【第27話 城からハイキング~魔王ボンキュボン城から魔王山自然めぐり~】
「みんな。コース案内は持ったな。それではこれより『城からハイキング~魔王ボンキュボン城から魔王山自然めぐり~』のコース下見を行う。コースを歩いて思うところがあったら遠慮なく報告してくれ」
魔王城裏門。魔王ボンキュボンとゴールデンスケルトンのキンさんを前に、いくつかのグループに分かれた総数100体以上の野菜人や果実人、各種魔物達が「はーい」と元気よく返事をする。みなリュックを背負い、水筒を下げてまるで遠足のようだ。
「なぜ俺たちまで……」
魔物達が並ぶ中、露骨に不満顔を作っているのは毎度おなじみ勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者の勇者パーティ。今日も今日とて魔王に挑むため魔王城にやってきた途端
「ちょうど良かった。みなさんも参加してください。頂上では食べ放題のバーベキューがありますよ」
とキンさんに引っ張られて、食べ放題に惹かれた……わけではないが、いつの間にやらこのコース下見に参加することになった。
「皆さんの意見を元に何度か調整したら、一般向けハイキングコースとして開放する予定です」
要するに、魔王城をスタート/ゴール地点とする遊歩道を作って人間達に日帰りで楽しんでもらおうという企画だ。
「何なんだよこれ」
戦士がコース案内の紙を見直す。簡略化された魔王山の地図に、「のんびりコース」「絶景コース」「森の探索コース」「地下探検コース」などが描かれ、距離や時間、見所などの説明がある。難易度も1~5まである
「みなさんはこの『森の探索コース(難易度3)』をお願いします。一般の人間を想定した難易度ですのでみなさんならば楽勝でしょうが、実際に歩いてみたら……というのはよくありますから」
「要するにアタイらじゃ、難易度の高いコースは荷が重いって訳?」戦士2が不満声を上げ、「馬鹿にするんじゃないよ。最高難易度を歩かせてよ! この『ミックストライアルコース』ってやつ!」
それは各コースの見所を回る欲張りコースだが、その分距離も長く、コース間の移動がきついため最高の難易度を誇る。
「良いんですか。それじゃお願いします。お弁当と水筒をどうぞ。この発煙魔法筒は緊急時に使ってくだされば、すぐに救助隊を出します」
「救助なんていらないわよ!」
そこへ相変わらずメイド姿のメイがやってきた。リュックと水筒を身につけているところを見ると、彼女も参加するらしい。
「声が聞こえました。ミックストライアルコースに挑むとか」
彼女はそっと戦士2の手を取り、涙をこらえるような顔で
「どうかご無事で」
と頭を下げて魔物達の元に戻っていく。
「……な、何なの?」
走って行くメイの後ろ姿に、勇者達はちょっとだけコース選択を後悔した。
「狭いな。こんなところを一般人に歩かせる気か」
崖に沿った細い獣道を勇者パーティが進む。道幅は1メートル弱しかなく、踏み外したら10メートル近い崖下に落ちる。見晴らしは良いがあまり歩くのに適した場所ではない。それは城側も考えているのか、崖側のちょうど良い場所に手すりがあり、それに捕まるだけで楽になる。
「一応配慮はしているみたいだけど。魔物に襲われたらやっかいね。逃げ場がないわ」
言った途端、道の向こう側から勇者より一回り大きい4本腕の大猿が現れた。勇者達が緊張する中、大猿は
「ちょっとごめんねぇ」
言うと崖下に飛び降りた。落ちるかと思えば、崖下に同じように埋め積まれた取っ手や飛び出た木の根を器用につかんで勇者達の下を通って反対側に通り過ぎると、再び獣道に上がって去って行く。
「……確かにスリルはあるな」
「コース案内によると、この坂を登るみたいだけど」
勇者達の前には所々にコブが作られた太いロープが数本ぶら下がっている
「傾斜角85度だって」
「これは坂とは言わねえ。崖っつうんだ!」
戦士の叫びに皆が頷き、仕方なくロープをつかんで登り始める。
「ええと、地図によると途中の穴から地下水脈に入るって」
賢者の言葉通り、5メートルも登ると穴があった。中に入ると水の音と共にひんやりした空気が勇者達を包む。川に沿って歩道が完備されており、川を遡る形で進む。あちこちに生息した巨大ホタルのお尻が周囲を照らすが薄暗い。天井から落ちる水滴が彼らの体を打つ。
「夏場は涼しくて良さそうだ」
歩いて3分ほどで出口が見えてきた。激しい水の音がする。
「あ、勇者さんたち」
