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第九十話:フリーター、洞窟からの脱出を試みる

 ローグ山の内部、洞窟深部。


 俺、エル姫、風の精霊(シルフ)デボネア、畜生剣(ガッデム・ソード)(中身は土の精霊(グノーム)ドムドム)に新メンバーが加わった『第三次ジーナ捜索隊』は、洞窟の枝道を地上に向かってひたすら登り続ける。


 新たに加わったメンバーはマリウス・カスパー。

 マリウス少年は健脚(けんきゃく)で、捜索隊の先頭に立ってグイグイと進んで行く。


 俺たちが向かうのは、彼の父、ゲルト族長が治めるドワーフの村。

 俺はマリウスを家に帰したあと、ジーナを探す手伝いを頼むつもりだ。この際、俺たちワーグナー家とカスパー家のイザコザは言ってられないからね。


 しばらく歩き続けると、地竜デュカキスと死闘を繰り広げた空洞に着く。ほんの半日前の騒動が嘘のように静かだ。


「マリウス。この先、村に帰る道は分かるのか?」


「大丈夫だよ、分かれ道には目印をつけてるから! お父さんに教わったんだ!」


 マリウス少年が胸を張って答える。

 なるほど、ドワーフ族は洞窟で迷わないように幼いころから訓練を受けるのか。たいしたものだ。


 俺がマリウス少年の聡明さに感心していると、背後からゼエゼエハアハアと激しい息づかいが聞こえてくる。呼吸音の主は怪物ではない。俺の第三夫人を自称するエル姫の息切れだ。

 

「リュ、リューキが手に入れた竜の能力(ドラゴン・スキル)とは、たいしたものじゃのう……わらわはこれでも身体(からだ)を鍛えておったのじゃが、もう……だめじゃ」


 エル姫がへたり込んでしまう。これ以上は一歩も歩けないといった感じだ。


「リューキはん。洞窟の登り坂を二時間も駆け通しなのは無茶やでー。もちっと、エル姫はんに優しくしてあげなー」


 風の精霊(シルフ)デボネアに小声でたしなめられる。


「二時間? そんなに経ってたのか。マリウスは平気そうな顔をしてるし、全然気づかなかったよ。エル、ごめんな」


 エル姫への配慮の無さに反省しつつも、俺は自分自身の身体(からだ)の変化を実感した。


 そう。俺は龍殺し(ドラゴンスレイヤー)を成し遂げた男ーー地竜デュカキスの力を受け継いだ男だ。


 『丈夫な胃袋』

 『頑強な身体(からだ)

 『優れた回復力』


 俺が手に入れた竜の能力(ドラゴン・スキル)だ。てか、地味だと思ったけど、意外と役に立つ能力(スキル)だったな。

    

 ヘトヘトのエル姫は俺の膝を枕にして横になる。よほど疲れていたのか、寝息を立てはじめてしまった。


「エル姉ちゃん、寝ちゃったね」


「そうだね。少し休ませてあげようか」


 小休止をとることにした俺は、収納袋の口を開け、ジーナ用に用意していたスイーツを三つばかり取り出す。マリウスは甘いものが大好きだからね。


「マリウス。板チョコ以外のお菓子も食べてみるか? 『こだわりカスタードエクレア』、『ダブルクリームの贅沢シュー』、『チョコバナナクレープ包み』なんてあるけど、どれがいい?」


「すっごくおいしそう! どうしよう、どれかひとつなんて選べないよ……」


「はは。じゃあ、全部あげるよ。けど、一度に食べ過ぎないようにしようね」


 俺の言葉に、マリウス少年が目を輝かせる。


 うん、かわいいもんじゃないか。俺に兄弟はいないが、弟がいたらこんな感じかなとボンヤリと思った。


「リューキのおじちゃん、ありがとう!」


 マリウスの言葉に、俺は現実にかえる。


 そう。俺は「おじちゃん」。

 マリウス少年を肉親に例えるなら「弟」じゃなくて、「息子」か「甥っ子」の方が適切だな。ははは(乾いた笑い)


「おじちゃんの腕輪、変わってるよね。ねえ、さわってもいい?」


「腕輪? 腕時計のことかな?」


 こだわりカスタードエクレアを食べ終えたマリウスが、腕時計に興味を示す。未知のモノに好奇心が湧くのは、さすが職人気質のドワーフ族というところか。

 けれども、俺の腕時計は魔界に来てから動いていない。一緒に持ち込んだタブレット端末も起動しないので、どうやら電化製品の類は魔界では使えないようだ。残念。


「腕時計は壊れちゃってるけど、マリウスが欲しかったらあげるよ」


「えええーーーーっ!! いいの!? うわわ、どうしよう……」


 マリウスは大喜びし、それからとまどった表情を見せる。腕時計はタナカ商会で手に入れた格安品なので俺としては惜しくも何ともないが、ドワーフ族の少年は宝物のように思ってしまったようだ。


「タダでもらうと、お父さんに怒られちゃうよ。お返しはこんなモノしかないけど、おじちゃんに受け取ってほしいな。先っぽが折れちゃってるけど、ぼくが作った短剣なんだ」


 マリウスが一振りの短剣を差し出してくる。剣先が欠けた短剣は、戦闘用というより儀式にでも使う宝剣のように見えた。


「あれ? もしかして?」


 俺は畜生剣(ガッデム・ソード)を取り出す。思った通り、神器の剣先は、マリウスが差し出してきた剣の先端部分だった。

 

「わわわっ! おじちゃんの剣の先端って、もしかして?」


「ジーナのハンカチの傍に落ちてた剣の欠片(カケラ)をくっつけたのさ。どうやらマリウスの短剣の折れた剣先だったみたいだね」


「やっぱりそうだよね! でも、洞窟には鍛冶場なんかないのにどうやってくっつけたの……あ! ひょっとして!?」

 

 マリウスの視線が俺の左肩に移る。俺の左肩にちょこんと座るのは、風の精霊(シルフ)デボネアだ。

 

 ドワーフの少年は、なぜかもじもじしながらデボネアに話しかけはじめる。


「あのー、風の精霊(シルフ)様。もしかして、短剣の欠片(カケラ)から剣を作り出したのは風の精霊(シルフ)様ですか?」


「うちじゃないわー、リューキはんがやったんやでー」


「え! リューキのおじちゃんがひとりでやったの!?」


「はは。マリウス、ちょっと違うな。俺ひとりじゃなくて、土の精霊(グノーム)に手伝ってもらったのさ」 


「ええええーーー!!! 土の精霊(グノーム)様ぁあーーー!? ねえ! リューキのおじちゃんは何者なの?」


「俺かい? うーん、俺はね……」


 幼いマリウス少年にどうやって説明しようか言葉を選んでいると、周囲の暗闇から何者かが姿を見せる。


「キサマ! 動くな!! マリウス様を解放しろ!!」

 

 気づくと俺たちは包囲されていた。暗闇に紛れているのでハッキリとは分からないが、剣や弓を構えたドワーフ族の男たちが数十人、いや、百人以上いるようだ。


 俺は無駄な抵抗はしないでおく。


 ちゃんと話し合えばドワーフたちとも分かりあえるはずだからね。たぶん。 

最後までお読み頂き、ありがとうございます!


「あれ? ドムドム(畜生剣)が会話に参加してないぞ?」と思われた方。

よくぞ気づいて下さいました!

作者が書き忘れていたのではなく、ドムドムは黙っているのです。


ブクマ、評価もありがとうございます!!

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