第九十六話:フリーター、プロポーズする
由房さまより初FAをいただきました!
女騎士エリカ・ヤンセンです。
よろしければ活動報告あるいはアーカイブをご覧ください!
ローグ山、東側の中腹。
湖畔の森のなか、ジーナ・ワーグナーの母が眠る墓標。
ジーナに言われるまま、俺とエル姫は墓標を囲む広場の草をむしる。いや、俺たちだけでなく、ドワーフのマリウス少年と護衛の男たち五人も一緒だ。
「リューキさまっ! それ! 雑草じゃなくてポポンタを抜いていますわ!」
「しまった、間違えた。でも、ちょっとくらいいいじゃないか」
「ダメですわ! 花のひとつひとつに生命があるのです。ポポンタの花に謝ってください!」
「ええー! タンポポ、じゃなくてポポンタに頭を下げるのかよ」
草むしりをさせられた挙句、ミスを叱られてしまう。しかも、人間界のタンポポに似たポポンタの花に謝れと言う。解せぬ。こちとらジーナの身を案じて黄泉の国にまで行きかけたというのに。けどまあ、口に出してしまうと恩を売るみたいだな。それはそれでイヤらしい……うむ、確かに小さな黄色い花に罪はないか。分かった、己の罪を認めよう。
「ポポンタさん、ごめんなさい。成仏してください」
穴を掘り、抜いてしまった黄色い花を埋める。
俺の行動に満足したのか、ジーナの膨らんだホッペから空気が抜ける。
「リューキさま! 素直で良いですわ! 亡くなった母上は、産まれたばかりの私をポポンタみたいにかわいいって言われたそうです。ポポンタみたいにたくましく育ってほしいとも願ったようです」
「だからお墓のまわりにポポンタがいっぱい咲いてるんだね。それはともかく、ジーナは図太く、いや、たくましく育ったから、お母さんの願いは叶ったね」
ポポンタは花を咲かせたあと、タネは綿毛にぶら下がってどこかへ飛んで行く。ジーナはそんなフワフワしたところも似てると思ったが、それは言わないでおく。亡くなった母親との思い出に水を差しそうだからね。
「さーて、お墓のまわりもキレイにしたし。リューキさま、そろそろ挨拶をお願いしまーす!」
「挨拶? 誰に?」
「ヒドーい! 何のためにお掃除したと思ってるんですか? わたしの母に報告するためでしょー!」
なんだかよく分からないが、ジーナが場を仕切りはじめる。すこぶるマズイ。ジーナが一旦主導権を握ったら、俺の話を聞いてくれない。
久々のシチュエーションに、俺はオロオロしてしまう。
「リューキよ! 早う叔母上のジークリット・ワーグナーに婚姻の報告をせぬか。それとも、人間界では、嫁を迎えるときは相手の親に挨拶をせぬのか?」
エル姫が呆れたように言う。
どうやらここに俺の味方はいないらしい。
「いきなりそういう展開? ちょっと待って、俺、ジーナに何も伝えてないぞ」
「今さらなにを言うのじゃ。リューキが人間界でローンを返済しておる間にわらわが説明しておいたぞ。礼は不要じゃ。まったく、世話の焼ける旦那様じゃのう」
うむ、至らぬ点をフォローしてもらってばかりで、第三夫人のエル姫には迷惑ばかりかけているな。なんだか申し訳な……いやいや、そうじゃない。ちょっと待ってくれ、てことは、ジーナは?