外に出ると、メイたちが休憩していた。そこは複数のコースの合流地点らしく簡単ながらもベンチやテーブルが用意された休憩所になっている。激しい音は滝の音だった。ただ、その滝はちょっと普通と違って
「なんだこの滝? 下から上に吹き出ているのか?」
戦士の言葉通り、滝は下から斜めに飛び出て、小さな谷を挟んだ向こう側の穴に吸い込まれるように入っていく。その距離、だいたい5メートルほど。太さは人間の大人を優に超える。
「『逆さ滝』です」
眼鏡をかけた狼男のガリベンが説明する。
「上下に波打つように曲がっている地下水脈なんですが、50年ほど前に、この下から上に行くところで崩れまして。普通ならここで流れが止まって溢れるんですが、ここに来る前、結構な距離でまっすぐ下っているせいで勢いがついて、そのまま下から上、崩れたところを超えて反対側に飛び込んでいるんです」
さすがに全てとは行かないらしく、わずかに飛び込み損ねた水が下にたまり小さな川を作っては彼らの足下を通り別の小さな川を作っている。
「時が経てば吹き出すところが削れてこうは行かなくなるんでしょうけれど、それまではこの眺めを楽しもうというわけで」
下から上へ水が流れ、飛び散る水滴が小さな虹を作っている様は風情がある。
「確かに整備すれば観光名所にはなりそうね」
休憩の後、勇者達は案内に従って近くの大木に登る。森の探索コースと共用部分だ。
「何なんだよ。『森の探索コース』って、枝づたいに進むのかよ!」
大木とは言っても枝の太さは50センチもない。手すり代わりのロープが張られているものの、そこを歩いて進むのは結構度胸がいる。見下ろすと体長2メートルほどのクモが下を歩いていた。
「あ、城からハイキングの下見ですか? 本番までにはあっしが下に転落防止用の巣を張っておきますんで、安心してください」
クモに笑顔を向けられ、勇者達の背中に悪寒が走った。
怪物に襲われることこそなかったが、コースの難易度は確かに高かった。
蔓に捕まり谷を飛び越える! ……はずが汗で手を滑らせ目標の数メートル下の岩肌に激突した。
転がり落ちる岩に追いかけられた(岩肌がもろかったようだ)。
幻覚作用のある胞子をばらまくキノコの森で迷子になった(魔物達には効果がないらしく、作用に気がつかなかったらしい)。
崖を備え付けの縄ばしごで登っていたら、出口がオーバーハング状態だった(魔物達は問題なく登れるらしい)。
鍾乳洞を抜けるときはあまりの寒さに体が凍りかけた。
やたら蒸し暑い地下通路では、遙か下にはマグマらしいオレンジ色の光が見えた。
枝を通り森を抜け、再び地下に入るあの前、勇者は一休みしながら湧き水で顔を洗う。全員怪我こそしていないがへとへとだった。
「ハッキリしたわ。親人間派を装っていても、やはりボンキュボンは魔王よ。これは人間達をおびき寄せ、疲れたところを捕まえるつもりなんだわ。そしてやってきた子供達を捕まえて食べたり、キメラの材料にしたりするのよ!」
力説する魔法使いに賢者は首をかしげ
「でも、あたしたち、これまで魔王城でキメラとか合成系の怪物って見たことないわよ。ゴーレムならあるけれど」
「これから作られるのよ。みんな、最近どうもここの連中に情が移っていない⁈」
他の4人を強く睨み付ける。
「それを言われると……否定できないのがつらいな」
「ここの飯うまいし。日常の出来事ぐらいなら情報くれるし」
実際、はじめの頃と違って最近の戦闘は魔王との直接対決を除けば、立ち入り禁止区域に入り込んで警備隊と争うぐらいだ。野菜人や果実人と戦うこともなく、最近は出会うと挨拶してくれたり、おやつを分けてくれたりもする。
「初心に返って、私たちは魔王達の活動を妨害すべきよ。まずはこんな人間を引き寄せるような仕掛けはめちゃくちゃにすべきだわ!」
地下に入るとすさまじい滝があった。遊歩道はそれをぐるっと囲むような形でらせん状に上っており、至る所に先ほど同様巨大ホタルが止まって明かりになっている。
上りながら勇者達が感嘆の声を上げる。
「迫力あるなぁ」
「感心してどうするのよ。きっと遊歩道のどこかに参加者を拉致する仕掛けがあるに決まっているわ」
床や壁を調べながら進む魔法使いに
「気をつけろ。足を滑らせるぞ」
勇者が言った途端、魔法使いが足を滑らせすっころぶ。そのまま歩道を滑り落ち、勇者達も巻き込んでひとかたまりになって滑り落ち、ついには歩道を飛び出し滝に飲まれ、そのまま猛烈に流されていく!
