Curse Walker: Sacrifice of Life forDream(カース・ウォーカー:サクリファイス・オブ・ライフ・フォー・ドリーム)〈前編〉
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
I組第二授業から、ずっと離れて戦っていた外部の冒険者達と、記憶持ちの生徒達。
そしてようやく語られる——彼等と別れた後、どんな激戦を繰り広げていたのか……
そして、ネリカが助かり記憶持ちに参加した真相も明らかに——
《Death of the Academia》をお楽しみください
「武器を下ろせ。俺の指示に従わなければ、封印を解く……」
冷淡で、おぞましいティオルの声色が、闘技場の空気を圧迫する。
首筋に押し当てていた剣を、僕はゆっくりと下ろした。
神の封印を解かれては、エラリア神を守る前に――僕もアーサーも人間である以上、真っ先に死ぬからだ。
誰もが切り札を突きつけられ、抗う術を失った――そう思った。
その時——
あの異空間で聞き慣れた、頼れる声が静寂に響く。
「一歩も動かずに、武器を下ろせばいいんだっけ?」
アーサーは迷いなく剣を手放し、そのまま蹴り飛ばす。
宙を回転しながら氷結を描く刃が——掲げられたティオルの右手を、正確に断ち切った。
切断された腕は鮮血すらなく、氷のように凍りつき、粉々に砕けて闇へ溶けた。
あまりに無謀な行動に、エラリア神は叫んだ。
「アーサー!」
一瞬、場の緊張が極限に達した。
しかし当の本人は気にも留めず、口元に笑みを浮かべ、ティオルを嘲るように言い放つ。
「君が言ったのは、『一歩も動かず武器を下ろせ』という命令。――ごめんね。足が滑っちゃった」
蹴り上げた剣は、氷の形を成しながらアーサーの手元に戻る。
ティオルは、右手の断面を瞬く間に凍結させながらも、アーサーへ鋭い視線を突き刺した。
「言ったはずだよ……もう僕は、君の言いなりにはならない」
アーサーの頬に浮かぶ氷結の紋章が、淡く輝きを放つ。
その身を再び神性めいた魔力が包み込み、空気は張り詰め、背筋が凍る感覚が走った。
反射的に後ろを振り返る。
異空間でアーサーの背に帯びていた光輪の結晶が――今は僕を見据えるように、静かに揺らめいている。
「っまさか……! ――アーサー、本気なの?」
「最初からそのつもりだったよ。俺は、仲間の為なら命を懸けれる」
確かに、初めて光輪を見た時は——こちらも切り札として使うしかない、と考えていたけど……
でも——
目的を達成しているのなら、尻尾を撒いて逃げても恥ずかしいことじゃない。
なら、わざわざ命を懸ける必要って何?
「どうせ神の封印が解かれれば――僕は散りに帰る。だからその前に、ここで悪しき存在を消し飛ばすのが、最善手だ」
アーサーの瞳が氷を宿し、決意に冷気が吹き抜けた。
この国の海域にも匹敵する魔力が、闘技場を包み込む――
氷結の薔薇が咲き誇り、吹雪は強く視界が白く——前が見えなくなっていく。
氷結が広がるたびに、アーサー自身の体も凍結し始め、徐々に欠片となって皮膚が崩れ始める。
かがり火は凍り、灯は消えた。
五人の神が眠りし鏡も、氷結が辿ってゆく。
「辞めて! アーサー、戻ってきて……!」
エラリア神が、必死にアーサーを呼び止める。
僕も光の魔力で、術を無効化しようとするもの——彼の魔力は、何人たりとも通さない。
——本当に、神として進化を遂げている最中なのかもしれない。
ようやく、僕等の願いの声が届いたのか――アーサーは振り返って、静かに告げた。
「エラリア様、これから先……俺のことは忘れて幸せに生きてください。――リゼルド……君は、アラリック達を……ちゃんと助けてあげてね」
周りを切り捨てて、一人だけで逝こうとするその言葉に、怒りと悲しみが込み上げる。
エラリア神は静かに涙を零し、その場に崩れ落ちる。
それでも、アーサーを包む術は止まらず、魔力は膨張し続けていた。
もし今、術を完全に解き放てば――世界の呪いである選別が、解放されるのかもしれない、という淡い期待が膨れ上がる。
それでも僕は——どうか、もうやめてほしいと……心の奥底で願わずにはいられなかった。
「ばいばいティオル、次会う時は地獄で――」
ティオルを射抜くように見据えたアーサーの瞳は、勝ち誇る光を宿しながらも――その奥で、瞳孔が不安げに震えていた。
彼の胸から、水属性魔力の結晶が浮かび上がり、天へと昇っていく。
ノクトヴァール神が慌ててその手を伸ばす。
だが、指先が触れた瞬間――氷結が一気に駆け上がり、腕そのものを凍りつかせた。
本物の神さえも凌駕する魔力の強さに、僕等はもう立ち尽くすことしか出来なかった。
結晶に亀裂が走り、そこから濃い蒼光が闘技場を照らし出す。
やがて、氷結は連鎖するように爆ぜ――闘技場そのものを氷海へ、変えていった。
光も音もない、虚無の中で僕が目にしたのは――何か言葉を呟くアーサーだけだった。
……あれから、どれくらい時間が経ったのか分からない。
何分なのか、何時間なのか――僕は、ふと目を覚ます。
視界に広がったのは、見る影もない雪原の光景。
封印された五人の神も、ティオルと、ノクトヴァール神さえも――石像のように凍りつき、時を止めていた。
アーサーが打ち放った魔力の残滓が、冷気と共にまだ漂っている。
白い靄に視界が霞む中、僕は必死に声を絞り出した。
「アーサー……! どこにいるの、返事をして——!」
まるで暗闇を手探りで進むように、震える手を前に伸ばしながら歩を進める。
その間も声は聞こえない。霧がかかり、寒さが張り詰める静寂の中で――がむしゃらに足を動かした。
――その時、不意に誰かとぶつかった。
金属が落ちる音、そして何かが倒れた鈍い音が響く。
まるで誘導していたかのように——霧が晴れ、視界が広がる。
しかしそこで見たのは、理解を拒む信じがたい光景だった。
おそるおそる視線を落とすと—— そこには、属性魔力の欠片を握りしめ、静かに眠るアーサーの姿があった。
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