Curse Walker: Defiant Believer(カース・ウォーカー:ディファイアント・ビリーバー)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
I組第二授業から、ずっと離れて戦っていた外部の冒険者達と、記憶持ちの生徒達。
そしてようやく語られる——彼等と別れた後、どんな激戦を繰り広げていたのか……
そして、ネリカが助かり記憶持ちに参加した真相も明らかに——
《Death of the Academia》をお楽しみください
「クレヴァス。貴方は、貴方が信じた道を行きなさい」
クレヴァスは酷く動揺し、体は寒さに怯えるように震えていた。
ティオルは、ノクトヴァールに騙されていても、自身の信仰心を貫き――志を共に持たない私へ剣を向けた。
——かつての仲間を突き放してまで。
「私は、貴方が敵になろうと――味方になろうと、目指すべき場所は変わらない。信仰心を裏切っても、仲間を裏切っても、後悔しない決断を下しなさい」
クレヴァスは、迷い彷徨う様子で――鞘に手をかける。
震える右手で剣を握ろうとした時、彼は不思議と呟いた。
「……何かを捨てなければ、前には進めない」
クレヴァスの中で、迷いが消えたようだった。
震えていた右手は力強く柄を握り、真っすぐ私達を瞳に映している。
「俺はどちらの味方でもない。けれど、貴方が信仰心を貫いたように――俺も信仰を貫きます!」
雷鳴が迸り、私達の間を裂くように——刹那の一閃が闘技場を揺らした。
「雷鳴の型、竜神ノ雷」
クレヴァスの斬り裂いた空間から、雷竜がティオルの腸に喰らいつき、唸りを上げながら地へ叩きつける。
何度も、放電する光を放ちながら舞っている。
「俺はずっと、貴方の背中を追ってきました。……だけど、ノクトヴァール神が代行者を操っていると聞いて、俺の中に疑問が生まれたのです」
雷竜が咆哮を上げ、ティオルを壁に投げつけると——彼は小刻みに震えていた。
やがて、竜は稲光が消えるように消え去り——私やノクトヴァールは、クレヴァスの決意を見据えていた。
「まぁ………その程度の忠誠心だった、というわけです。本当に、俺の知っているティオル・マキリスなのか分かるまで、どうかご自愛ください」
クレヴァスが刀を向けると、刃が淡い光に包まれ——その光は腕のように伸び、壁に項垂れたティオルを抱き上げる。
そして彼を、アリーナに立つ自分の足元へと横たえた。
裏切りの中でも、ティオルに対するクレヴァスの想いは――決して曲がっていない。
「良かったの? ティオルじゃなくて私を選んで」
「構いません。でも、貴方を選んだわけじゃない。――自分がついていく主を見定める為の過程にすぎません」
もしティオルこそが最も必要な主だと判断すれば——彼は再び私達を裏切る。そんな未来も……というわけね。
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驚いたよ。僕達からすれば、クレヴァスは突然裏切ったように見えたんだ。
これで、少しでもいい方向に行くと――思っていたんだけどね。
「神に対しての信仰心……良い心がけである。しかし我に仇なす者は、排除する――!」
ノクトヴァール神は、大太刀を容赦なく振り下ろす。
その瞬間――眠っていたティオルの瞳が、ギラリと開いた。
大太刀が地を割った刹那、アリーナは真っ二つに砕け、白煙が噴き上がる。
エラリア神とクレヴァスはその勢いを利用して、高く跳躍した。
「しまった……! ティオル様がっ!」
——白煙を裂いて、紫の閃光が奔る。
宝石のような輝きは、一直線にクレヴァスの刀を貫かんと迫った。
「――っ! エラリア神は、ノクトヴァール様を!」
やはり、行く手を遮ったのは——ティオルだった。
エラリア神に向かって、彼は必死に叫ぶ。
彼女は突き刺さった太刀を足場のように駆け上がり、刃に光属性の魔力を集束させてノクトヴァールの顔面へと——狙いを定めた。
眩い閃光が天を切り裂いた刹那——
ノクトヴァールが大口を開き、糸状に細い黒煙のブレスを吐き出した。
「エラリア……!」
アーサーの弱り切った叫び。
エラリア神は素早く体勢を切り替え、一本の剣で闇息を断ち切っていく。
その姿を見ながら、クレヴァスはティオルと刃を交えつつも、扉の結界を解き放つ。
——そして僕達は初めて、闘技場の床を踏みしめた。
「リゼルドは、クレヴァスをお願い! 俺はエラリアを助けるから」
「分かったよ。こっちは任せておきなさい!」
僕は足元に扉を開き――地中で出口に繋がる扉、ティオルの元へ泳いでいく。
その間も、激しく剣と刀がぶつかり合う音が、耳を劈く。
刹那――
金属が弾ける鈍い衝撃音が響き——僕はティオルが次に放つ一撃を読む。
クレヴァスに迫る刃先を遮るように、地中から出口の扉を開いた。
思い切り扉を開け――剣を突き出し、ティオルの攻撃を寸前で弾く。
刃と刃が擦れ合い、火花が舞い散る。
今だ――!
一瞬の隙を見逃さない……! ティオルが衝撃で体制を崩した瞬間――僕は地中に開いた出口の扉から、全身を投げ出すように躍り出た。
剣を円を描くように薙ぎ払い、その勢いのまま振り下ろす――
だが、黒い霧が再びティオルの身を包み込む。
だけど――今の僕には、関係ないよ!
振り下ろした刃が霧を裂き、閃光を奔らせて闇を貫く。
その奥から、狂気を孕んだ瞳が射抜くように僕を待ち受ける——
次の瞬間には、刃と刃が噛み合い――甲高い金属音が悲鳴を上げる。
交差する刃を通して伝わる圧力は、ただの戦いではない。
——心の奥底まで覗き込まれるような、異様な圧力だった。
やがて、ティオルの剣がうねりを見せると――黒炎玉が膨れ上がる。
自分に放射される光景を前にして、反射的に光の玉を生み出し——迫りくる炎を包み込むように爆ぜさせた。
轟音とともに白煙が舞い上がり、視界を覆いつくす。
だけど、もう迷わない――
僕は煙を切り裂き、迷いを断ち切るように一歩を踏み出した。
「これで……終わりだ――!」
剣を振り抜こうとした、その時——
視界に映ったティオルの姿に、思考が止まる。
剣を構えることも、身を翻すこともなく、ただ人形のように立ち尽くしていたのだ。
そして――
傀儡めいた動作で、右手を天へと掲げる。
「全員、止まれ!」
クレヴァスの鋭い叫びが、戦場を切り裂いた。
誰もが動きを止め、時間そのものが凍りついたかのように静寂が広がる。
「見えなくても分かるでしょう……この人が、何をしようとしているのか」
全員の視線が、掲げられた掌に集まる。
僕は視線だけを滑らせ、封印された神々の方へと向けた。
何も見えない。だが直感で悟る。
ティオルの掌から伸びる鎖が、あの鏡の中に眠る——神に繋がっていることを。
「今から、一歩でも動いてみろ……貴様等に、神の鉄槌を下してやろう」
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