今はコロッケの制作中だ。後にしてくれ」

 そこへ腕貫を付けた事務の野菜人が

「いたいた。ダメですよ。順番を守ってください。はい、整理券」

 17と書かれた紙を差し出すのを暗黒剣士は突き飛ばし

「いかなるルールも俺を縛ることは出来ん! 俺は俺のルールに従って生きる!」

「厨房で暴れないでください!」

 料理長・三面六手の魔族シュラコックがさすがに声を荒げる。魔王城食堂厨房は彼の聖域だ。ここではボンキュボンですら彼の指示に従う。

「黙れ、たかが料理人の分際で!」

 手にした漆黒の剣で鋭い突きを、シュラコックが手にしたフライパンで防ぐ。途端、剣の方がぐしゃっと潰れた。

「ぬぁぁぁっ! 俺がゴミ捨て場から拾ってきた暗黒剣ストリップブリンガーがぁっ!」

 悲痛な叫びが食堂に響く。何しろここで使われる調理器具は極炎竜ドラガンが1兆度ブレスで鍛え上げたものばかり。それなりの魔剣より遥かに強い。


 魔王城裏庭。ゴーレム達が巨大ハンマーでひしゃげたストリップブリンガーを叩き直す横で暗黒剣士は拳を掲げ宣言する。

「俺は人間が憎い。人間世界が憎い。そのため全てを滅ぼす! そのためにもボンキュボン、お前の野望・人間滅亡に手を貸そう」

 キンさんが持ってきた履歴書には「氏名:暗黒騎士 職業:邪悪な剣士 特技:中二病剣術免許皆伝/自称拳免許皆伝/そろばん3級 経歴:無敵剣術大会(主催・暗黒騎士)優勝10回/最強格闘大会(主催・暗黒騎士)優勝10回」などと書いてある。

「勘違いしているようだな。私は人間を滅ぼす気などないが?」

 揚げたてのコロッケを食べる手を休め、ボンキュボンが答える。

「ならば人間を奴隷にしてこき使うのだな」

「奴隷にする気もないが」

「見え透いた嘘を。現にそこに女奴隷がいるではないか!」

 ドヤ顔で指さす先にはメイド姿のメイがいた。

「あたしはメイドで奴隷じゃありません!」

 メイの反論を暗黒騎士は気にも止めず

「すでに洗脳済か。さすがは魔王だな。そう言って人間達を油断させているのだろう。俺にはわかるぞ、お前が心の奥底に隠している人間への憎しみが!」

 唇をとがらせて暗黒騎士をにらむメイをボンキュボンは制し

「初対面の相手から『お前の心がわかる』と言われてもな。暗黒騎士とやら、とにかく落ち着け。コロッケ食べるか?」

「いらん!」

 強い拒絶にボンキュボンも困ったように眉を寄せ

「あいにくだが、私は人間の側から攻めてこない限り戦うつもりはない」

「嘘をつくな。お前は何度も人間から攻撃を受けているはずだ! 頻繁に勇者パーティの襲撃を受けていることはわかっているし、以前は5000の勇者軍団から攻撃を受け、撃退している」

 胸を張る暗黒剣士にボンキュボンはため息をついた。

「勇者軍団はともかく、あいつらを襲撃の数に入れたくないな。そもそもお前も人間だろう、どうしてそこまで人間を憎む? お前が憎いのは人間全てか? それとも特定の人間か、人間の組織か。会ったこともない人間を憎しみの対象にしては相手がかわいそうだ」

「俺が最も憎む人間。その名はサン・タクロース17世!」

 その名を聞いて、一同が納得したように頷いた。

「なるほど、あいつを懲らしめる程度の攻撃ならしたい気がないこともないが、それで周りの家臣達に迷惑をかけたくはない」

「懲らしめる程度とは生ぬるい! 魔王ならば全人類を抹殺するぐらいの野望を持っているはずだ」

「生憎と持っていない。お前はタクロース17世が憎いと言うが、人間……」ボンキュボンは言葉を止め「キンさん、今、世界に人間はどれぐらいいる?」

「具体的な記録がないのでかなり大雑波になりますが」キンさんがしばし考え「だいたい5億人ぐらいでしょうか?」

「そうだな。とりあえず5億人ということで話を進めよう」

 暗黒騎士に向き直り

「5億もいれば、心底腹が立つような嫌な奴が10万や20万ぐらいはいるぞ。カクーノ国だってタクロース17世の他にむかつく奴の50人や60人いるだろう。嫌な奴というのはとにかく目につきやすいものだしな。だが、それでイメージで全体を決めるのはやめろ」

