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第七十三話:フリーター、使者を送る

いつも拙作を応援していただき、ありがとうございます。

これからも書き続けてまいりますので、応援のほどよろしくお願いいたします。

 ジーナ・ワーグナーとエル姫に会うため、黒檀(こくたん)の塔に向かう。

 居室を出て、石造りの階段を降り、薄暗い廊下を進む。長い廊下の途中、守備兵の詰所(つめしょ)から聞き覚えのある声がする。詰所をのぞくと、グスタフ隊長が十名ほどのオーク兵に演説していた。


「おめえら! よく見とけよ! こーんびーふは、こうやって開けるんだ!」


 オーク・キングのグスタフ隊長がコンビーフ缶をむんずとつかむ。ミカンの皮をむくように、メリメリと金属製の胴体部分を引きはがす。


 うむ、まったくもって間違った方法だな。


 グスタフ隊長のやり方をまねて、オーク兵たちが缶詰をこじ開ける。力加減(ちからかげん)を誤ったのか、配下のひとりは缶の上蓋(うわぶた)をベリっとはがしてしまう。


 うむうむ、力ずくとはいえ器用だ。


 ワイワイ騒ぎながらオークたちがコンビーフを食べはじめる。途端(とたん)に「ナニコレウマイ!」の大合唱が起きる。コンビーフの味はオークたちに好評なようだ。


「グスタフ隊長! オレ、生きてて良かったっす!」


「そうかそうか。カールは(いくさ)で功績をあげたから、こーんびーふを食べられるんだぞ! もっと食いたければ任務に(はげ)め!」


「隊長! もっと食いてえ! 次の(いくさ)はいつですかい?」


「ボビー。褒美がもらえるのは(いくさ)働きだけじゃない。盗っ人(ぬすっと)をとらえるとか、畑仕事に精を出すとかでもいい。ワーグナーの為に働けば、リューキ殿は評価してくれる。がんばれ!」


「グスタフたいちょー! 盗っ人はどこにいますか? 俺、捕まえてきます!」


「バード。よく考えろ。盗っ人が南瓜(かぼちゃ)みたいにゴロゴロ転がってるわけないだろ! (らく)して褒美が得られるはずがない! ほかの奴らも聞け! こーんびーふを手に入れられるのはひと握りの奴だけだ! こーんびーふを食いたければデカイことをやってみせろ!」


 挑発じみたグスタフ隊長の言葉を受け、オーク兵たちが歓声を上げる。「こーんびーふ! こーんびーふ!」の大合唱。兵たちの掛け声にあわせて、コンビーフの空き缶が高々と掲げられる。


 なんじゃこりゃあ?

 まあ、そうだな……コンビーフは偉大なり、か。


「おお、リューキ殿! いま、論功行賞(ろんこうこうしょう)を行ってたとこです。オーク兵たちの士気は高いですぞ! オレたちのこれからの活躍に期待してください!」


 オーク・キングのグスタフ隊長が声をかけてくる。缶の開け方は下手だが、四百名の配下をもつ隊長としてはなかなかの振る舞い。


「して、リューキ殿はどちらへ?」


黒檀(こくたん)の塔だ。ジーナとエルに土産を渡そうと思ってね。相談したいこともあるし。グスタフ隊長も一緒に来るか?」


「いえ、オレは用事があって、その……」


 グスタフ隊長が口ごもる。勇ましく演説していた隊長の面影は消えつつある。

 そういえば、グスタフ隊長は幼いころに幽霊に追いかけられたトラウマで、黒檀(こくたん)の塔に近づきたくないと言っていた。


 部下の前で顔をつぶすのは申し訳ないので、俺は話を切り替えることにした。


「新しく領地になったホプランに使者を送りたい。女騎士(ナイト)エリカ・ヤンセンとゴブリン・ロードのジーグフリードの元にだ」


「ホプランは、元はダゴダネルの首都だった都市。ずいぶん遠いですな」


「そうだ。できるだけ急ぎたい。足の速い部下を推薦(すいせん)してほしい」


 話を聞いていたオーク兵たちが我先(われさき)に名乗り出る。もちろん褒美(コンビーフ)目当てだ。任務に名乗りを上げること自体は悪くはないが、どうみても走るのが遅そうなオーク兵も手をあげている。


「ボビー。おまえは二番隊で一番足が遅いじゃねえか! こーんびーふが欲しいからってやたらと手をあげるんじゃない! バード。おまえはトンデモなく方向音痴じゃねえか! おまえほど使者に向いてない奴はいねえ! ……ふたりとも積極的なのはいいが領主(ロード)リューキ殿に迷惑をかけるわけにはいかない。自分にあった仕事を頑張れ」