「ジーナ。お前は本当にいいのか? 俺たち、まだ知りあってから三月しか経ってないぞ?」
「ほわ!? リューキさまこそ、何を仰ってるんですかー? いいも悪いも、リューキさまはわたしが贈った衣装を着てくださってるじゃないですかー」
あらためて自分の服装を見直す。
ジーナが手作りした衣装は、ワーグナー家の紋章、龍の刺繍が施されている。そういえば、紋章入りの衣装を贈ることこそ、ジーナの気持ちのあらわれだと守護龍ヴァスケルも言っていた。
「それに……リューキさまは、衣装がそんなになるまで頑張ってくださったんですよね」
ジーナ・ワーグナーの大きな瞳が俺を見つめる。
確かに、地竜デュカキスとの死闘を経た衣装はボロボロだ。特に右の脇腹付近はビリビリに破れていて、角度によってはヘソが見えてしまう。オッサンのおヘソチラリの見苦しさはさておき、神器にも匹敵するジーナの衣装の惨状をみれば、どれほどの苦難を乗り越えてきたかわかってしまっただろう。
「けどさ。ジーナだけじゃなくて、エリカ・ヤンセン、エル姫、ヴァスケルも一緒だぞ? 皆、仲が良いからといって……」
「むーっ! リューキさま、クドいですわ! わたしたちが嫌いなんですか?」
「そうじゃないけど……」
「リューキよ。あまり、女の子に恥をかかせるものではないぞ。我が従姉妹のジーナがかわいそうではないか」
エル姫の言葉に冷静になる。
俺を見つめるジーナの大きな瞳はいつもより真剣だ。ばかりか、甘えん坊の子犬のような目はいくぶん潤んでもいた。
……俺、どうしようもないヘタレだな。魔界の住人になろうと決めたのに、ジーナを第一夫人にするって決めてたのに、ここぞってときにオロオロするなんて。畜生! 俺の馬鹿野郎! 意気地なし! いい年したオッサンがなに尻込みしてるんだ! よし、わかった! ビシッと決めてやろうじゃないか!……
「ジーナ、俺と一緒になってくれ! 俺、弱っちいし、まだ魔人じゃないけど、俺と結婚してほしい。この先もずっと俺のそばにいてくれ!」
「リューキよ。なんとも下手なプロポーズじゃのう」
「エル! ほっとけ! 上手いセリフのひとつやふたつ言えれば良かったけど、俺はこういうのに慣れてないんだ!」
「別に貶してなどおらぬぞ。ジーナを見るがよい、喜んでおるではないか」
ジーナに視線を移す。
俺の第一夫人は、ド派手な美人顔をくしゃくしゃにして号泣していた。
「えと……ジーナ。俺は言葉にした以上、ジーナを大事にするよ。ジーナのお母さんにも約束する」
「う……うう……うえーーーん。リューキさま、うれしすぎますー! 一生ついて行きますー」
「よかった、そんなに喜んでくれて俺も嬉しい。なんだかホッとしたよ」
ジーナの頭をよしよしとばかりになでると、彼女はヒシとしがみついてきた。
うんうん、かわいいもんじゃないか。
「うぇええーん。これでもう領地のことで悩まなくていいですー。スイーツも食べ放題ですー」
……はい?
「これからは毎日遊んで暮らせますー。リューキさまと一緒に人間界に遊びに行けますー。趣味のお裁縫に専念できますー」
「我が従姉妹のジーナよ、よかったのう。これで第三夫人のわらわも一生の住まいが確約できて安泰じゃ。これからも仲良くしてくれなのじゃ!」
「エルちゃん! 第一夫人も第三夫人も関係ありませんわ! それもこれも、ぜーんぶリューキさまのおかげですから。これから一緒に、リューキさまを盛り立てていきましょーね!」
「わー、なんだかよく分からないけど、ジーナちゃん、エル姉ちゃん、おめでとー!」
歓喜するジーナを、エル姫ばかりかマリウス少年も祝福する。
護衛役のドワーフの男たちも顔をほころばせながら拍手してくる。
ナンダコレ……
確かに俺はジーナ・ワーグナーにプロポーズした。
ジーナは喜んで俺の申し出を受けてくれた。
けど、なんだか思ってたのと違う気がする。
なんでだ? 俺の感覚がおかしいのか? 畜生!
最後までお読みいただき、まことにありがとうございます。