「少数で全体を決めるなと言いたいのだろうが、お前は大事なことに気がついていない。その全体は、あのタクロース17世が自分たちのトップに立つ王であることを認めているのだ。全体がそのむかつく少数を持ち上げ、巨大権力を持ち、振るうことに異議を唱えず従っている。したがって全体も少数と同罪だ! 王の罪は民の罪だ!!」

「そうは言うが、王は選挙ではなく単に血統に従い継承されたものだ。民に王の選択権はない以上、王の罪は民の罪というのは無理があるぞ。選択権があっても言い過ぎだと思うが」

 ボンキュボンはそうだと言うように手をぽんと叩き

「魔王の中には人間が好きじゃないという奴もいる。そいつのところに行ったらどうだ。紹介状は書けないが」

「そいつは女か⁈」

 暗黒騎士の即答に、一同は(ああ、そういうことね)と半ば軽蔑混じりの目を向けた。

 そこへ近眼狼男のガリベンが入ってきて

「魔王様。また勇者さん達が来ました。内容はいつもの『お前を倒す。勝負しろ』です」

 それにボンキュボンはよしとばかりに目を開き

「ちょうど良い。暗黒騎士。私の命を狙う勇者達がやってきた。見事返り討ちにしてみろ。それを成せば我が城の警備隊の1人として採用してやる」

「良いだろう。俺の実力、見せてやる!」

 まだ少し曲がったままのストリップブリンガーをかざして宣言する。


 魔王城中庭。簡単なボール遊びが出来るように開けたグラウンド。隅では野菜人や果実人の子供たちが滑り台やジャングルジムなどの遊具で遊んでいる。そんな中、毎度おなじみ勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者オカマの勇者パーティに対し、野菜人が簡単に事情を説明している。

「ということで、今回は魔王様ではなく暗黒騎士さんがお相手します」

「ラスボスの前の中ボスって感じかしら」

「自分が戦う前にあたし達の体力魔力を消耗させようって作戦じゃないの?」

 鼻息の荒い魔法使いに対応する野菜人は「いえいえ、皆さん相手にそんな小細工いりません」とスルーする。

 最近結成された魔王城音楽隊が中古の楽器でファンファーレ(練習不足で所々音が抜けたり音程がずれていたりする)を奏でる中、漆黒の鎧に身を包み、ストリップブリンガーを手にした暗黒騎士が現れる。

