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第六十八話:フリーター、雇用する

「人生の途中ですがヤキトリと名乗ることになりました。」を執筆されているmonkey_sun さまよりレビューをいただきました。ありがとうございます!


またまた多くの方々からブクマ、評価をいただきました。

ありがとうございます、おかげさまで年を越せそうです!

 タナカ商会の事務所。

 簡易ベッドがふたつ並んだ宿直室。


 宿直者用のシャワールームで俺はさっぱりする。下着からシャツ、ジーンズまで、タナカ商会で手に入れた服に着替える。 


「ふうっ、さっぱりした。ヴァスケルもシャワーを浴びるか?」


「あん!? あたいはイイよ。そんなことしなくても汚れは落とせるからね!」


 本性が守護龍(ドラゴン)のヴァスケルは、格好を自在に変化(チェンジ)できる。なので、シャワーを浴びなくても構わないようだ。くっ、残念……おっと、心の声が漏れてしまったな。イケナイイケナイ。煩悩退散(ぼんのうたいさん)煩悩退散(ぼんのうたいさーーん)


 (あね)さんヴァスケルが隣の簡易ベッドに腰を下ろす。俺の方は見向きもせず、食い入るようにファッション誌を眺めている。


「タナカさんや竹本さんは頼んだ商品の手配で徹夜するらしいけど、俺は仮眠を取らせてもらうよ。さすがに疲れたからね。ヴァスケルは大丈夫なのか?」


「あたいは二、三日寝なくても平気さ! ワーグナー城に戻ったらゆっくり休ませてもらうよ。そんなことよりさ、リューキ! コレを見ておくれよー! 夏向けのワンピースがいっぱい載ってるんだよ!!」


 (あね)さんヴァスケルが声を(はず)ませる。すっごく楽しそう。けれど、残念ながら俺にはヴァスケルの説明がこれっぽっちも理解できない。


 マキシ? ミモレ? カシュクール? オフショル? 

 (たけ)の長さ? 素材の違い? 形状?


 ふーん、そーなんだ……てか、何度聞いてもさっぱり頭に入らない。よくぞヴァスケルは短時間で学習できたものだ。つーか、こういう話が頭に入らないってことは、俺も竹本さんたちと同じオッサンだからか? くっ、認めざるを得ない真実ってやつか。なーんて思いながらも、俺はテキトーに(あい)づちを打つ。ヴァスケルが嬉しそうな顔をするからね!


 とはいえ、疲れが限界に達した俺はいつしか眠りに落ちてしまった。


◇◇◇


「ふっ、うふふふっ」


 姐さんヴァスケルの喜ぶ声に目覚める。


 腕時計の表示は五時半。タイムリミットの十時まで十分(じゅうぶん)時間はある。正味(しょうみ)三時間少々の睡眠だが頭はスッキリした。


 俺は起き上がり、ヴァスケルを見る。


「リューキ! 目が覚めたかい! あたいの格好はどうだい? 結構イケると思うんだよね!」


 壁掛けの鏡から視線を外しながら、ヴァスケルがこちらを向く。


 ヴァスケルはペイズリー柄のワンピースを着て、誇らしげに胸を張っている。

 ワンピースは両肩が露出し豊かな胸が一層強調されるデザインだが、(たけ)が足首まで隠れそうなくらいロングなせいか、落ち着いた大人(おとな)の雰囲気を(かも)し出している。

 色っぽい方の大人(アダルト)ではなく、淑女(しゅくじょ)の方の大人(おとな)だ。


 満面笑みのヴァスケルはくるりと一回転する。

 ワンピースの葡萄(ぶどう)色が部屋中に広がったように思えた。


「えと……いままで見た中で一番似合ってるかも」


「ホントかい!? うれしいこと言ってくれるねえ! んじゃあ、次は何にしよーかねえ!」


 ヴァスケルが俺のベッドにどかりと腰を下ろす。真剣な表情でファッション誌を眺める。もうひとつのベッドの上は広げられた雑誌が所狭(ところせま)しと積まれている。実に研究熱心ですな!


 ベッドがふたつとも占拠されたので、俺は部屋を出ることにする。


 そういえば、この雑誌の山はどこから来たのやら?