 グスタフ隊長がバシッと裁断する。

 ボビーとバードの両名はしぶしぶ(うなず)く。

 

「その点、カールは適任だな。足は速いし力もある。だが、使者がひとりだけというのは……」


「父ちゃん! オイラに行かせてくれよ! オイラは足は速いし剣の腕だって上達したよ!」


 守備兵の詰所(つめしょ)の入り口からオークの少年が顔を出す。グスタフ隊長のひとり息子、オルフェスだ。父親に届け物でも持ってきたのか、少年の手には大きな布袋があった。


 (ひげ)のないスリムなグスタフといった感じのオルフェス少年が、真剣な表情で父親に訴えかける。


「父ちゃん、頼むよ。オイラに使者ってやつをやらせてくれよ!」


「オルフェス、バカなこと言うな。ガキの遊びじゃないんだぞ!」


「違うよ! 領主(ロード)のおじちゃんに恩返ししたいんだよ。おじちゃんが金貨をくれたおかげで、母ちゃんの薬を買えたんじゃないか! 父ちゃんだって泣きながら感謝してたじゃないか!」


「バ、バ、バカ野郎! そんなことばらすんじゃねえ! いいから引っ込んでろ!!」


 唐突に始まる小鬼(オーク)の親子の鬼ごっこ。オーク・キングのグスタフ隊長はオルフェスに飛び掛かる。が、ひょいっと避けられて転んでしまう。グスタフ隊長は顔を真っ赤にさせながら立ち上がり、懸命に息子を追いかけるが一向に捕えることができない。

 俺が見る限り、グスタフ隊長が手加減している素振(そぶ)りは見えない。オルフェス少年は相当すばしっこいのだろう。


 使者に選ばれたカールが、オルフェスを捕まえる。


「あっ! 離せ! 離してくれよ!」


 オルフェスは必死に(あらが)うが、カールの手から逃れられない。


「カール、よくやった!」


「グスタフ隊長、ちょっといいっすか? ホプランへの使者ですが、オレ、オルフェス坊やと一緒に行きたいっす!」


「カール? なにをバカなことを。これはオレら親子の問題だ。他人は口をはさまないでくれ!」


「隊長、なに言ってんすか? オレらのなかで、隊長が全力で追いかけて捕まえられない奴がどれだけいるんすか? 少なくともオレよりオルフェス坊やの方が逃げ足は速いっす。任務に適した者を親子だからって外す方が問題じゃないっすか?」


「う、ぐぅ」


「それに、オレはジーグフリードさんどころか、女騎士ナイトエリカさんとも面識がない。オルフェス坊やがいた方が、使者の役割は果たせるんじゃないっすかね?」


「そーだよ、父ちゃん! カールの兄ちゃんのいう通りだよ!」


 グスタフ隊長が調子に乗った息子の頭をゴンと殴る。

 しばらく考えたあと、おもむろに口を開く。


「オレが初陣(ういじん)を飾ったのは十歳だ。おまえも十歳になったことだし、やってみるか?」


「ホントかい!? 父ちゃん、ありがとう! オイラ、がんばるよ!」


 グスタフ隊長が、ふたたび息子の頭を殴る。

 

「父ちゃんじゃねえ! これからは隊長と呼べ! わかったな!」


「う、痛てえよ、と……隊長」


「いいか! 戦闘に巻き込まれたらこんなもんじゃすまねえぞ! ただし、使者の仕事は戦うことじゃない。ヤバいときは逃げろ。これは隊長としての命令だ!」


「わかったよ、隊長。マズいときはさっさと逃げるよ」


 グスタフ隊長の命令をオルフェスが復唱する。

 新たな仲間の誕生に、オーク兵たちが微笑む。


 うむ、なんだかほのぼのとした決着となって良かったな。



 使者二名の人選が済み、俺は急いで手紙を書いた。


 ゴブリン・ロードのジーグフリードへの手紙にはインスタントスープの素の大袋をひとつ付けた。

 女騎士(ナイト)エリカ・ヤンセンには抹茶ベースのチョコレートだ。本当はエリカには抹茶系の和スイーツを付けたかったが、ホプランまでの旅程は十日程度かかるとの話から諦めた。スイーツは日持ちしないからね。エリカへのお土産は当分収納袋で保管だな。


 そんな感じで使者の手はずを整えたあと、俺は黒檀(こくたん)の塔に向かった。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

はやいもので2018年も本日最後です。

来年も精進してまいりますので、引き続きよろしくお願い致します。


来年も皆さんにとってスバらしい年となりますよーに!

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