「見かけはそこそこ強そうだけど」

 勇者達が一斉に得物を構える。

「とりあえず小手調べ。アタイが行くよ」

 戦士2が新品の長斧を構え前に出る。彼女が危ないときはすぐ加勢できるよう勇者と戦士が剣を手に控え、その後ろで魔法使いと賢者が予備詠唱を始める。

 果実人が試合開始の鐘を鳴らすと同時に戦士2が雄叫びを上げて暗黒騎士に突撃、彼女の横に払う斧を暗黒騎士は「ふっ」と鼻で笑って剣で受け止め……切れず吹っ飛んだ。

「あれ?」

 きょとんとする戦士2の前で、暗黒騎士は「痛ぇーっ」と受け止めきれず打たれた腹を鎧越しに押さえつけ、身もだえる。

 なんとか起き上がった暗黒騎士が戦士2に斬りかかるが、彼女はそれを軽く躱し、暗黒騎士を足で払って転倒させる。

「……弱い……」

 勇者がつぶやいた。彼らの目から見ても、暗黒騎士は動きも剣さばきも素人同然だった。

「やっぱりこうなったか」

 戦いを見ながら笑みを浮かべるボンキュボンに周囲の野菜人達が

「魔王様、わかっていたんですか?」

「厨房での奴の攻撃を見てわかった。奴は実戦経験がほとんどない。30人いても勇者には勝てないさ」

 ボンキュボンはもう良いだろうと言うように戦士2に歩いて行き

「勝負ありだ。それ以上は勘弁してやれ」

 暗黒騎士は地べたに転がって全く動かない。医療班の野菜人、果実人達が暗黒騎士を担架に乗せて運んでいく。

「あんたふざけてるの?! あんな素人とアタイ達を戦わせて」

「お前達のプライドを傷つけたことは謝る。ああでもしないとあいつは諦めそうになかったんでな」

 軽く頭を下げたボンキュボンの横っ面に、戦士2の斧がぶち当たった! 会心の直撃だ。

 思わず勇者達が「やった!」と拳を固める。が……

「この一撃はお詫びだ。だが、少々威力が足りなかったな」

 笑うボンキュボンの頬に少しめり込んだ斧に亀裂が入り、粉々に砕け散った。


「くそぉ、もう少しだったのに!」

 食堂の片隅で悔しがる暗黒騎士に

「約束だ。我が城への就職は諦めろ。どうしてもというなら、もっと力をつけてから再挑戦しに来い」

 言いながらボンキュボンは、粉々になった戦士2の斧を修復している。破片を集め、ひとつひとつご飯粒でくっつけていく。なんとか斧の形にはなっているもののヒビだらけで何か叩けばまたバラバラになりそうだ。

「まさか、それで修理したつもりじゃないだろうね」

 不満げな戦士2に対し

「ご飯粒を侮るな。さぁ、仕上げだ」

 ヒビの入った斧を両手で白刃取りのように挟むと魔力を込める。ボンキュボンの両腕から魔力の光が斧を包み込み、それが消えたとき、斧は元の姿に戻っていた。

「今日のところはこれで勘弁してくれ」

 すっかり毒気の抜かれた勇者達は、今更ボンキュボンと再戦する気にもなれず、今日のところは帰ることにした。

 その帰り道

「ちょっと、その斧大丈夫? 呪いでもかけられたんじゃない?」

「今のところ、妙な感じはしないね。むしろバランスが前より良くなったみたい」

 心配そうな魔法使いをよそに、斧を軽く振る戦士2。ちょうど道ばたに人間大の石があったのを見て、「うりゃ!」と斧を振り下ろす。

 途端、斧の軌跡に合わせて光が走り、石がそれに沿って真っ二つ、上の部分が滑り落ちた。切り口は磨き上げられたようにピカピカだ。

 勇者一同、あんぐりと口を開け

「……攻撃力、増してんじゃね」

「修復時に魔王の魔力を浴びて魔戦斧になったとか……」

 そこへ高笑いと共に現れたのは

「お前達、なかなか見所があるな」

 暗黒騎士である。

「特別にこの俺がお前達の新たな仲間になってやろう。魔王配下として敵対していた相手が6番目の仲間になる。なかなか燃える展開だ!」

 暗黒騎士の力説とは逆に、勇者達の目は冷めている。

「そろそろ乗合馬車の時間だ。停留所に急ぐか」

「一応、城への報告は『魔王配下の騎士を撃破、魔法の斧を戦利品として入手』ってしておくわね。嘘じゃないし」

 暗黒騎士を無視して歩いて行く。

「ちょっと待ておい。お前達、俺のような力強い仲間がいらないのか?」

『いらない!』

 勇者パーティの声が夕暮れの乗合馬車停留所に広がった。


(おわり)


 自称勇者パーティ6番目のメンバー・暗黒騎士の登場です。とは言っても今のところ今回限りの出番ですが、これではただのゲストキャラ。最初考えたときはもっと真面目に人間を憎むキャラだったんだけどなぁ。でも、この手のキャラを真面目に書こうとすると1話完結にならないから、これでいいか。

 ちなみに彼が暗黒騎士を自称しているのは「名前の響きが格好良いから」です


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