 俺の疑問は竹本さんたちがいる事務室に入った直後に解決された。


「あら? 辰巳(たつみ)さん、おはようございます!」


「不動産屋さん? どうしてここに? そうか。タナカさんの(めい)って話でしたね」


「母がタナカの妹です。伯父貴(オジキ)が、いえ、伯父(おじ)が大層お世話になってます!」


 オジキ?


「……俺の方こそ助けてもらっています。タナカさんの話では、ミヤコさんにはヴァスケルが欲しがっている雑誌や化粧品(コスメ)やの手配をお願いしたんでしたね」


「そうです! ヴァスケルの姐御(あねご)、いえ、ヴァスケル様にファッション誌をお渡ししたのですが、満足していただけたご様子でした。化粧品(コスメ)妹分(いもうとぶん)たち、いえ、かわいい後輩たちが頑張って集めています!」


 お姉さんの言葉のチョイスがいちいちおかしい。なんとなく嫌な予感がする。


(あん)ちゃん、目が覚めたかい。(あん)ちゃんが注文した品だが、全部は揃わないなあ。手に入ったぶんは倉庫に集めたけど……」


「オジキ! チンタラ仕事してリューキの親分を困らせるんじゃねえよ! ったく、ヴァスケルの姐御(あねご)のぶんだけじゃなくて、親分のぶんもウチに任せりゃあ良かったのにさ!」


 ミヤコさんがパンチパーマのタナカを叱る。


 ナニその口調?


 見慣れた光景なのか、(そば)にいる竹本さんと権藤(ごんどう)は何も言わない。てか、ふたりともうつむいたまま顔を上げない。


「ミヤコ……()が出てるぞ。大事な客人の前だ、口の()き方に気をつけろ!」


「あっ!? えーと、その、リューキさん。なんでもありません! タダの空耳(そらみみ)ですわ。おほほほ」


 随分(ずいぶん)とクリアな空耳があったものだ。それとも俺は疲れているのか? いや、仮眠は取ったし、頭はスッキリしている。

 うむ、ミヤコさんは不動産屋では営業用の顔をしていたけど、なかなかの性分(しょうぶん)みたいだな。


(あん)ちゃん、すまねえ……ミヤコは母ひとり娘ひとりで育ったんだが、コイツの母親に頼まれて俺が預かる機会も多くてさ。俺も忙しいときは、子守り代わりにDVDばっかり見せたせいか、影響を受けちまったようで……」


「DVD? 映画か何かですか?」


「ああ。俺の好きな任侠(にんきょう)モノだ。おかげでミヤコはすくすくと威勢(いせい)よく育って、ここら一帯ではなかなかの顔に……」


「オジキ! 余計なこと言うんじゃねえ! ぶっ殺されてえのか……えっと、おほほですわ!」


 仕事がデキて、香水の匂いがちょっと強めのアラサー姉さん。

 そんなイメージの不動産屋さんは、極妻(ごくつま)系というかヤンキー姉ちゃんだった。


 おう! なんてこったい!? 

 どうして俺の周りには強い女ばかり集まるんだ?


「ところでリューキさん。タナカのオジキ、いえ、伯父(おじ)に聞いたのですが、リューキさんは警察と裏取引して権藤(ごんどう)の身柄を確保しただけでなく、密輸した金塊を山ほどお持ちとのこと。お願いです、私を我具那(わぐな)組に入れていただけませんか?」


「なんだか盛大(せいだい)にカン違いしてるみたいだけど、ミヤコさんを我具那(わぐな)組に入れるのはできないよ」


「そこをなんとか! ウチ、なんでもします! 権藤(ごんどう)のアホが若い女にトチ狂って〇×電気工業を倒産させたせいで、この街に住む妹分(いもうとぶん)たちも仕事を失いました。お願いです! 私たちを我具那(わぐな)組で雇って下さい!」


 いやいや、お姉さんひとりを雇うって話じゃなくなっているよ?

 我具那(わぐな)組だって誤解が生んだ空想上の組織だしさ。


 うーむ、どうしよう……


「リューキ。ミャーコはイイやつだよ。面倒みてやりなよ」


「ヴァスケルの姐御(あねご)! ありがとうございます! このミヤコ! 生涯(しょうがい)忠義(ちゅうぎ)を尽くします!」

 

 ひょっこりあらわれたヴァスケルが、話をまとめてしまう。

 というより、ヴァスケルはファッション雑誌や化粧品(コスメ)が目当てだろう?


