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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
あの日の真実と、青年を助けた英雄編
98/124

Curse Walker: Sacrifice of Life forDream(カース・ウォーカー:サクリファイス・オブ・ライフ・フォー・ドリーム)〈後編〉

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


I組第二授業から、ずっと離れて戦っていた外部の冒険者達と、記憶持ちの生徒達。


そしてようやく語られる——彼等と別れた後、どんな激戦を繰り広げていたのか……


そして、ネリカが助かり記憶持ちに参加した真相も明らかに——


《Death of the Academia》をお楽しみください

「アーサー……起きて。風邪引くよ……?」


僕は信じない、認めない。

君が死んで、僕とエラリア神だけが——あの子達を助けるカギになるなんて。


肩を揺らし、何度も呼び掛ける。

それでもアーサーの体は、ゆっくりと確実に冷たさを増していく。


扉を開いて脱出しようにも、どこに帰ればいいのかも分からない。

寒さで思考と決断力が鈍くなっていた——


「リゼルド? アーサーはどうしたの?」


背後から聞こえたのは、エラリア神の疲弊しきった声。

彼女は、アーサーが諸刃の剣を放った瞬間から――精神そのものが擦り切れていた。


「帰りましょう、エラリア様。お体が冷えてしまいます……アーサーも、温かい場所へ連れて行かなくては……」


その言葉で、凍りついた思考が少しずつ動き出す。

僕はアーサーの上半身を抱き起こし、その胸に耳を当てる。


微かに動く心臓の鼓動――だがその間隔は不規則で、氷の大地が砕けるような心音が、聞こえた。


徐々に僕の鼓動も早くなる。

不安と恐怖に苛まれながら、耳を離した。


あまり長くは持たない――そう悟った僕は、アーサーを背負おうと身構え、同時にクレヴァスをエラリア神へ託そうとした。


その瞬間——


ティオルの凍結に、ひび割れが走った。

反射的に、僕はアーサーを庇うよう身を屈める。


絶え間なく氷結が裂け、砕け散りながら、ティオルは息を吹き返すように復活を遂げた。

だが、弱った僕等を仕留めるわけではなく――闘技場の屋根を突き破り、夕焼けに染まる空へと舞い上がった。


背には、コウモリのような羽。

そして僕の視線を射抜いたのは、瞼に涙を浮かべるティオルの瞳だった。


憎悪や、凍結を破いた悦びでもない。

ただ、どうしようもない痛みを抱えた顔。


その涙がこぼれる前に、ティオルは空を駆け、遠くへ飛び去っていった。


彼にどんな感情があったのかは、分からない。

——いや、知ろうとするのさえ、今はもったいない。


「エラリア様、クレヴァスに肩を貸してやってください……」


「うん……分かった」


喪失感のあまり、彼女の声には微かな力も残っていない。

ルルナとして、そしてエラリア神として――アーサーを愛していた。

自らの命より大切な存在が、生死の淵に揺らいでいる状況なんて——耐えられるわけがない。


「クレヴァス、大丈夫……?」


僕が目を覚ました時、隣で気を失っていた彼が重い瞼を開ける。

うつろな瞳――だが一瞬で状況を悟ったのか、クレヴァスは反射的に身を起こした。


「ティオル様達は――!」


「今ここで長話はできない。アーサーの再封印を信じて、新しい隠れ家に急ごう……」


頭の中が、ぐちゃぐちゃにかき乱されている。

アーサーを助けられるのか。助けられなかったら――記憶持ちの皆に、何と言えばいいのか。


答えのない雑音が脳内に反響する中、僕はふらつく足で扉を抜け、新しい異空間の隠れ家へと辿り着いた。


上質な内装が広がっていたはずなのに、何も頭に入ってこない。

今の僕には、ただアーサーを救うことだけが全てだった。


無我夢中で彼をベッドに横たえた、その刹那——


足元の力が抜け、視界が傾いた。

倒れ込む寸前、扉を突き立てて支えたことで、強かに頭を打つ。

鋭い痛みが走り、血がこめかみから伝った。

だがその痛みこそが、意識を現実へと無理やり引き戻す。


「……っ」


流れ出る血を素手で拭い、光の魔力を注いで止血する。

まだ倒れるわけにはいかない。


「二人とも、手を貸して。まずは、アーサーの体を元に戻してあげたい」


再封印の影響で、心臓は凍結しかけていた。

節々には氷がこびりつき、剥がれ落ちるたびに皮膚は爛れている。


光属性は、幸福を運ぶ代わりに、使い手へ災厄をもたらす——二面の鏡。


光は闇の呪いと、一心同体。

アーサーの傷を癒すということは、術の発動者が代わりに、その痛みを受けるということになる。


だけど——彼が命を懸けたなら、僕等も命を懸けて応えるしかない。


「アーサーの外見や細胞も、一部修復が必要だ。エラリア様を起点に……クレヴァス、君は余計なことは考えずに——魔力を注ぎ続けて」


三人が輪を作り、手を取り合う。

アーサーの体は温かい光に包まれていく。

冷たく腐食した肌が少しずつ色を取り戻して再生する。


剥がれ落ちた皮膚も新しい細胞となって蘇り、呼吸が安定し始めた。


――助かるかもしれない。


そう思った瞬間。

アーサーの体が痙攣を起こし、光の中で大きく震えた。


「ぐ………うっ………………あぁぁぁぁ!」


刹那。アーサーが断末魔を上げ、強制的にクレヴァスの光属性の魔力が弾かれた。

暴走か――それとも、クレヴァスの思考に迷いが差し込んだのか。


「アーサー! 気をしっかり持って、負けちゃ駄目!」


エラリア神が必死に呼び止め、アーサーを鼓舞する。

だがその声も届かず、アーサーは苦悶に顔を歪め続けた。


込み上げる咳と共に吐血し、呼吸は乱れ、命の灯が揺らぎ、今にも消えそうになっていく。


「もういいんだ………ルルナ……」


諦めを帯びた静かな言葉。

その響きに、僕の胸には怒りとも、悲しみともつかない衝動が再び溢れた。


「何を言ってるの……いいはずないでしょう! 貴方は生きるの! これから私と、一緒に幸せに暮らすためにっ……!」


エラリア神――いや、ルルナは、震える手で彼の手を強く握りしめる。

涙が雫となって指先を濡らし、彼女の決意を刻む。


「死ぬなんて、絶対許さない……!」


クレヴァスと繋がれていた左手をそっと解き、アーサーはルルナの髪を優しく撫でた。

その仕草に、全ての感情と愛を乗せて——最期の言葉を綴る。


「ルルナ……ごめんね。愛してる。――クレヴァスも、短い間かもしれないけど………リゼルドとエラリア神を、守ってあげて」


そして、腰のポケットから取り出したのは――深い湖を閉じ込めたように澄んだ神秘の結晶。


「死ぬ前の一仕事ってわけじゃないけど……これを学園の誰かに届けられれば………あの子達も、きっと喜んでくれるよね」


結晶は淡い光をまとい、船が水面を漕ぎ出すように流れていく。


「そうだ………アラリックと、必ず生きるって……言ったのに。――約束……………守れなくて、ごめんなさい」


ゆっくりと目を閉じ、静かに、音もなく――その命は途絶えた。


隠れ家に響いたのは、ルルナの慟哭だけだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます!

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