さきほど休憩した「逆さ滝」、水と一緒に勇者達が下から飛び出し、上へと飲まれる。一瞬ことなので滝に背を向けていた果実人達は気がつかない。そのまま勇者達は流れて行き……魔王城の外堀を気絶したままゆっくり流されるのを、野菜人達に釣り上げられた。
復活した勇者達は、半ばやけになって再びコースに挑んでいく! が、意地と焦りが災いして、途中で枝から落ち、坂を転げ、勢い余って道を間違え、蔦に絡まり、遊歩道で足を滑らせ水に流され魔王城の外堀を流れていっては野菜人や果実人に釣り上げられる。……というのを何度も繰り返す羽目になる。
魔王山頂上付近の平地。ここが折り返し地点・登りのゴールになる。ちょっとした売店があり、30人ぐらい休める休憩時のテーブルは中央部分が蓋付きの鉄板になっており、焼き肉が楽しめる。胸当湖も一望出来る絶景スポットでもある。ちなみに本当の頂上はここから徒歩10分ほどのところにある。
既に到着しているメイや魔物達が焼肉を楽しんでいる。肉の焼ける匂いと煙の中、皆が食事を楽しんでいる。
「勇者さん達、遅いですね」
焼肉を食べつつメイがコースの出入り口を見る。すでに昼を大分過ぎ、大半が帰りに挑んでいるにもかかわらず、勇者達はまだ来ない。彼女のテーブルには彼ら用の肉と野菜が取り置かれてある。
「あいつらがこの程度のコースで挫折するとは思えんが。慣れないコースで道に迷ったか? 誰か案内役をつければ良かったか」
ボンキュボンも焼き野菜を食べる手を止め、心配げに出入り口を見る。
「あまり遅いと帰りの馬車に間に合わんぞ。無理に付き合わせたこちらにも責任があるし、ゴンドラの手配をしておくか」
ちなみに帰り道を楽したいという人のために、怪鳥によるゴンドラも設置予定である。
「あ、来ました」
勇者達の姿に笑顔になるメイだが、すぐに戸惑いに変わる。勇者達は魔王と戦ってきたばかりと思えるほどボロボロになっていた。
「つ……ついた。てっぺんだ……」
皆が見守る中、勇者達は今にも倒れそうだったが、流れてきた肉の匂いを嗅いだ途端、
「肉だーっ!」
勇者達は全員瞬時に回復した。焼肉の回復力は強い。
ボンキュボンやメイが焼く肉や野菜を貪るように食いまくる勇者達。焼いたそばから彼らの腹に消えていき、酒が喉を唸らせる。
「思いのほか手間取ったようだな。何はともあれ改善箇所を思いっきりぶちまけてくれ。本番前に問題がわかるのは良いことだ」
「道に迷いましたか? ならばコース案内標識をもっと大きく、迷いそうな場所に設置しませんと」
「コース案内にもハッキリ書いた方がいいですね」
キンさんとガリベンがコース案内図に書き込むべくペンを構える。すでに案内図には他の参加者達からの意見がいくつも書き込まれている。
「俺達が言うことはひとつだけだ」
肉を飲み込むと勇者はボンキュボンを見据え
『ミックストライアルコースは廃止しろ!』
パーティの叫びが木霊する魔王山に、ゴンドラをぶら下げた怪鳥が飛んでいった。
(おわり)
城からハイキング。私がエッセイでも書いたJR東日本の「駅からハイキング」が元ネタです。
いつも舞台が城なので、城以外の魔王城敷地も書いてみました。敷地だけで見れば、魔王城は城より城以外の場所の方が広いです。山の他に湖、川、森、牧場、畑などがありますし、魔王の影響下にない野生動物も多数生息しています。イメージとしては城;城以外=1:500ぐらい広さです。山を中心に探索する学者さんなんかもそのうち出してみたい