 あーもう……まあ、いいけどさ。

 でも、俺は人間界には月に一度しか来ないぞ?


(あん)ちゃん。ミヤコの話は()に受けなくていいからな。コイツなりに妹分(いもうとぶん)たちの生活を心配するのは分かるが、(あん)ちゃんにムリなお願いするのは……」


「はあ!? モジャモジャは何てこと言うのさ! リューキがイイって言ってんだよ! なあ、リューキ!」


「もちろんさ。ヴァスケルの言う通りだ!」


 俺はいつOKしたんだろうか?

 とはいえ、思わず条件反射的に賛同してしまった。もう後には引けないね。

 あーもう! みんなまとめて、どーんと来いだ!


「タナカさん、(きん)の延べ棒は返さなくていいです。ぜんぶ託します。ミヤコさんの後輩さんたちをタナカ商会で雇って下さい。事務仕事から営業、配送まで人手(ひとで)を増やしてビジネスを拡大して下さい。この際、新規事業でも何でもはじめちゃってください。俺は月に一度しか来ないけど、また運転資金を持ってくるのでとにかく頼みます」


 どうだ! 

 どーんと丸投げだ!

 来る者拒まず。来た者預ける。

 うむ。困ったときはお互い様だな!


「あ、(あん)ちゃん!? 俺がやるのかよ?」


「大丈夫! タナカさんならデキるよ! 俺、信じてるから。頑張って!」


「そんな、とてもじゃないけど……」


 パンチのタナカがへなへなと腰を落とす。

 その背中に幼なじみのふたりがそっと近づく。


「タナカ、私も手伝うよ。労務や総務なら任せてくれ。それに、私はこれでも世の中の裏表を多少は知っているからやっかいな交渉事も引き受けるよ」


「竹ちゃん……」


「私にもやらせてくれ。どうやら私は死んだことになってるから、表立った仕事はできないが、これでも従業員が五百人いる会社を二十年以上経営していたんだ」


(ごん)ちゃん……」


 オッサン三人がヒシと手を握り合う。

 ビジュアル的にはイマイチだが感動的なシーンだと思う。

 なにはともあれ頑張ってくれ!

 

「ところでミヤコさんの後輩は何人くらいいるの? それと、言葉遣(ことばづか)いは直さなくてもいいよ。ざっくばらんにいこう」


「いいんすか? すいませんねえ……で、ウチの妹分(いもうとぶん)の総数は三千ってとこです。でも、雇ってもらいたいやつらは三十人くらいですから安心して下さい」


「三千? ミヤコさんはレディースの総長かなんかだったの?」


「十代のころは関東一帯でヤンチャしてました。てか、どうぞウチのことは『ミヤコ』と呼び捨てにして下さい!」


 半身(はんみ)の姿勢でミヤコが言い切る。「おひかえなすって」なーんて言いそうな姿勢だ。ミヤコはどうやら任侠モノだけでなくて時代劇の影響も受けていそうだ。とんだ幼児教育の賜物(たまもの)だな。


「配下が三千もいるなんて、ミャーコはたいしたもんだねえ。まあ、リューキにはその何十倍もいるけどね」


「ヴァスケル、説明ありがとう。けど、みんな引いちゃうから俺の説明はそれくらいにしとこうか」


 俺はヴァスケルをたしなめる。数字に間違いはないが、わざわざ言う必要はない。だってほら、ミヤコさんが俺を尊敬の眼差(まなざ)しで見はじめちゃったじゃないか!


 人間界への帰省はちょっとした休息タイムのつもりだったのにな……畜生(ちくしょう)


 魔界と人間界を行ったり来たり。

 どうやら、どちらの世界も気が抜けなくなってしまったみたいだ。はは。

最後までお読み頂き、ありがとうございます!


リューキさんの生活はハッピーになってきているのか大変になってきているのかどちらでしょうか?

すくなくとも充実した日々は送っているようですから良しとしましょうかね!


本作を読まれたすべての方に幸運が訪れますよーに!

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